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渦巻く思考と妻の夢 カルロ視点

カルロ(ブライトン侯爵)視点

 

 頭の中がぐるぐると回っている。彼らを最初に見た時から、どこか他の子供たちとは違うと感じていた。マッドがギルドの扉を開けて、あの三人が入ってきた時の光景は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。まるで、まばゆい光に覆われて輝いているように見えたんだ。

 

 私は鑑定持ちで、レベルも高い。それに、人を纏うような何かがごく稀に見えたりすることがある。この現象が見え出したのは5年ほど前からで、いまだにそれが何なのかはっきりとはしない。だが、かつて凶悪犯と言われる男を見た時、その身体が濁った黒い物で覆われているのを見たことがある。だから、私は人の本質が色になって見えているんだと思っていた。しかし、人当たりの良い神父を見た時にも同じように黒い物が覆っていたので、鑑定してみたが、彼は犯罪を犯してはいなかった。

 

 その時は混乱したが、時々しか見えない現象なので、あまり深く考えないようにしていたんだ。だが、三ヶ月後にその神父が人身売買に間接的に携わっていることが明らかになった時、やはりあれは人の本質を表しているのだと確信した。

 

 ただ、同じような凶悪犯でも、その「色」が見える者と見えない者がいるのが、どうしても理解できないでいる。

 

 俺の妻は、現国王の腹違いの妹だ。貴族学校で知り合い、お互いに惹かれ合っていたが、身分が釣り合わず、一度は諦めるしかなかった。しかし、彼女に背中を押され、俺は必死に努力し、地位を得て結婚することが叶ったんだ。

 

 俺たちは結婚して、妻は比較的早くに妊娠した。しかし、魔力量の多い者同士だったためか、残念ながら流産してしまった。それ以来、子供を望めなくなり、妻からは何度も別れるか側室を持つかしてほしいと言われたが、俺は妻を深く愛しているから、そんなことをする気にはなれなかった。跡継ぎを選定しているこの時期に、彼らと出会ったのは、決して偶然ではないと俺は思っている。

 

 家に戻り、妻に彼らの話を切り出した。妻は俺の話をじっと聞きながら、静かに呟いた。

 

「私、半年前に夢を見たの。深い森の中で、三人の天使が笑いながら話している夢……。着ているものは汚れていたけれど、とても輝いていて、この世の者とは思えない光景だったわ。その時はただの夢だと思っていたんだけど、この前ミシェランに行った時に、マクミラン伯爵の店でとても綺麗な木箱と、可愛らしい鳥の鞄を見たのよ。よく分からないんだけど、あの時の夢と何だかそれらが妙に重なって見えてしまって……伯爵に尋ねると、その品々は『天使たちが作った』と言っていたのよ。ねえ、カルロ、私もその天使たちに会ってみたいわ」

 

 妻はそう言って微笑んだ。妻は「神からの祝福」と言われる『母なる力』というスキルを持っている。その力については、俺にもまだよく分かっていないことが多い。王族の者は時々、こういった不思議な才能が現れるが、それは必ず何か意味があるとされている。

 

 妻は明日、彼らに会うのをとても楽しみにしている。クッキーを焼こうか、ケーキを買ってこようか、さっきからずっと俺に聞いてくる。こんなに喜ぶのだったら、今日連れてきてもよかったと思うくらいだ。

 

 しばらくして、部下が襲撃者について新たに分かったことを報告にきた。彼らは王都でも有名な犯罪組織の下っ端で、主に人身売買を行っている者たちだった。人身売買で狙われるのは、身寄りのない子供がほとんどだ。

 

 彼らが狙われるのは当然だろう。あれほどに美しい子は、上流貴族の中にも滅多にいない。それに、あの子たちが持つ目の色は、既に滅んだとされるノーステリア人の色だ。

 

 妻もノーステリア人の血を引いており、青い瞳をしている。マッドの瞳は妻の持つ色にとてもよく似ている。それにリオとキャロルの水色の瞳は、古文書に記載されているノーステリア人の王族の色ではないかと思われる。

 

 そういえば、マーカスが先日ここに来たのも、マクミラン伯爵から頼まれて彼らについて相談に来たんだ。私が直接保護下に置かないのであれば、正式に三人をマクミラン伯爵家に引き取らせてほしいと話してきた。マクミラン伯爵は、彼らの要望次第では養子も考えているとまで言っていたな。

 

 彼らを保護するのは、もはや俺の義務だと分かっている。だが、同時に胸の奥で渦巻く感情がある。彼らを保護するという名目で、俺が彼らの自由を縛りつけてしまわないだろうか? 彼らは「普通に暮らしたい」と願っている。俺が彼らを守ろうとすればするほど、彼らのその願いを奪ってしまうのではないかという恐れが、どうしても拭えない。

 

 それに、あれだけの才能を隠し続けるのは容易ではない。大人になり、公の場に出れば、必ず気付く者が現れるだろう。もし、彼らの真の力が知れ渡ってしまえば、今の人攫い以上の危険が彼らを襲うかもしれない。そうなった時に、俺は、ただの辺境貴族の身分で、果たして彼らを守り抜けるだろうか? その重圧に、心が押し潰されそうになる。

 

 だが――いや、守らなければいけない。この手を離すわけにはいかない。

 

 初めて彼らを見た時から、まるで我が子のように、どうしようもなく気になっていた感情がある。特にマッド……。彼の瞳の奥には、どこか俺と似た覚悟と、隠しきれないほどの優しさが宿っている。俺はどうしてもあの子が他人には思えないんだ。そして、この目とこの身で、彼らの成長を一番近くで見守りたいという、抗いがたい願望が俺の中にある。

 

 この胸に去来する、複雑な思い。これを妻に打ち明けるべきだろうか。ミラン(カルロの妻の名前)なら、この俺の葛藤を理解してくれるはずだ。

 

 ミランに、俺の感じているこの思いを告げてみようと思う。

 


 

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