変わらぬ朝と明かされる真実 マッド視点
マッド視点
夜中に起こった騒動がまるで嘘だったかのように、朝食は穏やかに進んだ。キャロルは少し元気がなかったが、俺とリオがいつも通り振る舞うと、次第に笑顔を見せてくれた。
カルロさんは、予定通り10時に俺たちの小屋に一人で事情を聞きにやってきた。俺たちの周りのことを話す時、カルロさんはいつも真剣な顔で俺たちの目を見てくれる。信頼できる大人だ。
カルロさんの話では、昨夜の襲撃者たちは、見目の良い子供たちを攫って売買している常習犯で、指名手配もされている悪質な連中だったらしい。奴らは、親のいない見目の良い子供が三人だけで暮らしているという噂を聞きつけ、俺たちのことを確かめにルルソン村まで来たそうだ。俺たち三人を見て、「これは大当たりだ!何が何でも攫って売り飛ばし、贅沢な暮らしをしてやろう!」と盛り上がっていた、と聞いて、胸が悪くなった。
俺はカルロさんに入門検査では引っ掛からなかったのかを聞いた。
「偽装スキル持ちの奴に金を払い、ごまかしていたそうだ。それより、俺もお前たちに聞きたいことがある」
カルロさんの言葉に、リオが「はい、何でしょうか?」と真剣な顔で返した。
「奴らが言うには、小屋に近寄ろうとしても何かに弾かれてしまい、近寄れなかったと言っている。取調べをした者は聞き流していたが、俺は嘘だとは思えない。今日は真実を聞くために、俺は一人でここに来た。俺はお前たちを守りたい。だが、教えてくれないと守りたくても守れない」
カルロさんのまっすぐな言葉に、リオは俺を見て頷いている。カルロさんの言っていることは真実で、隠し通すのはもう限界だと、リオも感じているのだろう。俺もキャロルも交互に見ると、二人とも静かに頷いてくれた。
俺は全てを話すことに決めた。
正直なところ、昨夜の襲撃で、俺は強く痛感した。奴らを撃退する戦闘能力は俺たちにある。だが、その背後にいる組織の存在、そして何より、俺たちが身寄りのない子供であるという事実が、どれだけ危険なことなのかを思い知らされた。権力も後ろ盾もない子供のままでは、どれだけ強くなっても、こうした厄介事からリオやキャロルを完全に守りきることはできない。もし今回、村に襲撃者が入り込んで、誰かが傷つけられていたら……。考えるだけでぞっとする。この厳しい世界で、俺一人ではどうすることもできない事がこれからも起こるだろう。どれだけ目立たないように振る舞っても、俺たちはどうやら目立ってしまう運命にあるらしい。
カルロさんは信用できる大人だし、何より権力を持つ貴族でもある。そして、何よりも全てを話した方がいいと、俺の直感が強く告げていた。
「カルロさん。俺たちは、以前ミシェランでの出来事で話に出ていた、『十人の転生者』の内の一部だと思います。そう『思う』って言うのは、残りの7人とは全く面識がないからです。俺たち三人は、ただ普通に暮らしていきたいだけだし、何か悪さをしようなんて全く考えていません。カルロさんは鑑定持ちですよね。どこまで俺たちの事が見えているかは分かりませんが、最初から気付いていましたよね。リオ、俺の偽装を解除して貰ってもいいか?」
俺がそう言うと、リオは俺の顔をじっと見つめてから、にっこり笑った。
「マッドのだけじゃなくて、僕とキャロルのも解除するよ。どうせなら、全部見てもらった方が、カルロさんも安心するでしょ?」
リオの言葉に、カルロさんが驚いた様子で俺たちのスキルを見ている。以前よりも俺たちのスキルはさらに増えているから、無理もないだろう。俺自身、自分のスキル欄を見るたびに、その多さに驚くくらいだ。
マッド:14歳 8月生
風属性 魔力特大
男神アマスの加護
直感、空間、鑑定、修理、解体、地図、気配察知、速読、修復、魔法陣、速記、建築
大剣、体術、防御
契約魔獣:ラピス
リオ:14歳 9月生
氷属性 魔力特大
女神イシスの加護
真偽判定、空間、偽装、釣り、採集、解体、罠、農業、庭師、木工、彫刻
ナイフ、体術、俊敏
契約聖獣:スノウ、契約動物:クロ
キャロル:12歳 12月生
土属性 魔力特大
女神イシスの加護
幸運、空間、生活、採掘、遠見、採集、調達、古代語、薬草学、裁縫、細工、気功
弓、護身術
契約聖獣:ピッピ
カルロさんは、俺たちのスキルリストを食い入るように見つめていた。その表情は、驚き、困惑、そして理解不能といった感情が入り混じった複雑なものだ。鑑定スキルの情報が、彼の常識を遥かに超えていたのだろう。資料を持つ手が微かに震え、目が大きく見開かれている。彼は何度か口を開きかけたが、言葉にならないのか、ただ喉を鳴らすだけだった。まるで、目の前の現実を処理しきれないように、ゆっくりと、深く息を吐き出す。そして、ようやく絞り出すように言った。
「聖獣と契約しているのか……。参ったな、想像以上だ。凄すぎてどうしたものか……」
言葉の途中で何度も詰まり、額に冷や汗が滲んでいるのが見て取れる。普段の冷静な彼からは想像もできないほど動揺している。
「俺の他に知っている者はいるのか?」
「カルロさんだけです。他には言っていません」
俺の言葉に、カルロさんは大きく頷いた。
「君たちの希望は普通の暮らしと言うが、それほどの才能を隠して暮らすのは難しいだろう。それに、たとえ才能がなくても、君たちの容姿は目立つ。……分かった。明日、妻を交えて話がしたい。私の家に夕食を食べに来てくれないか。もし可能であれば、聖獣や動物たちも連れて来てくれると助かる」
そう言うと、カルロさんは静かに帰っていった。
リオに再び偽装をかけてもらい、いつものように俺たちは過ごした。
リオもキャロルもいつも通りに笑っている。
人攫いが村にやって来たのは、俺たちが原因だった。村に攫われた子供がいなかったのは幸いだったが、今まで面倒を見てくれた村の人たちは、俺たちを受け入れてくれるだろうか。そんな不安が頭をよぎる。
そんなことを考えていると、リオが俺の顔をのぞき込むようにして話し掛けてきた。
「マッド、大丈夫だよ。多分だけど、カルロさんは俺たちを保護してくれるんじゃないかな?カルロさんは良い人だし、俺たちが嫌がるようなことは絶対にしないから、心配いらないよ。それに、もし万が一、村から追い出されたら、3人でまた森で暮らせばいいじゃないか!」
リオのその屈託のない笑顔とポジティブな言葉に、少しだけ心が軽くなった。
「そうだな。三人一緒なら、それも悪くないかもな」
俺たちはこれからもずっと、三人一緒なのは変わらない。




