充実した生活
ルルソン村に戻ってすぐに、私たちは正式に土地を購入した。
「マッド、もう少し土地を買って畑を育てないか?」
リオがそう提案すると、マッドもすぐに「賛成だ!俺も色々と建てたいからな」と目を輝かせた。
「私も賛成!薬草園を大きくしたいわ」
私の言葉に、リオが楽しそうに「じゃあ、どうせなら川まで広げられるといいな。役所に確認に行こうか!」と声を弾ませた。
そして、私たちは念願の広い土地を手に入れた。毎日が目まぐるしく、だけど充実した日々だ。
土地を購入した翌日、私たちは早速、整備に取り掛かった。朝から日差しが降り注ぐ中、マッドは大きな石や丸太を運び建築に取り掛かり、リオは整えた畑を耕し、私は土魔法を駆使して薬草園を作り始めた。普段のクエストとは違う、穏やかで前向きな作業だった。
三人とも使える空間魔法は、重い資材を軽々と運んだり、土を効率的に移動させたりするのに大活躍した。土地の整備も、空間魔法のおかげで予想以上にスムーズに進み、その便利さにはいつも驚かされる。
「ねえ、この辺りに記念として木を植えない?」
私が声を上げると、二人とも「いいアイデアだな」と言って大賛成してくれた。
「それなら俺たちが森で住んでた時の木を植えようか?」
「僕たちの森にあった変わった形の木のこと?」
「さすがにあの木は持ってこなかったよ。でも、もしかしたらあの木の子供かもしれない」
「苗木ってこと?」私はマッドに聞いてみた。
「ああ、そうだよ」
「よし!じゃあ、キャロルが今立っている辺りに三人で一緒に植えよう。僕たちの土地のシンボルになるね」
リオが笑顔で言うと、マッドも「そうだな、どう育つのが楽しみだな」と頷いた。
三人で汗を流しながら、未来の畑や薬草園、そして理想の家について夢を語り合う時間は、何物にも代えがたい宝物だ。日が暮れる頃には体はへとへとだったけれど、心は達成感と期待でいっぱいだった。
聖獣のピッピの結界は、今では土地全体に張れるようになった。しかもかなり強力で、一度張ってしまえば一週間は問題ないらしい。この結界は、敵対者や攻撃してくる魔物だけを対象にするから、村人には一切影響がないのが本当に素晴らしい。
リオの聖獣のスノウも、土地を買ってからさらに成長した。敵を状態異常にしたり、逆に状態異常を治したりできるようになったし、何より危険察知を覚えたのは心強い。危ないことがあると、スノウが小さく鳴いて教えてくれるから、とても頼りになる。
マッドは、私とリオの望んでいた工房を作るために、以前の家を増築してくれている。彼が持つ建築スキルは本当にすごくて、設計図を描くのも、実際に建材を組み上げていくのも、驚くほど早い。地下も作って魔法陣も描きたいと言っていて、その瞳はいつになく輝いている。
リオは木工スキルで、工房に置く作業台や棚、そして私たちの新しい家で使う家具の制作を担当してくれている。彼が丁寧に作る家具はどれも温かみがあって、使いやすそうだ。
そして私は、裁縫スキルを活かして、家の中を彩るカーテンやクッション、テーブルクロスなどを作る予定だ。生活魔法が使えるから畑の手入れや水やりなんかは、とても効率的で助かっている。
ミシェランでの様々な経験が影響したのか、私たち三人のスキルもさらに増えていた。
マッド:魔法陣、建築
リオ:彫刻、農業、木工
キャロル:護身術、古代語、薬草学
私の新たなスキルである古代語はちょっと変わったものだった。このスキルがあると魔力量が若干増えるだけでなく、古代に活かされていた知識が身に付きやすくなるもののようだ。例えば魔力消費量を減らしたり、古来のレシピを再現出来たりといったことが出来るのではないかと思う。
今日は、溝掃除以来親しくなったミーナと一緒に、再び溝掃除クエストを受けている。リオは今日はマッドと一緒に解体作業のクエストを受けているから、ここにはいない。
「キャロル、あのね、聞いてくれる!?」
ミーナが、いつにも増して頬を赤く染めて、興奮した声で話しかけてきた。
「どうしたの、ミーナ?何かいいことでもあった?」
私が尋ねると、彼女はもじもじしながら、とびっきりの笑顔を見せた。
「私、ハイドと婚約することになったのよ!だから、もうこの村から離れなくてもいいの!」
「まあ!本当!?良かったじゃない、ミーナ!おめでとう!」
私は心から嬉しくなって、ミーナの手をぎゅっと握った。
「ふふ、どうもありがとう!キャロルたちも、早く素敵な人が見つかるといいのにね!」
ミーナの言葉に、私は少し照れてしまう。
「キャロルたちは学校に行くって言ってたけど、村を離れるの?」
ミーナが少し寂しそうに尋ねたので、「まだ正式には決まってないから分からないし、まだ調べている最中なの」と答えた。
「そうなのね。そういえばね、ハイドったら、最近妙にソワソワしてるなと思ったら、あなたと一度で良いからデートしたいって言ってる友達がいる、なんて言い出したのよ!」
ミーナがいたずらっぽく笑う。
「デート!?」
突然のことに、私は思わず目を丸くしてしまった。まさか私にそんな話がくるなんて。
「まあ、キャロルには立派なナイトが二人もいるから無理って、ちゃんと言っておいたけどね!」
ミーナはそう言って、私をからかうようにウィンクした。
ミーナの言葉に、私は何だか顔が熱くなって、俯いてしまった。マッドやリオのことを言っているのは分かっているけれど、直接言われるとどうにも落ち着かない。
無事に掃除も終わり、ミーナと冒険者ギルドまで一緒に行った。
ギルドに着くと、マッドとリオが待っていてくれた。ミーナは二人に挨拶をすると、顔を真っ赤にしながら、足早に去っていった。
「俺たちも帰ろうか」
マッドが言うと、リオが楽しそうに提案した。
「久しぶりに串カツ買って帰らないか?」
リオの提案に、私も大賛成だ。
「そういえば、魔法学院の資料をカルロさんが揃えてくれたから、後でキャロルもリオも目を通しておいてくれ」
マッドが書類の束を差し出した。
「どうせなら、マッドが『ここがすごいぞ魔法学院!』とか『ここがダメだぞ魔法学院!』って、ビシッと説明してくれる方が、僕としてはわかりやすいんだけど」
リオがブツブツ言うと、マッドは腕を組み、ニヤリと笑った。
「少しだけだぞ。カルロさんから預かった資料はこれだ。内容は俺も確認した。全体的には悪くないが、何を学びたいかによると思う。それと魔獣討伐は必須科目のようだから戦闘がある程度出来ないといけないようだ。とにかく先ずは自分で読んだほうがいい」
「まあマッドがそこまで言うなら、ちゃんと見るよ!キャロルもね!」
リオが私に同意を求めるように言うので、私も苦笑しながら「ええ、もちろんよ」と頷いた。
こんな何気ない会話でも、三人でいれば幸せだと感じる。
マッドやリオと出会わなければ、私はどうなっていたんだろう。
二人がいない生活なんて、今では考えられない。これからもずっと一緒に歩んでいきたい。そのための努力は、決して惜しまないつもりだ。
神様、私たちは今、とても幸せです。
どうか、このままずっと幸せに暮らせますように。
私は静かに、心の中で祈った。




