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ルルソン村へ帰る

 ついにルルソン村へ帰る日が来た。ミシェランでの日々は本当にあっという間で、色々なことがあったけれど、全てが楽しかった。この世界でちゃんとやっていけるという自信も少し持てたし、これから何をしたいかという目標も、ぼんやりとだけど見つかった気がする。ルルソン村でお世話になった方々へのお土産もバッチリ買えたし、帰る準備はもう万全だ。

 

 まずルルソン村に帰ったら、今の土地を正式に購入する予定になっている。私とリオは、何をおいても工房が欲しくてたまらないので、マッドには最優先で私たちの工房を作ってもらうようお願いした。

 

 マッドは、私とリオの工房を別々に作る計画を立ててくれている上に、書庫まで作ってくれるらしい。今から完成が楽しみで仕方がない。きっと、この村での新しい生活が、想像以上に充実したものになるだろう。

 

 リオが突然「ルルソン村へ荷物を運ぶクエストを探しに行こう!」と言い出したので、私たちは冒険者ギルドへ向かうことにした。彼のそういう行動力、本当に頼りになる。

 

 ギルドに着くと、アデルさんが温かく対応してくれて、ちょうど良いクエストを紹介してくれた。市場の武器屋へ入荷した珍しい鉱石を運ぶ仕事だという。とても高価な鉱石らしいけれど、量は少ないから私たちでも運べる、と聞いてホッと胸を撫で下ろした。これは嬉しいクエストだ。

 

 ミシェランでお世話になった方々への挨拶は、もちろん済ませてある。特に、いつも温かく見守ってくれたお爺さんは、別れる時に涙目になっていた。他人ではあるけれど、今ではまるで本当の身内のように思える。そういう出会いができたことが、何よりの収穫かもしれない。

 

 当初はカルロさんと帰る予定だったのだけど、マーカスさんがルルソン村に用事があるらしく、マーカスさんの馬車で一緒に帰れることになった。

 

 馬車は街を出た途端、ぐんぐんと加速していき、あっという間にものすごい速さで走り出した。本当に驚くほど速いけれど、揺れはほとんどなく、とても快適だった。高級馬車は違うなと感心していると、カルロさんが私たちの疑問を察したように教えてくれた。なぜこんなに速く走れるのかと聞くと、普通の馬ではなく、魔馬が引いているからだという。

 

 なんでも、魔馬は生まれた時から手元で育てて、相性が良ければ稀に契約ができるらしく、とても貴重な存在なのだそうだ。この魔馬はマーカスさんの契約魔獣だから、マーカスさんの言うことしか聞かないらしいけれど、ルルソン村までは休憩なしでも走れるから問題ないとのこと。何事もなければ、明日の昼前にはルルソン村に到着するそうだ。ちなみに、マーカスさんの魔馬は、丸一日走った後は丸一日寝続けるらしい。なんだか人間みたいで可愛いなと思った。

 

 馬車の中でお弁当を食べた後は、それぞれが好きなことをして過ごした。マッドはミシェランで買った本をものすごい速さで読み進めている。リオは彫刻刀を取り出して、器用に何かを彫っていた。私は、ピッピに似たぬいぐるみを編んでいた。完成したらマッドにプレゼントしようかな。

 

 カルロさんはマッドと同じくらいすごい速さで書類を確認している。一方、マーカスさんは御者をしながら寝ているように見えるのだけど、大丈夫なんだろうか。少し心配になったが、どうやら慣れているらしい。

 

 夜になり、いつの間にか私は眠ってしまっていた。目が覚めたら、外はもう明るい。マッドもリオもすでに起きていて、静かに本を読んでいたけれど、カルロさんはまだ寝息を立てていた。

 

 しばらくすると、マーカスさんが大きな声で私たちに話しかけてきた。

 

「お前ら、あと10分ぐらい走った先に川があるから、そこで少し休憩させてもらうぞ!」

 

 その声で、カルロさんが目を覚ましたようだ。

 

「おはようございます、カルロさん」

 

「ああ、おはよう。君たちはちゃんと眠れたか?」

 

「はい、よく眠れました!」

 

「よし、魚を釣って朝ごはんにしよう!」と、リオが嬉しそうにそう言って、早速釣り竿を準備し始めた。その手際の良さに、カルロさんが目を丸くして尋ねた。「その竿はどうしたんだ?」

 

 リオは動揺することなく、「僕がさっき作ったんだよ」と答えた。本当は空間魔法を使って今取り出しただけなのだが、カルロさんは納得したようだ。リオはこういうとっさの対応に本当に強い。ごまかし方も上手いというか、なんというか。

 

 川に着くと、リオはすぐに釣りを始め、マッドは狩りに行き、私は朝ご飯の準備を始めた。カルロさんは私たちのテキパキとした動きを見て、驚いているようだった。


 朝ごはんの準備ができたので、仮眠していたマーカスさんを起こし、皆で食事にした。久しぶりの魚料理を満喫していると、マーカスさんが話しかけてきた。

 

「お前たちは何でもできるんだな。俺は野営でこんなに美味しいご飯を食べるのは初めてだよ。この魚なんて高級川魚だろ。俺の娘にも食わせてやりたいぐらいだよ」

 

 リオが「娘さんはおいくつなんですか?」と尋ねると、マーカスさんは少し気まずそうに答えてくれた。

 

「14歳だ」

 

「僕やマッドと同じ歳だね」とリオ。

 

「そうなのか、同じ歳か。お前たちと比べると、娘はわがままなお嬢様に見えるな」

 

 マーカスさんは苦笑している。

 

「マーカス、俺はマリーは別にわがままとは思わないぞ。少しばかり自己主張はするが、とてもしっかりしている。マッドたちが何でもできすぎるんだ」


 カルロさんがフォローするように言う。

 

「それもそうだな。だがなカルロ、マリーの婚約話は、自己主張のし過ぎで一向に決まらないんだよ。学校に入学するまでには決めておいた方が、俺も安心なんだがな」


「そんなに早く婚約者を決めるものなの?」

 

 リオが不思議そうに質問した。私も全く同じ疑問を持った。

 

「貴族の結婚は平民に比べるとかなり早いんだよ。18歳ぐらいで大半は結婚するし、早いと16歳には結婚するぞ。俺だってライケスタ伯爵家に入婿したのは18だったし、カルロはいろいろあって遅かったが20には結婚したからな」

 

「そんなに急ぐ必要があるの?」リオが言うように、私もそう思う。

 

「家を継ぐ者でなければそこまで急がなくてもいいが、跡取りともなると早いぞ。貴族は魔力量が多いから、子供がどうしてもできにくいからな」

 

 それは初耳だった。なぜ魔力量が影響するのだろう?

 

「それは本で読みました。お互いの魔力が中和されるのに時間がかかると書かれていましたが、事実なんですか?」

 

 どうやらマッドも不思議に思っていたみたいだ。

 

「正直言って、原因ははっきりとはわかっていないが、統計的に証明されているんだよ」カルロさんがそう言い、詳しく話してくれた。

 

 魔力の少ない者同士は、普通に夫婦生活をしていれば結婚後1年ぐらいで妊娠するらしいけれど、魔力の多い者同士だと、早くても2年から3年はかかるそうだ。それに、妊娠後もなかなか安定せず、流産することも珍しくないらしい。

 

 そのため、王族や高位貴族の魔力量が多い者は早くに結婚するし、少しでも親しくなるために婚約者は早くから共に生活もするらしい。なるほど、そういう理由があるのか。

 

「学校は15歳から18歳の3年間と聞きましたが、在学中に結婚するんですか?」私は聞いてみた。

 

「早い奴は在学中に結婚するな。結婚した女生徒の中には妊娠している者もいたが、卒業はさせてもらっていたから、成績が悪くなければ問題ないんだろう。でもそこまで焦る必要はない。俺が焦っているのは、よくできた奴ほど売れていくから、早くしないと変な奴に嫁ぐことになってしまうからだ」

 

 マーカスさんが、親心を覗かせながら答えてくれた。

 

「マーカス、マリーはしっかり者だから問題ないよ。気長に待てばいい」カルロさんが諭すように言う。

 

「だがなカルロ、なぜかマリーは貴族学校には行かず、魔法学院に行くと言い出したんだ」

 

「魔法学院は、俺も興味があって調べているんですが、良くない学校なんですか?」

 

 そういえば、マッドも魔法学院が良さそうだとこの前言っていたっけ。

 

「いや、あそこは良い学校だと思うが、マリーには普通に貴族学校に通ってほしいな。魔法学院は将来働き口を求めるなら最適な学校だ。家を継げない次男や商人の息子には最高だと思うが、娘には卒業したら結婚して普通に幸せになってもらいたいんだ。まあ、娘にとっては余計なお世話だろうがな」マーカスさんは頭を掻きながら言った。

 

「娘さんは、マリアンみたいな感じの方ですか?」

 

 私が尋ねると、マーカスさんはしばらく下を向いて考えた後、大声で笑いだした。

 

「いや、まあ、同じ年の伯爵令嬢だが全く違うぞ。俺の弟の娘のマリアンは何て言うか、正統派のご令嬢だ。娘もご令嬢には間違いないが、花に例えるなら、マリアンが薔薇で、娘は向日葵って感じだな」

 

 よく分からないけれど、元気なお嬢様ってことだろうか。マーカスさんの娘さん、どんな子なんだろう。

 

 休憩も終わり、再び馬車で走り出し、午前11時頃には無事、ルルソン村へ到着した。

 

 ミシェランも良い街だったけれど、やっぱりルルソン村のこののんびりした感じが私は好きだなと、改めて思った。ここから、私たちの新しい生活が再び始まるんだ。

 


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