図書館の帰り道 マッド視点
マッド視点
今日も図書館クエストが滞りなく終わり、俺たちは3人で公園を歩いていた。その時、後ろから3人組の男たちが俺たちをつけてくる気配を感じた。地図スキルで確認すると、彼らは真っ赤に表示されていた。この表示は、俺たちに危害を加えようとしている者を示している。
リオもどうやら気付いたようだ。それにキャロルは俺とリオの表情から何かを察したようだった。後ろを何気なく見て確認したが、相手はそれほど強くないし、持っている武器もナイフだけに思えた。それに、この3人は間違いなく犯罪者だから、俺たちが倒しても問題にはならないだろう。
一人が突然ナイフを手に突進してきたので、俺とリオは瞬時に戦闘態勢に入った。キャロルは護身術でうまく攻撃を避けている。俺たちが2人を気絶させると、残りの1人が逃げ出そうとした。俺は追いかけようとしたが、キャロルが咄嗟に弓矢を放ち、その足を一本の矢が射抜いたのを見て動きを止めた。
騒ぎに気づいた役人たちが走ってきて、3人の男たちはその場で捕まった。
俺たちも事情を聞くために詰所まで来てほしいと言われたが、俺はきっぱりと断った。一番偉そうな役人が、品定めするような視線がキャロルの頭からつま先までゆっくりと下っていったからだ。その目は嫌らしく光り、まるで値踏みでもしているかのようだった。
役人が保護者の名前を尋ねてきたので、一瞬迷ったが、カルロさんの名前を口にした。これは偽証罪になるのだろうか? でも、この場を乗り切るためには必要な嘘だった。
俺たちは何も悪いことをしていない。それでも、親がいないというだけで不利になることがあると聞いたことがあったからだ。役人がキャロルに触れようとしたので、俺はキャロルを自分の背中に隠した。リオもキャロルを守るように、俺の隣に立った。
「もしかしてブライトン侯爵のことではないか? しかし、彼には子供はいないはずだが」と、一番偉そうな役人が口走った。
「でも、もしかしたら保護しているかもしれませんので、確認はした方がいいと思います」と、部下らしき役人が口を挟んだ。
「そうだな。では、とりあえずギルドに向かおう。お前たちガキ3人も着いてこい」
俺たちを犯罪者のように扱う役人に嫌気がさしたが、着いていくしかなかった。でもギルドに行けば、マーカスさんやアデルさんがいる。きっと大丈夫だ。
しかし、ギルドにはマーカスさんもアデルさんも不在だった。
すると一人の役人が伝書鳩を使ってブライトン侯爵邸へ連絡を飛ばしてくれたが、カルロさんがミシェランにいるかどうかは分からない。
偉そうな役人がギルド内では目立つからと、個室へ俺たちを連れて行こうとしたので、俺はここでもきっぱりと断った。この役人と個室に入れば、必ず何か仕掛けてくると思ったからだ。
俺は役人が駆けつけてきた際に直ぐに鑑定をしていた。こいつら役人は、立場の弱い者たちに対して、かなり悪どいことを平気でしてきた犯罪者だ。唯一まともなのは伝書鳩を放ってくれた一番下っ端の役人だけだ。
「何だと、俺を誰だと思っているんだ。このクソガキが」
この一番偉そうな役人が中心になっていつも見えないところで強姦まがいの悪事を繰り返しているようだ。
俺は殴られて吹き飛ばされた。わざと大袈裟にやられているように振る舞い周りの視線を惹きつけてやった。俺が殴られると、今度はリオがキャロルの前に立ちはだかった。リオは綺麗な顔をしているが、怒ると俺よりも実は恐ろしい目つきになる。その水色の瞳は一点の曇りもなく役人を射抜き、まるで凍てつく氷の刃のように冷たく、有無を言わせぬ圧力を放っていた。
リオはキャロルが傷付けられるのを最も嫌う。リオはキャロルを実の妹のように大切にしていて自分の命を差し出してでも守り抜くだろう。役人はリオの鋭い視線に気圧され、一歩二歩と後ろに引いて行った。
「マッド、大丈夫か!」
カルロさんの声が聞こえた。連絡を聞いて駆けつけてくれたようだ。もう大丈夫だ。
「何があった?なぜ彼が怪我をしているんだ」
役人たちは、カルロさんの冷たい声に凍り付いたように立ち尽くしていた。特に一番偉そうな役人は、血の気が引いて顔が真っ青になり、小刻みに震えている。その目はカルロさんから逸らされ、まるで罰を受ける子供のようにうつむいているだけで何も言おうとしない。
誰も何も言わないので、一番下っ端の唯一まともな役人が説明を始めた。
「公園で彼らが襲われたようでして、事情を聞くために詰所に連れて行こうとしたんですが、断られたので保護者は誰かと聞いたところ、ブライトン侯爵様だと言うので確認のためにギルドに来たんです。ここでは目立つので個室に連れて行こうとしたところ、嫌がったので、上官殿が彼を殴りました」
「彼らは被害者なんだろう。なぜそんな扱いをするんだ? 襲った奴らはどうなった?」
「それは彼らが倒しました。3人とも指名手配された犯罪者で間違い無かったので、既に牢に入れております」
「それなら彼らには礼を言うべきだろう。彼に暴力を振るった件は後ほどきっちりと責任を取ってもらうから覚悟をしておくんだな」
カルロさんは酷く冷たい顔で役人たちに言い放った。
キャロルを見ると、リオにしがみついて泣いているようだった。俺は立ち上がり、泣いているキャロルの元へ歩み寄った。彼女は俺の姿を見ると、リオから離れて駆け寄り、俺の胸に顔をうずめて泣きながら謝ってくる。
「マッド、ごめんね。私を守ってくれたんでしょう。怪我までさせてしまって、ごめんなさい」
俺はキャロルの頭を撫でて言った。
「怖い思いをさせてごめんな。キャロルが無事でよかった」
リオも俺と同じようにキャロルに優しく笑いかけ、冗談を言ったりしながら慰めていた。先にキャロルを部屋に連れて行き、俺とリオはカルロさんに説明をしに行った。まずは保護者と言ってしまったことを謝らないといけないだろう。
「カルロさん、勝手に保護者などと言ってしまい申し訳ありませんでした。あの役人がキャロルに何かをするんじゃないかと思って、詰所に着いていくことはできませんでした」
「マッド、君は鑑定持ちだよね?」俺は答えなかった。
「言いたくなければ言わなくていい。だが、何かあった時は今日のように私を頼ってくれて構わない。いいな」
「ありがとうございます。今日は本当に助かりました」
俺はこの時、全てを話してしまおうかと思ったんだ。でも、話したが故に自由でいられなくなるかもしれないと思ったら、何も話せなかった。




