お爺さん(マクミラン伯爵)のお店
冒険者ギルドを出た私たちは、乗合馬車で一緒だったお爺さんの店を目指してミシェランの街を歩くことにした。村とは違い、多くの人々が忙しそうに行き交う姿が印象的だった。
ギルドから店までは徒歩30分ほどかかるそうだが、アデルさんが「たくさんの店が並んでいて、道中楽しめるよ」と教えてくれたので、後で寄りたい店をチェックしながら、私はワクワクして歩いた。あまりにキョロキョロしていたため、途中からマッドが手をつないでくれたが、なんだか自分が子供のように思えて、少し恥ずかしかった。
アデルさんの言葉通り30分ほど歩くと、聞いていた名前の店が見つかった。しかし、私たちが想像していたような店とは違い、そこは大きな高級感あふれる建物で、私たちのような格好の子供が入るような雰囲気ではなかった。
「考えても仕方ないから、入ってみようよ」
こういう時に度胸があるのはリオだ。彼はあまり深く物事を考えないタイプなのだろう。
「そうだな。せっかく来たんだし、行ってみよう。爺さんがいなかったらすぐに帰ればいいさ」
マッドがそう言ってリオの後を追ったので、私もついていった。
店に入ろうとすると、店員さんが扉を開けてくれた。中を見ると、さらに高級感にあふれている。リオが前に出て店員さんに話しかけた。
「僕たちは買い物に来たわけではありません。乗合馬車でご一緒だったお爺さんに会いに来ました。こちらにいらっしゃると伺ったのですが、お見えになりますか?」
店員さんが確認に行ってから、しばらくするとお爺さんに似た顔立ちの男性がこちらへ歩いてきた。おそらく息子さんなのだろう。マーカスさんとは全く似ていないが、お爺さんにはよく似ている。
「いらっしゃい、よく来てくれたね。君たちが来るのを父はとても楽しみにしていたんだが、今は少し外出しているんだ。すぐに戻ると思うから少し待ってもらえるかい?もしよければ店の中を案内するよ。この店はセレクトショップと言って、評判の良い品物を販売させてもらっているから、君たちが気に入る物もきっとあると思う。父の恩人である君たちに、私からぜひお礼をさせてほしいんだ」
「私たちはお爺さんがいたから無事だったんです。私たちの恩人はお爺さんです。だからお礼なんて必要ありません。それに、冒険者ギルド長のマーカスさんに既にお礼の品をいただきましたので、これ以上は必要ありません」
私はこの店にある高級品をいただくのは気が引けたので、そう言って断った。
「兄貴が……、よかったらそのお礼の品が何か教えてくれるかい?」
「俺たちはギルドの訓練券3回分をいただきました」
マッドがそう答えると、マーカスさんの弟さんが笑い出した。
「実に兄貴らしいよ。兄貴のような物は贈れないが、受けた恩は必ず返すようにしているんだ。ああそうだ、ちょっと待っててね」
奥から何かを持ってきてくれた。
「これは旧式の魔道メガネで、こっちは展示していたバッグなんだが、売ることができない物なのでもらってもらえると嬉しいんだが、どうかな?」
私たちは思わず笑ってしまった。
「笑ってしまってすみません。実はマーカスさんが私たちに言ったんです。『変装用に魔道具のメガネでもかけた方がいい』って」
弟さんは苦笑いを浮かべていた。
マーカスさんの弟さんはマルクさんと言うらしい。私たちはありがたく一つずつ魔道メガネとバッグをもらった。バッグは女性用、男性用、性別関係なく使える物の3点だったので、女性用は当然私、男性用はマッド、性別関係なく使える物はリオがいただいた。こんなバッグ作ってみたいなと思えるくらい、私好みの素敵なバッグだった。
どう見ても全部高級品だと思う。こんな高級でおしゃれなメガネは、逆に目立って危なくないだろうかと少し思ったことは内緒だ。
お爺さんが戻ってきたらしく、店の中が賑やかになった。お爺さんはあの時とは別人のような装いをしており、外ですれ違っていたら気づかないだろうと思う。
お爺さんが大きな声で私たちに話しかけてきた。
「おお~待っていたぞ。よく来てくれた。昼は食べたか?わしは串焼きがどうしても食べたくなって買ってきたところなんじゃ、2階で一緒に食べようじゃないか」
2階の個室で私たちは串焼きをご馳走になり、お爺さんと楽しく会話をした。街でお土産を買うのにおすすめの店を聞くと、お爺さんが提案をしてくれた。
「わしには孫が3人おってな、お前さんたちと同じ年頃の娘もおる。あやつに街を案内させようかのう?」
そう言ってくれたが、クエストや訓練で忙しくなりそうだったし、私たちに付き合わせるのは申し訳ないので、今回はお断りをした。
お爺さんと話し込んでいると、お爺さんの奥さんが部屋に入ってきた。
「主人を助けてくれたそうで感謝するわ。ありがとう」
とても上品な奥様だった。お婆さんというよりは、お婆様か奥様という方がしっくりくる。
お爺さんは元は平民だったが、商売に成功し国の発展に大きく貢献したとして伯爵位をいただき、マクミラン伯爵となったそうだ。
つまりお爺さんは貴族だったのだ。今さらだが、少し緊張してしまう。
そんな私たちを見て、お婆様は私たちにある提案をされた。
「大人になれば貴族と接することも増えるわ。マナーをきちんと知っておいて損はしないはずよ。私でよければ基本的な作法を教えて差し上げるわ。どうかしら?」
それって訓練ってことかしら?マーカスさんは間違いなくお婆様のお子さんだと確信した。マッドとリオを見ると頷いているし、楽しみにしていた観光やお店巡りがどんどん遠のいていく気がした。
そしてまずはテーブルマナーからということになり、3日間夕飯をこちらでいただくことが決まったようだ。
和やかな時間を過ごした後、私たちはギルドの解体作業の仕事に向かった。




