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ミシェラン2日目

 この冒険者ギルドには定食屋とカフェが併設されている。私たちはギルドから配布された朝食券を使い、カフェで熱々のスープと野菜サンドイッチを注文した。そして、このカフェの名物だという厚焼き卵も追加し、なんとも贅沢な朝食を取っていた。

 

「今日の解体作業は夕方4時かららしい。俺とマッドは大型の魔物、リオとキャロルは小型の魔物を担当するそうだ。6時頃から交代で夕飯を食べて、早ければ8時には終わるらしいが、そこは俺たち次第ってことだろうな。まあ、今日1日のことだし、頑張ろうぜ」

 

 説明してくれたのはタイゾウだった。

 私は魚を捌いたり、ツノ兎のような小さな魔物なら解体もできるけれど、素早くはできない。正直、このクエストには少し不安を感じていた。

 

「3時くらいまでは自由に動いていいのか?」

 マッドが尋ねた。

 

「いいんじゃないか。俺は少し用事があるから出かけるけどな」

 

「まずは明後日からの宿泊先も決めておきたいな」

 

 マッドの言葉に、タイゾウが答える。

 

「それなら冒険者ギルドに相談するのがいいぜ」

 

 私たちは冒険者ギルドの受付の列に並んだ。しかし、昨日と同じで、なぜだかひどく見られている気がして落ち着かない。そんな私を見たマッドが、そっと手を繋いでくれた。

 

「ありがとう、マッド」

 私が言うと、彼は笑って頷いてくれた。

 

 ようやく私たちの順番になり、クエストの報告をしようとすると、別室に行くように言われた。部屋へ向かう間も、周りの人々は私たちを見続けている。

 

 案内された部屋では、ギルド長のマーカスさんがソファに座っていた。

 

「とりあえず座ってくれ。お前たちのことはカルロから頼まれているし、今回の件で話もしたかったので別室に呼んだんだ」

 

 マーカスさんは強面だけど、纏う空気がとても穏やかで、決して怖い人ではないように思えた。

 

「道中大変だったな、怖かっただろう。まずは礼をさせてくれ。本当にありがとう。被害者が出なかったのはお前たちのおかげだよ。ルルソン村からミシェランの街道が整備されてから3年経つが、今まで盗賊の襲撃は全くなかった。我々も警戒を怠ったつもりはなかったんだが、油断はしていたんだろうな。お前たちが詳しく説明してくれたおかげで、盗賊たちの根城を潰すことができた。まあ一部の盗賊は逃走したが、懸賞金を付けて探しているのでその内に捕まるだろう。カルロには事の経緯の全てを魔道具を使って伝えたし、お前たちが無事なことも伝わっているから問題はないと思う。ここまで一方的に話してしまったが、何か質問はあるか?」

 

「俺たちの馬車の護衛だった2人はどうなったんですか?」

 

 マッドが尋ねると、マーカスさんは険しい顔をして答えてくれた。

 

「あいつらはドレスデン国の冒険者ギルドから追放になった。今後はこの国では冒険者のクエストは一切受けられない。こともあろうに護衛中に酒を飲み、薬まで飲んでいたんだ。弁解のしようがないだろう。元々評判も良くない奴らで、ギルドから警告を何度もしていたんだ。そんな奴らに護衛のクエストをあてがったのは、我々ギルドの責任だ。カルロから散々お説教を食らったよ。本当に申し訳なかった。詫びになるかはわからんが、ギルドからは詫び金、謝礼金、情報料を支払うことが既に決まっている。それと俺からも個人的に礼をしたいと思っていたんだ。実はな、行商人の中の一番年老いた爺さんは俺の親父なんだ」

 

 えーーー全然似てない、特に大きさが全く似てない!私の顔を見て、マーカスさんは気づいたようで、大声で笑った。

 

「ハッハッハッ、似てないだろう。よく言われるよ。俺も昔は疑ったんだよ。亡くなった爺さんと俺はそっくりでね、実は俺の本当の父親は爺さんなんじゃないかとね、ハッハッハッ、まあ今となってはどっちでもいいんだが……。俺には商才は全くないから、店は弟が継いでくれたんだ。そうそう、店にも顔を出してやってくれ。親父がお前たちが来るのを待ってるらしい。あっ、話がそれてしまったな。そういう訳で、礼金はかなりの額になると思うから楽しみに待っててくれ。おそらく3日ほどで金額が固まるはずだ。他に何か聞きたいことはあるか?」

 

 マッドがクエストについて聞いてみた。

 

「俺たちはクエストの報告に来たんだけど、またさっきの列に並ばないと駄目か?なんだかジロジロ見られて落ち着かないので、可能ならここでしてもいいだろうか?」

 

 マーカスさんが少し困った顔をして答えてくれた。

 

「いいか、よく聞け。お前たちの容姿はかなり目立つ。魔道具用のメガネで誤魔化すとかして、変装した方が良いと思うぞ。それと受付には並ばなくて良い。お前たちがここにいる間の担当は既に決めてあるからな。他には何かあるか?」

 

「どこか安くていい宿があれば紹介して欲しいです」

 

 マッドが尋ねると、マーカスさんが少し考えてから答えてくれた。

 

「安宿はやめた方がいい。お前たちは絶対にやめた方がいいだろう。タイゾウさえ良ければ、昨日同様にギルドに泊まることを許可する。本来はそういった特別待遇のようなことはしないんだが、カルロに散々お説教を喰らったからな。これで放置でもしてお前たちに何かあったら、俺は殺されかねないしな。俺は用事があってそろそろ出かけないといけないから、他に質問があればお前たちの担当に聞いてくれ。今から呼んでくるからちょっと待っててくれ。それから親父には早めに会ってやってくれな」

 

 そう言うとマーカスさんは部屋から出て行き、しばらくしたら綺麗なお姉さんが入ってきた。

 

「初めまして、私はギルド長の補佐をしているアデルよ、よろしくね。あら、お茶も出てないのね、全くあの人は。ちょっと待っててね」

 

 しばらくすると、お茶とケーキを持って戻ってきた。

 

「お待たせ。このケーキは今朝もらったのよ。今度店を開く予定の方が宣伝のために持ってきてくれたの。美味しそうでしょう。遠慮せずに好きなの取って」

 

 そう言ってアデルさんはケーキを選ばせてくれた。この世界に来て初めて食べる味だった。美味しい、幸せ、うんうん。

 

 それからアデルさんにルルソン村のギルドで受け取った書類を渡すと、ミシェランの街の冒険者ギルドへ書類を渡すクエストが無事完了した。

 

 宿泊の件は既にマーカスさんから聞いていたようで、問題なく話が進んだ。タイゾウ本人には聞いていないが大丈夫なのだろうか?

 

 私たちが受けられるクエストがないかを尋ねると、アデルさんは1枚の紙を見せてくれた。その紙には図書館での本の整理と書かれている。

 

「どうかしら?先方の要求が高いのか、今まで受けた人たちはみんな『次は来なくていい』って断られるのよね。報酬もいいから人気はあるのよ。とりあえず1日だけやってみない?終わったら図書館の本も読み放題みたいよ」

 

 本好きの私たちはその言葉を聞いて、クエストを受けることに決めた。アデルさんがもう1枚紙を差し出してきた。紙には冒険者ギルド訓練券と書かれている。

 

「マーカスに渡すように頼まれたのよ。好きなのを3回受けることができるわ。ここの冒険者ギルドで訓練をしてくれる先生は、結構すごい人もいて人気があるのよ。まあ、そういう人は既に予約で埋まっているから受けられないけどね」

 

 私たちはここでも訓練を受けることに決まった。


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