表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/173

カルセリア国6 マッド視点

マッド視点

 

「ルートは逃げる気だ、急ごう!」

 

 俺たちは急いだ。薄暗い裏通りの奥へと消えゆくルートの影を、絶対に見失うまいと食らいつく。

 

「マッド、ルートはどこにいるんだ!?」

 

 背後からリオの焦った声が飛んできた。彼の息遣いが、俺たちの追跡がいかに緊迫しているかを物語る。契約獣のラピスがルートを追跡してくれている。俺はラピスの見ている情景をリオたちに知らせた。

 

「裏通りを、何十人もの武装した奴らと走っている!」

 

「裏通りから、森に逃げ込むつもりでしょうか。そうなると魔法陣は森か?」

 

 ジルがそう言ってきたので、俺は答えた。

 

「おそらくそうだろう、急がないと見失う。この機会を見逃したくない」

 

 ルートたちは魔法陣を使いミシェランにやってきたはずだ。思い当たる場所は探したし、森も確認したが、これまで見当たらなかった。だから俺は、奴らに魔法陣の場所を誘導してもらうことにしたんだ。

 

 キャロルが新たに付与してくれたアンクレットの疲労軽減の付与のお陰で、俺とジル、ドナ、キャロルの四人はまるで重力から解放されたかのように軽かった。地面を蹴るたびに風を切り裂く音が聞こえる。全く疲れを感じさせないその感覚に、俺たちは一気にルートとの距離を詰めた。

 

 だが、ルートを守っていた奴らが目の前に立ちはだかった。武装した男たちが、獣のように唸りながら向かってくる。

 

「ジル、素早く倒してしまおう!」

 

「承知しました、マッド様!」

 

 俺の剣が閃き、瞬く間に一体の敵が地に伏せる。その間髪入れずにジルが背後から回り込み、敵の急所を的確に突いた。次々と倒れていく敵の呻き声が、狭い裏通りに響き渡る。ドナも素手で大男たちを殴り飛ばしている。相変わらず大型獣のように豪快だ。勝敗はすぐにつき、俺たちは再びルートを追った。

 

 俊敏スキルのあるリオが俺たちに追いついた。

 

 ルートはもう近い。しっかりと視界に入る位置にいる。

 

「リオ、頼む!」

 

「了解!」

 

 俺はリオに偽装の解除を依頼した。リオの偽装スキルのレベルはかなり高い。ルートが偽装スキル持ちだとしても、リオよりレベルが高いとは到底思えない。

 

 数秒の静寂の後、隠されていたルートのスキルがはっきりと見えた。やはり鑑定は持っていないようだ。俺の仮説が、また一つ裏付けられた。

 

「偽装、暗示、遠見、契約、薬師――それがルートのスキルだ!」

 

 俺は仲間たちに伝えた。正確な情報こそが俺たちの武器になる。そしてルートたちには、俺たちの本来のスキルは知られていないだろう。

 

「暗示か?納得だ」

 

 リオの声は安堵したように聞こえた。

 

「そうだ、暗示のレベルは27だ」

 

「了解!」

 

 俺はこれまで、スキルについての本を貪るように読み漁ってきた。そこで自分なりの仮説を立てたんだ。この世界で生き抜くために、そして大切な仲間たちを守るために、神が与えたとされるスキルの本質を理解する必要があった。

 

* スキルは神からの贈り物であり、自身を守り、同族を守る術として授けられた。

* 使い方次第ではスキルは消滅するし、半減もする。

* 多くの種類のスキルがあり、また同じスキルでも人によって育ち方は異なる。

* 一人の人が多くのスキルを持つのは魔力量を考えると不可能だ。そのため、人は異なるスキルの者たちと協力して戦う。これこそが神が望んだ使い方である。

* 対極の性質を持つスキルは同時に存在しないと思われる。例えば水と火。

 

 これらが正しいと仮定すると、俺は偽装と鑑定も異なる対極の性質を持つように思えた。鑑定人にとっては偽装スキルを使われるのが一番厄介だし、偽装スキル持ちは鑑定人を完全に欺けるわけではなく、鑑定人は必ず違和感を感じるからだ。だからルートに偽装スキルがあるのなら、鑑定スキルはないのではないかと思った。

 

 それとスキルのレベルだ。自身を守り誰かを守るために使用していないルートのスキルレベルは低いのではないかと思われた。それでも一般の人にとっては脅威になるレベルには違いない。ただトータル的に見れば、俺たちには通用しにくいと思われる。何より聖獣たちが施す結界や防御があれば、全く影響を受けないだろう。

 

「ドナ、頼む!」

 

「任せて下さい!」

 

 ドナは打ち合わせ通りにルートに近づいていく。ルートはドナの接近に気づき、薄い笑みを浮かべた。そしてドナの耳元で何かを呟く。ドナは囁かれる寸前に密かに幻影スキルを使ったが、ルートは全く気付いていない様子だ。その表情には、すべてを操れるとでも言いたげな傲慢さが浮かんでいた。

 

 ルートは次にドナの隣にいたキャロルに近づき、耳元で囁いている。キャロルはにっこり微笑んで、ルートを見ているように見えた

 

「キャロル、そいつから離れるんだ!」

 

 俺はそう叫び、キャロルを庇うようにルートの目の前に出た。ルートは待っていたと言わんばかりに俺の耳元で囁いた。

 

「君は僕の人形だよ。人形は感情を持たない。僕の言う通りにすれば幸せになるよ」

 

 俺はルートに平伏した。

 

 そしてジルは「マッド様、……!」と叫び、ルートの懐に入り、俺と同じように平伏した。リオはその光景に驚き、ボンドン、マリア、レティに下がるように指示をして、その場から足早に立ち去った。

 

 ルートを先頭にして森の奥を進んでいくと、小さな魔法陣が目に入った。

 

「僕の護衛は全員やられたけど、それ以上のものが手に入ったよ。君ら四人は僕の人形だ。ついてこい」

 

 楽しそうな表情のルートと共に、俺たちは魔法陣の中に入った。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ