表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/173

カルセリア国5

 お爺様が出陣され、早くも五日が過ぎた。カルセリア国との戦争は概ね終わりつつあり、我が国のドレスデン国が優勢だそうだ。カルセリア国に魔法に長けた者も確かに存在はしていたが、圧倒的な武力の差を埋めることはできなかったと聞く。

 

 気を緩めるのはまだ早いが、今はカルセリア国の多くの民を保護しつつ、カルセリア国の王族、高位貴族を探している状況だそうだ。

 

 そしてミシェランでは戦争とは縁遠い穏やかな日々が続いていたが、マッドやジルはスタークを迎え撃つ準備を密かに水面下で行っていた。

 

 私もいつものように行動をしていた。

 

 昔、ルートに遠見スキルで干渉された際に、私は凄まじい恐怖から倒れ、何日も高熱を出した経験がある。私はその日から自身の精神を鍛えるためにあらゆる努力をしてきた。中でも自身のスキルである気功のレベル上げに力を注ぎ鍛えてきた。今では精神干渉不可となっている。

 

 ドナと共に教会でバザーの準備を終え、帰宅の準備をしていた。横ではリアムとチャドが可愛くお喋りをしている。何を言っているのかは私にはよく分からないが、お互いに通じ合っているように見える。お喋りを終えたリアムは元気いっぱいにランランとじゃれつき、チャドはそれをニコニコと見つめている。この穏やかな時間が、私の至福の時間だ。

 

 教会の扉を開けて外に出た瞬間、私は息を呑んだ。

 大柄な男が立っていた。右頬から首にかけて大きな傷跡が走り、冷たい瞳が私たちを射抜く。トムの夢に現れた、「大きな傷のある男」――スタークだ。

 

「キャロル様、逃げて!」

 

 私を庇うように飛び込んできたのはシイラさんだ。彼女は迷うことなく私を背後に押しやった。


 スタークの槍は凄まじい勢いでシイラさんの胸を貫こうとしたが、その瞬間にシイラさんに贈ったアンクレットが光り輝いて、粉々に飛び散った。

 

「スターク、私を覚えていますか?」シイラさんはスタークに言った。

 

 スタークの目は虚ろだ。まるで何の感情も持たないようだった。やはりスタークは操られているのだろう。シイラさんの言葉も耳に入っていないようだった。

 

「スターク、正気になりなさい!」

 

 シイラさんはそう叫びスタークに神聖魔法を放った。

 

「うっ、」スタークは辛そうに唸ったが、すぐに元の虚ろな目に戻った。ルートが遠見スキルを使い、スタークに何かしらの干渉をしたのかもしれない。

 

 私の肩には強力な結界を張る聖獣のピッピ、そして大気の浄化と完全防御が可能なモドキがやって来た。

 

 逃げようとするスタークを止めに入ったのはドナだった。モドキがドナを強力な防御魔法で覆うと、ドナは凄まじい勢いで飛び出し、スタークへ攻撃を仕掛けた。

 

 私は弓を取り出し、スタークの後方に控えている多くの敵を射っていく。スタークとドナの戦いは、ドナの方が遥かに強かった。

 

 しばらくすると、マッドとジルが駆けつけてきた。彼らの後方にはお父様の部隊と、マーカスさんを先頭にした冒険者たちも続き、敵の数をどんどん減らしていく。

 

 ランランはいつものようにインディの背に乗り、マッドたちの横で戦っている。上空からはマッドの契約獣のラピスがルートを探している。

 

「ピ――――、ピ――――」

 

 ラピスがルートを見つけたのだろう。マッドはニヤリと笑った。

 

 スタークは火炎魔法を放ったが、モドキの防御魔法で守られている私たちには何の効果もない。ピッピの結界魔法はどんどん広がり、お父様や冒険者のところまで囲んでいる。

 

 その時、遠くの方に、いるはずもない人物が目に入った。

 

「……嘘……どうして……」私は大粒の涙を流した。見間違えるはずなどない。

 

 リオ、マリア、ボンドン、レティの四人が走ってくる。

 

 戦いの最中なのにどうしよう、涙が止まらない。

 

 夢に何度も現れたリオがすぐ近くにいる。

 

 マリアも、ボンドンもレティも……。

 

「我が妹、しっかりしろ!戦いの最中だぞ」

 

「キャロル、戦いが終わってからよ!」


 その声を聞いて、キャロルは信じられない思いで叫んだ。


「リオ、マリア……!」


 リオとマリアの声だ。間違いない。幻なんかじゃない。


 マッドはキャロルの驚く様子を見て嬉しく思った。


 キャロルは戦いの最中だというのに、ただ呆然と立ち尽くしていた。その瞳からは大粒の涙が溢れ、幻ではないと確かめるように、リオたちの姿を追っていた。あれほど再会を願っていたのだから、当然だろう。


「リオ、すぐに偽装を解除してくれ!」マッドが叫んだ。

 

「了解!」

 

 既に弱っているスタークに、ドナが無理矢理、私が作った睡眠薬を飲ませている。  いつもの倍、飲ませているようだが、大丈夫だろうか?

 

 さらに魔法の紐で縛り上げ、教会に連れて行った。教会の扉を閉めると、マッドは鉄で作った牢屋をアイテムボックスから取り出し、スタークを放り込んだ。

 

「ラピスがルートを見つけた。急ごう!」

 

 スタークをマーカスさんに託し、私たちはルートの元に向かった。もちろん聖獣たちも全員一緒だ。

 

「マッド、スタークのスキルは何だった?」

 

 走りながらリオが聞くと、マッドは言った。

 

「闇属性で、威圧、火炎、身体強化、槍、体術、頑強、空間だ。」

 

「それは確かに強いな」

 

 リオが言うと、マッドは走りながらも否定した。


「かなり強いスキルばかりだが、何年もルートに操られていたせいで肉体も精神も弱っている。だから長期戦は初めから無理だっただろう。それにスキルのレベルも大したことがない。特に頑強は全く使われていないし、消え掛かっている。その証拠にドナは本気を出していなかった」


ドナは駆け足の速度を緩めることなく答えた。


「はい、あまりにも痛々しくて攻められませんでした」


 マッドは息を弾ませながら付け加えた。


「スタークは操られていただけではなく、薬物中毒にもなっている」

 

 私はそれを聞いて、スタークもルートの犠牲者に思えた。

 

 ルートは絶対に許せない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ