カルセリア国4 マッド視点
マッド視点
何日か続いた小さな騒動がようやく下火になりつつあった頃、カルセリア国が再び国境付近を攻め込んできたとの知らせが届いた。それはまるで、嵐の前の静けさを破る雷鳴のように響いた。
だが、バンスが建てた砦は簡単には破れず、十日ほどでカルセリア国は撤退した。しかし、この一連の動きを受け、陛下はカルセリア国へ攻め込むことを決断された。王宮には高位貴族、大臣、騎士団長、宮廷魔術師、ギルド長など、多くの重鎮たちが集められた。
「度重なるカルセリア国からの襲撃を、我が国はこれ以上許すことはできぬ。今回見逃しても、近い将来再び攻め込んでくることは目に見えている。よって、ドレスデン国王の名においてここに宣戦布告をする」
陛下が重鎮たちに厳かに宣言した。
陛下はとても慈悲深く温厚な方だ。この戦争により、ただ自国の平和を守るだけでなく、多くの貧しいカルセリア国の人たちを助けるおつもりなのだと俺には分かった。
密偵による報告はどれも酷いものだった。飢えや疫病に苦しむ人々を放置して、贅沢三昧している一部の貴族たち。既にカルセリア国は、あのアルセル領のようになっていると聞く。
バンスもどうやら出陣するらしい。そして、ミシェランからは祖父が出陣することが決まった。優秀な鑑定人がどうしても必要だからだが、俺は不安で仕方がなかった。
バンスの部隊は三日後に出発することになり、祖父の部隊は、七日後、つまり全軍の最後に出陣することが決まった。
「マッド、そんな顔をするでない。私はまだまだ元気だぞ。それよりミシェランをしっかりと守ってくれ、いいな」
祖父は明るく笑顔で俺の肩を叩き、そう言った。
「それからカルロもマッドの力になってやってくれ。ブライトン領がまだ大変なのは分かっているが、神の使いの件もあるからな、頼むぞ」
「当然です。私の大事な子供たちですからね。それより父さんは本当に身体は大丈夫なんですか。もういい歳なんですから、戦闘は若い者に頼ってくださいよ」
「ふん、私はまだまだ長生きするぞ」
祖父と父さんの、いつもの会話だった。
そして、四日後の朝、ジルが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「マッド様、よろしいでしょうか?」
「ああ、何かあったのか?」
「キャロル様が、自身のアンクレットをミシェラン侯爵様がカルセリア国へ向かう前に手渡すとドナに話したそうです」
俺の想像通りだった。祖父の出陣が決まった時に、キャロルはそうするだろうと予感していたのだ。
トムの夢の話を聞いてから、俺は学院長に頼み、難度1の魔物討伐の場所である東レ盆地(アンクレットの石を拾った場所)で、ジルと共に密かに石を拾って来ていた。キャロルが他の石で代用しないのは、彼女が以前話してくれた、石によって付けられる付与が違う、という理由からだろうと俺は確信していた。
「具体的にいつ渡すと言っていたか分かるか?」
「今日、ミシェラン侯爵様に連絡をしてみると仰ったようです」
「それなら、お爺様の返事を聞いてから用意した石をキャロルに渡そう」
それから三時間後、日時がはっきりとした。祖父が向かう直前、つまり三日後の二十時だ。スタークが教会に現れるのが一ヶ月先と推測しているが、このアンクレットを着けていない状況から察するに四日後の夕方以降から危険性が増す。
「キャロル、アンクレットをお爺様に渡すのはいつ?」
「あら、マッドは知っていたのね。三日後の夜よ。どうせならお見送りをしたかったから、その日にしてもらったの。本当は新しく作って渡したかったんだけど、会う石が見つからなくて……。でも、サイズを変更すればお爺様でも使えるから問題ないと思うのよね」
「この石はどうかな?同じ場所で俺とジルが拾ってきたんだ」
「これは、もしかして東レ盆地の?でもあそこは学院の私有地ではないの?」
キャロルは驚いたように、石を手に取った。
「学院長に頼んだんだ。どうかな?良ければシイラさんとバンスの分も作ってやってくれ」
「ええ、ありがとう、マッド。直ぐに取り掛かるわ。本当にありがとう!」
キャロルは嬉しそうに石を持って部屋を出て行った。しばらくは作業部屋に籠もるんだろう。まあ、今はリアムがいるから、食事の時間には戻るだろう。
以前よりもレベルが上がったキャロルは、驚くべきアンクレットを作り上げた。リオがいないから偽装ができないのが心配ではあるが、今回は仕方がないだろう。
キャロルの作ったアンクレットは、一回だけ身代わりになってくれる効果の他に、回避+1、疲労軽減+1が付いていた。
そして俺やキャロル、ジル、ドナの現在のアンクレットにも、石を追加して新たに同じ付与を追加してくれた。




