ミシェランに到着
ミシェラン領の街に到着したのは昼の3時前、予定よりもかなり早い到着だった。私たちはクエストを受けているため、街に入る際の1000リラは免除される。行商人の人たちはミシェラン領の者なので、もちろん料金はかからない。別れ際、行商人の皆さんは私たちに何度も感謝の言葉を述べ、「こんな物でしかお礼できないけど、良ければ使ってくれ」と様々な品を渡してくれた。最初は遠慮したが、何度も懇願されたのでありがたく受け取ることにした。共に戦ったお爺さんは、絶対に店に来るようにと何度も私たちに念を押し、去っていった。
私たちが受け取ったのは、魔物飼育店の福引券、魔道具店の半額券、小さな髪留め、美味しそうな飴とつまみ、新品のリュック、縄、ウエストポーチだった。どれもこれも、これからの旅で大いに役立つであろう品ばかりで、心から感謝した。
街の門では、水晶判定の他に「鑑定」も受けさせられることになった。全身が緊張で震えていることに気づいたマッドが、そっと私の手を握ってくれた。その温かい手に触れるだけで、不思議と心が安らいだ。リオは、偽装スキルを使って私たちのスキルやステータスを誤魔化してくれている。
「大丈夫、大丈夫」
私は心の中で何度も自分に言い聞かせ、冷静さを保とうとした。
私たちは、それぞれ一つずつしかスキルを表示させていない。私は裁縫、マッドは建築、リオは木工だ。生産スキルを持つ者同士が集まるのはよくあることだから、怪しまれることはないはずだ。私たちの番が来て、リオ、マッド、私の順に鑑定を受けていった。鑑定人は私たちのスキルを見て感心した様子を見せ、その後、じっと顔を覗き込み、深いため息を吐いた。その表情が何を意味するのかは全く分からなかったが、何事もなく門を通ることができた。
1時間ほどかかり、ようやく門の中に入ることができた。ホッと安堵の息が漏れる。今日は冒険者ギルドに泊まることになっているので、まずは生産者ギルドに行き、そこで採集した物を売るつもりだ。生産者ギルドに着いたのは夕方の5時前だった。
生産者ギルドに登録すると、買取額が1割ほど上乗せされるらしい。将来的には生産者ギルドでの活動も考えているのであれば、登録しておけば今回買い取ってもらう分のポイントも付与されるとのことだ。
ルルソン村の冒険者ギルドは生産者ギルドも兼ねているので、ルルソン村で物を売る際にも生産者ギルドのポイントが付くようになっているらしい。登録料についても、15歳未満は通常よりもかなり安く設定されているので、お勧めだと言われた。通常は3万リラの登録料が、15歳未満だと1万リラになるという。
今回の買取額は、軽く見積もっても10万リラにはなるらしい。これを聞いて、私たちは大いに迷った。だが、1割も割増しされるなら登録した方が断然良いだろう。思い切って三人とも登録することにした。
最終的な買取額は、12万リラになった。このお金を共通カードに入れてもらい、私たちは急いで冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは、生産者ギルドと同じ通りに面した、大きな茶色の頑丈そうな建物だ。中に入ると、冒険者らしき人々で溢れかえっており、その賑やかさに圧倒された。当たり前だが、ルルソン村のギルドとは全く違う。何というか、今まで接してきた人々とは明らかに雰囲気が異なっている。ここは、まさに「本来の冒険者ギルドの姿」なのだろうと、私は自分に言い聞かせた。
私たちが受付に向かって歩き出すと、周囲の人々がジロジロと見てくる。明らかに場違いな私たちは、とても目立っているようだった。マッドはすぐに私の手を掴み、リオは私の後ろに張り付くようにして、私を守るように歩いてくれた。
受付の列に並んでいると、後方から声が掛けられた。
ゴツくて大きな、強面の男が近寄ってくる。
「君たち、警戒しなくて大丈夫だ。私はここのギルド長のマーカスだ。ルルソン村からクエストを受けてきた3人で間違いないか?」
マッドは少し警戒を緩め、答えた。
「マッドとリオとキャロルです。ルルソン村からクエストを受けて、書類を持ってきました」
「やはり君たちか。カルロから事前に聞いていたんでな。『目立つ子たちだからすぐ分かる』と奴は言っていたが、ハッハッハッ、本当にすぐ分かったよ。今日は疲れているだろうからゆっくり休め。明日また話そう。ああ、それから、もう1人同じクエストを受けている奴がいるから、同じ部屋になるぞ。仲良くやってくれ」
そう言って、マーカスさんは私たちを部屋に案内してくれた。
部屋に入ると、そこにはすでに先客がいた。
「マッド、おかえり。リオとキャロルは初めましてだな。タイゾウだ、よろしくな。お前ら夕飯食ったか? 解体現場に顔を出したら賄い料理をくれたんで、お前らのも貰っておいたぞ」
そう言って、小さなテーブルの上には美味しそうな料理が置いてあった。私たちはお腹が空いていたので、非常に助かった。
タイゾウはルルソン村の出身で、マッドとは運搬のクエストでよく一緒になったそうだ。成人したのでミシェランへ職探しにやってきており、解体スキルがあるので、このギルドでお試しで雇ってもらっているそうだ。しかし、タイゾウ自身は冒険者稼業もやりたいらしく、今後のことで悩んでいると話してくれた。
そんな話を聞いているうちに、私はどうやら途中で眠ってしまったようだ。朝起きたら、きちんとベッドに寝ていたので、きっとマッドが運んでくれたのだろう。




