魔獣討伐 難度5 続
次の日の早朝には、約束通り何本かの樹木をいただき、再び卵を取りに行った。入手できたのは2個だった。それから、魔法の木のお孫さんの木までモドキが案内してくれた。ここでもモドキは交渉をしてくれた。
「モドキが言うには、既にここに根付いてしまっているので無理だそうです。ですが、自分たちの子供の木を2本くれるそうです。大切に育ててほしいと言っています。契約者2名は誰にするかと聞いています」
ドナがモドキの言葉を通訳してくれた。
「誰でもいいのであれば、キャロルとマリアではどうかな?」
マッドが尋ねる。
「キャロル様は土属性なので相性はとても良く、大きく育つだろうと言っています。マリア様は月属性なので、できるだけ日陰で育てるようにとのことです。あまり大きくは育たないけど、夜に強い力を持つ、少し不思議な力を宿すだろうと言っています」
モドキの言葉に、皆が驚いた。契約者によって、木の育ち方や宿る力が変わるなんて不思議だけど素敵だわ。
「凄いな、契約者によって変わるんだな!」
リオがそう言うと、マリアが言った。
「私ではなく、リオと契約してもらえないでしょうか?」
マリアがそう言うと、再びモドキが交渉を始めた。
「リオ様は氷属性なので、できるだけ寒い地域で育ててほしいそうです。それが可能であれば問題はないそうです」
「マリアで問題ないと思うよ。僕は不思議な力を宿す魔法の木を見てみたい」
リオの言葉に、マリアは少し嬉しそうな顔をして、最終的には承諾した。すると、私とマリアの手元に、小さいけれどしっかりとした苗木が現れた。名前を付けると、スーッと身体の中に入っていったのだ。
「契約成立したようです。一年か二年ほど体内で育ててから植えればいいとモドキが言っています」
魔法の木にお礼を言って、私たちは予定通り討伐に向かった。
「思ってた以上の成果でしたね」
レティが言うと、ジルも満足そうに笑いながら言った。
「あとは卵だな。もう一泊して卵をもらったら、目標数手に入らなくても帰ろう」
「そうですね」
その日の夜も、大きな木の上で私たちは睡眠をとり、早朝に卵を取りに行った。
卵を2個入手して合計8個になり、私たちは魔法陣へ向かっていたが、その道中で、予想外の敵に遭遇する。
突如として、多くのオークが私たちを襲いかかってきた。ただのオークではない。回復役もいる、連携の取れたオークたちだ。彼らの動きには、明確な意思と統率が見てとれた。
私たちは咄嗟に2チームに分かれて戦い始めた。
「これは回復役をまず叩かないとまずいな。キャロルは遠くに離れている回復役を頼む。ドナはキャロルを守れ!」
マッドの的確な指示が飛ぶ。
「了解!」
私はドナと大きく返事をした。
向こうも私を狙っているのが分かる。遠くを射抜く弓使いの私が狙われるのは当然だ。駄目、今は集中しないと……。
ビューッ!
矢を放つが、駄目だ、遠すぎる。矢が届かない。
「キャロル、風で飛ばすからもう一度射ろ!」
マッドが私に叫んだ。
「分かった!」
ビューッ!
さっきと同じように射ると、矢は大きく弧を描いて、グングン伸びていった。
命中したが、急所には当たっていない。
「もう一度」
私は続けて3回射た。マッドが絶妙なタイミングで風魔法で飛ばしてくれて回復役のオーク2名が倒れた。これで敵は回復出来なくて崩れるはずだ。
そこからはマッドもジルも強かった。マッドが大剣を振る際に出来る一瞬の隙をジルは見事に盾で防いでいる。お互いの動きは先を見ているかのようで全く敵を寄せ付けない。まるで凄まじく強い一人の戦士が戦っているかのようだった。
私はリオたちが心配になり、ドナと共に向かった。
リオのチームでは、回復役がまだ一人残っており苦戦しているようだったが、レティの契約魔獣であるピュランが率いる蜂の大群のおかげで、オークたちはばらけており、統制が取れていないようだった。それに、ボンドンの契約聖獣であるドンドンとボンドンの連携とも思われる戦いぶりは、常識とは違う動きをしていて、敵が混乱していた。
ボンドンは、細身の剣使いでありながら、その動きは素早く、まるで舞うようだ。彼は剣の腕だけでなく、器用さに優れている。彼の隣を常に素早く駆け回るのは、彼の契約聖獣である小さな子猿のドンドンだ。ドンドンは、その小さな体からは想像もつかないほど賢く、素早い。ドンドンは素早く地面に、落とし穴を掘ったり、手製の爆弾を投げつけたりして、オークたちをかく乱している。ボンドンは、ドンドンが作った落とし穴に敵を誘導し、あるいは爆弾の爆発でひるんだオークを一閃する。二人の息はぴったりで、敵の裏をかくような奇襲攻撃を仕掛けている。彼らの戦い方は、力任せではなく、緻密な戦略と連携によって敵を翻弄していた。
この距離なら、私の弓でも届くかもしれない。
私は再び3連続で矢を放った。回復役を庇っているオークには当たったものの、回復役によって再び起き上がりそうだ。
でも、私の動きの方が速かった。何度も連続して射ると、やがて回復役も起き上がれなくなった。やがてマッドとジルが戦いに加わり始め、残りのオークたちを一掃していく。
天空では、マッドの契約聖獣であるラピスが雷魔法を放った。稲妻がオークたちを直撃し、焦げ付く匂いが立ち込める。それに合わせるように、ジルの契約聖獣である大鷲鳥のグッドが風を操り、凄まじい竜巻を起こした。竜巻に巻き込まれたオークたちは、なすすべなく吹き飛ばされていく。
インディも凄い勢いでオークを倒しているし、あんな状況でもインディの背に乗っているランランは凄いと思う。何故振り落とされないのか不思議で仕方がない。
ランランは味方だけに器用に回復魔法をかけているようだ。ランランの魔法は、戦場の仲間たちを癒し、再び立ち上がらせる力を与えていた。こうなるともう、私たちの勝利は目前だった。
ほとんどのオークを倒し、一部のオークは逃げていった。彼らは、私たちに逆らえる力はないと悟ったのだろう。
「倒した証拠になるものと貴重そうな物を拾い上げて、すぐに去ろう」
マッドがそう言うと、皆が素早く動き、その場を去った。オークの死体が残る戦場を後に、私たちは全力で走る。
初日に休憩した鍾乳洞まで走り、私たちは一旦休憩をした。流石に疲れた。激戦の興奮が、ようやく落ち着いていく。
私は念のため、全員に浄化魔法をかけた。
激しい戦いの疲労を癒すように、辺りは急速に暗くなり、雨が降り始めたと思ったら、あっという間に大雨になった。
「疲れていますし、この天気なので今日はここで休みましょうか」
ジルの意見に、私たち全員が頷いた。この悪天候の中、無理に動くのは得策ではない。
鍾乳洞で小腹が空いたドナは、ポケットから拾った白い物体を調理しようと思い、割ろうとした瞬間にジルが待ったをかけたのだ。
「ドナ、待て、ストップ、止まれ!」
ジルが叫んだ。その声には、ただならぬ焦りがにじんでいた。
「えっ、お腹が空いたので食べたいんだけど……」
ドナはきょとんとした顔で、手元の白い物体を見つめる。
「その白い物体は卵だろう、どこで手に入れたんだ?」
ジルが焦った表情をしながらドナに聞いた。
「最後に戦ったオークが持っていたので、戦利品の一つとして拾ってきたんだけど」
「マッド様、ドナの手元の物体の鑑定をお願いします!」
ジルが焦りながら言った。彼の顔色は、なぜか青ざめている。
「幻の卵だ」
マッドが簡潔に言った。
「えっ、でもこれはオークが持ってた所持品で……」
ドナの声が小声になっていく。彼女もようやく、それがただの卵ではないと気づいたようだ。
「ドナ、お腹が空いたんならおにぎりがあるわよ」
マリアが優しい笑顔でドナにおにぎりを渡した。ドナは美味しそうにおにぎりを食べて、ひとまず満足したようだった。彼女の口元についた米粒を見て、皆から安堵の笑みがこぼれる。
「卵が9個手に入ったので、皆で1個ずつ食べてから帰らないか?」
マッドが提案すると、皆がパッと笑顔になり、賛成した。確かに、この成果を最大限に活かすべきだ。
「モドキが何か言っていますので、ちょっと待ってください……モドキが言うには、食するのであれば魔法の木の上で食べて眠ると良いそうです。翌朝には自身に必要なスキルが現れるだろうと言っています」
ドナが、契約聖獣であるモドキの言葉を通訳してくれた。その情報に、皆の期待感が一気に高まる。
「それは凄いな。雨も止んだし、暗くなる前に移動した方が良いだろう?」
マッドが言うと、私たちは急いで魔法の木まで早足で行った。到着するまでには再び魔獣が襲っては来たが、私たちは昨日よりずっと強くなっているとそれぞれが思えるほどに成長していた。
魔獣の動きを見切る速さ、魔法の精度、そして聖獣たちとの連携。全てが、初日とは比べ物にならないほど向上しているのを感じる。
魔法の木に到着した頃には、夜空に星々が輝いていて、とても幻想的だった。木々の間から差し込む月光が、私たちを神秘的に照らし出す。
マッドが全員に卵を手渡した。マッドもリオも、まるで願いを込めるように卵にキスをしてから食べた。私も同じように卵に願いを込めてキスをしてから、少しずつ食べ始めた。卵はほのかに甘く、体中に温かい力が満ちていくようだった。明日の朝、どんな変化が訪れるのか、期待と興奮で胸をいっぱいにしながら私たちは眠った。
翌朝、私は起きるとすぐに自分のスキルを確認した。
治療:病気や怪我を治せる
「キャロル、おはよう」
「おはよう、マッド」
マッドが優しい声で話しかけてきた。
「8人とも無事にスキルが現れていたよ。俺は心眼、リオは契約、キャロルは治療だな。やはりルートに対抗出来るスキルなのかな?」
マッドが少し不安そうな顔でそう言った。彼の表情に、一抹の影が差す。ルートの存在は、常に私たちの心に重くのしかかっていた。
「でも良かったんじゃないかな。これからそれぞれがスキルをどんどん上げていけば対抗出来ると僕は思うよ」
リオがいつものように明るい顔でそう言った。リオの前向きな言葉が、マッドの不安を少しだけ和らげたようだ。
私は絶対にルートに負けないと、この魔法の木の上で誓った。この新しいスキルは、私たちに与えられた希望なのだから。
全員がそれぞれの個性に合った、あるいは未来の戦いに必要なスキルを手に入れた。この新たな力があれば、私たちはどんな困難にも立ち向かえるはずだ。
そして私たちはその日のうちに無事に魔法学院へ帰還した。




