大型船をホテルに マッド視点
マッド視点
マリアの交渉はとてもうまくいき、俺たちにとってより良いものになったと言えるだろう。王族との直接交渉という形で、驚くべき条件を引き出してくれた。
* 褒賞の大型船は解体予定の普通の大型船を新たに用意する。
* 巨大な大型船のホテル経営は国が行い、20年間は収益の2割を私たちに与える。
* ホテル経営する場所については、国が示した候補地から選択しなければならない。
* 従業員は全て国が管理する。
* 外観、内装についても国との話し合いで決めた上で行う。
* かかる修復費用、土地代等の全ての費用は国が出資する。
* 前報酬として選択した港町の土地の一部を無料で与える
* 完成次第報酬として2千万リラを与える
私たちのホテルではなくなるが、ホテルとして蘇らせた後は特に何もしなくても、ホテル経営さえうまくいけば毎月の収入が20年間入るのだから、良いこと尽くしだろう。多少良いように使われた感はあるが、国のためになるのであれば良いことだと俺は思った。
「これは国にとっての大きな事業の一つですが、このホテルが成功すれば多くの人に働く場を与えられます。私としては引き受けたいのですが、どうでしょうか?」
マリアがそう言うと、リオが真っ先に発言した。
「思うに、最初から陛下や殿下は僕たちに巨大大型船をなんとかして再生して欲しかったんじゃないかな?」
リオの言葉に、マリアは静かに頷いた。
「はい、リオの言う通りです。ですから、代わりの大型船も既に用意してあるようです。私も王族の一員として、皆様に詫びと依頼をさせていただきます」
マリアは深々と頭を下げた。
「マリア様、おやめください。私は良いことだと思いますので、誠心誠意尽力いたします」
レティが言うと、皆同じように頷いた。
「でも、ホテルの事業に携われるのは私も嬉しいわ。いつか自分のホテルを持ってみたいと思っているから、良い勉強にもなるわ」
キャロルが目を輝かせながら言った。彼女の夢が、こんな形で実現に近づくとは。
「キャロル様、その時は私も一緒にお手伝いしますね!」
キャロルが言うと、嬉しそうにドナが続いた。それにしてもキャロルはホテル経営をしたかったのか。それなら東レ島の別荘をホテルにするのも良いかもしれないな。バンスに相談してみようと、俺はこの時思った。
「全員賛成とのことですので、殿下が示された候補地について話をしますね」
仕事の早いジルやレティは既に候補地を絞っていたので、場所を決めるのは早かった。
「私とレティがあらかじめ絞った候補地が、殿下が示した候補地の中に2つ入っていましたので、どちらかで決めたいと思います。両方とも王都からは魔法陣を乗り継げば容易に行けますので不便はないでしょう」
そう言ってジルは地図を広げて見せてくれた。
「まずは王都から南西にあるブレドール港町。開発途中の港町で注目されており、多くの事業が立ち上がる予定です。水深も深いので、巨大船を停泊させるのも問題ないでしょう」
「どんな事業が予定されているの?」
リオが聞くと、簡潔にレティが話をした。
「今わかっているのは、大型のホテルが3つほどと、洗練された高級ショップが立ち並ぶ予定だそうです。他にも王都で人気のある高級洋食店や高級菓子店ですね。ここは間違いなく貴族専用のリゾート地として成功すると言われております」
「そういえば、貴族専用のリゾート地って言われる港は今までなかったわよね」
キャロルが言う通り、ドレスデン国にはない。だからこそ注目されているのだろう。
「もう一つはディラン港町です。ディラン港町は50年前はとても栄えていた港町で、遺跡もあり、気候も穏やかな過ごしやすい港町だったそうです。ですが50年前の大津波で町の一部は崩壊し、その後は疫病も出て多くの者が亡くなり、生き残った者も生活が厳しくなり離れることを余儀なくされたそうです。ですが、7年ほど前から事業を始めた者がおり、今は少しずつですが住民も増えてきているそうです」
「領主はいないのか?」
ジルの説明に俺は聞いてみた。
「はい、今は王宮預かりの土地です。ちなみに最初に説明したブレドール港町も王宮預かりです。港町に貢献した者が褒賞として領地を与えられるのではないかと囁かれていますが、信憑性はありません」
「ディラン港町は今は住めるのよね?」キャロルが確認した。
「はい、問題ありません。大津波の対策は出来る範囲でされたそうです。それに当時も大津波による死者はいなかったそうです。当然ながら建物の一部は崩壊し怪我人も多かったようですが、避難も早く大事には至らなかったらしいです」
「つまり、その後の疫病が原因で今に至ったということか」リオが結論を言った。
「7年前に始めた事業は薬草や作物の栽培だそうです。しばらくは安定せずに赤字続きだったそうですが、品種改良を重ねて、最近では順調に利益が出ています。気候が穏やかなので、港町であってもよく育つのでしょう」
レティが説明してくれた。
「水深もありますし、土地も今は選びたい放題です。問題は客が来るかどうかですね」
ジルが付け加えるように言った。
俺としてはディラン港町が良いと思った。直感とまではいかないが、ディラン港町をかつての港町に再現したいと思ったし、何より遺跡を見てみたいと思ったからだ。歴史のロマンに心が惹かれる。
「私はディラン港町が良いわ。遺跡があるってことは古い文献も多そうだし。それにブレドール港町は、私たちが何もしなくても発展するでしょう」
キャロルがそう言えば、当然ドナは大賛成だろう。
「キャロル様が言う通りです! 私もディラン港町に賛成です!」
思った通りのことをドナが言ったので、俺もリオも笑ってしまった。
「ディラン港町には少し行けば狩場も多いので、冒険者ギルドが立てば間違いなく需要があると思います」
ジルがそう言うということは、ジルもディラン港町が良いのだろう。ジルは常に実用性を重視する。
「反対する者がいなければ、ディラン港町に決めようと思うがどうだろう? 俺から一つ提案だが、ヒュムスカのような店を俺たちでまた立ち上げないか?」
俺が提案すると、リオが目を輝かせた。
「良いな! 土地も貰えるようだし、少し芸術的な品を置けば、貴族も来るんじゃないか?」
「それなら私は熊の置物を作りますね!」
リオが言った言葉にドナが大声で宣言したが、どうして熊なのか皆が不思議な顔をしていた。全く、ドナらしい発想だ。
なにはともあれ、俺たちはディラン港町に決めた。
後でわかったのだが、ディラン港町に事業を起こした人物は、なんとフィーナの父であるクワン侯爵だった。これも何かの縁なのだろうか。長期休暇は、やはりとんでもなく忙しくなりそうだ。




