ピュランとドンドン
ピュランは大蜂鳥の女王蜂だった。属性は風のようだが、あまり魔法は使えないらしい。だが、攻撃には優れており、何よりも大量の蜂を呼び寄せ、集団で攻撃するのが得意らしい。それに、集めた蜂蜜は味も素晴らしいが、健康にも優れているとのことだ。
学院に魔獣登録を済ませると、驚くべきことにピュランは聖獣へと進化したようだ。
「ピュラン、私の願いはマリア様の安全です。よろしくお願いしますね」
レティがそう言うと、ピュランは羽をパタパタと動かした。きっと会話をしているんだろうと私は思った。それにしても、会話している姿を見ると、まるで長年契約をしていた者同士が交渉しているみたいに見えて、思わず笑ってしまった。
「モドキに聞いてみたんですが、ピュランには全く迷いがなかったそうですよ。普通は契約する際は、よほどのきっかけがない限り、物凄く迷うそうです。聖獣となれば相性も自身でわかるそうですが、魔獣ではそこまではわからないそうですから」
「どうして短時間で契約できたの?」
私が聞くと、ドナは再びモドキに聞いてくれた。
「わかりませんが、幼い頃に会っているのではないかとモドキは言っています」
マッドが付け加えるように言った。
「今回の儀式は物凄く短時間だっただろう? 本来は半日以上かかるそうなんだ」
「そうなの? でも殿下は普通だったと言われていたわ」
「殿下は巨大魔獣でも出てくると思っていたようだし、魔獣召喚を見るのも初めてだったんじゃないかな」
マリアが苦笑いしながら言った。
「そうね、オルドたちのグループは12時間以上かかったと言っていたわ」
その言葉を聞いて、私は思わず質問してしまった。
「12時間って、途中でご飯を食べたのかしら!?」
すると、リオが呆れた顔で言った。
「妹よ、儀式の途中でそんなことをする訳がないだろう!」
「でも、召喚者たちは皆驚いていたそうだ。かかった時間もだが、大蜂鳥が召喚されたのなんて初めてのことだそうだ」
マッドがそう言うと、ジルも頷きながら言った。
「それに、ボンドンが契約した小人猿のドンドンも大変珍しいそうですよ」
「ドンドンは最初はレティに行こうとしていたのかしら?」
「キャロル様、私もそう思ったのですが、モドキが言うには違うようです」
「どういうこと?」
「モドキの話では、ドンドンは最初から自身と同じ波長のボンドンを選んでいたそうです。でもピュランがまだ来ていなかったので、ボンドンの思いを汲んでレティに許可を貰ってからボンドンの元に行くつもりだったようです」
「なぜ?」
私が聞くと、マリアが答えてくれた。
「ボンドンは自分よりもレティを優先したかったのではないかしら?」
実にボンドンらしいと私は思った。レティは少し怒っていたが、ピュランがふわりと彼女の周りを飛び回り、なだめているように思えた。この二人のやり取りを見ていると、まるで昔からの親友のように気が合っている。
しばらくすると、ボンドンも魔獣登録が終わったみたいで皆の元に戻ってきた。ドンドンはモドキと同じぐらいの大きさの猿だ。見た目も性格も、なんだか凄くボンドンに似ていると思う。そして、ピュランとドンドンは何故か隣にいて、何かを喋っている気がする。
すると、ドンドンが急に白く光った。ピュラン同様、聖獣へと進化したようだ。
「改めましてよろしくお願いします」
突然、耳元で幼い男の子の声が聞こえてきて、私は驚いて周りを見回した。
「え、え、誰!?」
「ドンドンです」
「え、どうして? どうなっているの!?」
マッドやリオが不思議な顔をして私を見ている。
「キャロル、大丈夫か?」
マッドがそう言うと、ボンドンは説明を始めた。
「キャロル様、驚かせてすみません。どういう訳か僕もドンドンも分かりませんが、ドンドンはキャロル様と会話ができるようです」
「ええー!?」
「嘘だろう!?」
周りから驚きの声が上がる中、ドナがモドキに聞いた。「モドキ、なぜキャロル様に通じるの?」私こそ理由が知りたいと思った。
モドキの言葉をドナは涼しい顔で話した。
「キャロル様には元々そういう素質があるそうです。そのうち私達全ての聖獣と話せるようになるだろうと言っています」
よく分からないけれど、ドンドンと話せるのは私も嬉しい。
「これからよろしくね! ドンドン」
「よろしく、キャロル」
また新しい仲間が増えて、私は心の底から嬉しかった。
「ドンドンはボンドン同様、手先が器用なようだ。それに偵察や罠を仕掛けたりするのが得意そうだ」マッドが皆に教えてくれた。
「はい、マッド様の仰る通りです! あとは材料さえあれば爆弾なども作成できるそうです。それに釣りも好きみたいですから、僕はとても楽しみです!」
ボンドンが嬉しそうに話してくれた。その満面の笑みを見ていると、本当に良かったと心から思った。
「良かったな、ボンドン」
リオがそう言うと、ボンドンは照れながら喜んでいた。彼らの絆がまた一つ深まったのを感じ、心が温かくなった。
二日後にオルドたちが私たちのところにやってきて、レイが先日のことを謝りに、ドナに頭を下げた。
「この前は申し訳ないことを言ってすまなかった」
「良いんですよ、仲直りして欲しいと思って余計なことを言ってしまったと私も反省しています」
ドナがそう言うと、レイは続けて話をした。
「あの後、何度か話し合ったが、結局は元には戻れなかった」
「それで諦めたの?」リオが聞くと、オルドが答えてくれた。
「はい、彼らは既に他のチームに入ろうとしているようです。俺たちも前に進まないといけませんからね。それよりも、短時間で魔獣契約ができたと聞いた。おめでとう」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
レティとボンドンが礼を言った。オルドたちの顔はスッキリとしていた。きっと吹っ切れたのだろう。彼らにもまた、新たな道が開けることを願うばかりだ。




