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魔獣討伐1 マッド視点

マッド視点

 

 やっとインディとランランが俺たちと合流した。魔獣登録の準備はできてるから、あとは最終確認をして済ませるだけだ。インディは小さくなる魔法が使えるから、猫科で登録するつもりだ。それにしても、インディもランランもめちゃくちゃ強くなったな。インディは素早さが格段に上がってるし、ランランは回復魔法まで使えるようになってる。

 

 俺たちは予定通り、4月1日の朝6時に学院を出発することになり、今から魔法陣で向かうところだ。

 

「じゃあ、今から飛んでもらいます。魔法陣の扱いに慣れるため、生徒さんが操作してくださいね。どなたがやりますか?」

 

 真っ先に手を挙げたのはドナだった。

 

「じゃあ、私がやります! 行ってきまーす!」

 

 ドナはそう言って、レバーを一気に下げた。

 

 その瞬間、俺たちはあっという間に東レ盆地に到着した。学院を出て一瞬、視界がぐにゃりと歪んだかと思えば、次の瞬間には目の前に広がる景色が全くの別世界になっていた。

 

 そこは、四方を山々に囲まれた広大な盆地だった。遠くにはまだ雪を被った山々が連なり、その麓には緑豊かな森が広がっている。澄み切った空気が肺を満たし、鳥のさえずりが心地よく響く。静かで穏やかな、絵のような場所だ。

 

 後で聞いたら、学院では教員たちが大騒ぎしていたらしい。

 

「え、え、えーっ!?」

 

「どうしましょう! あの子たちは大丈夫でしょうか! まさか一気にレバーを下げるなんて! 魔力酔いが酷いと命に関わります! どうしましょう!」

 

「まあまあ、落ち着いてください。一応、到着したとは表示されてますから」

 

「あんな速さで大丈夫なのは、高位貴族くらいですよ! え、え、もしかして、彼らは高位貴族ですか!?」

 

 学院側は、俺たちのトンデモない到着速度にパニック状態だったようだ。だが、当の俺たちは何の問題もなく目的地に着いてる。

 

「では、予定通り二手に分かれて採集してください。途中で魔物に遭遇したら討伐もしてくださいね。夕方4時にこの地図の場所に集合です」

 

 ジルがそう言うと、俺たちは二手に分かれて歩き出した。

 

 俺はキャロルとジル、そしてドナと同じ班だ。途中の状況はラピスが教えてくれるから心配ない。

 

「マッド、ランランたちは先に進むみたいだけど大丈夫?」

 

「ああ、問題ないよ。この辺りに強い魔獣はいないから、先に必要な素材を集めてもらおう」

 

「じゃあ私はドナと一緒に、必要な鉱石を集めてくるわね」

 

「キャロル、頼んだよ。俺はインディに教えてもらった場所に行って、大鷲魔獣をジルと捕獲してくるから」

 

「うん、気をつけてねマッド、ジル」

 

「ああ、キャロルも気をつけてな。ドナ、頼むぞ」

 

「はい、モドキもいますので問題ありません」

 

 俺はジルと一緒に大鷲魔獣がよく現れる場所へ向かった。すぐに現れるわけじゃないから、採集したり素材集めをしたりしてると、ようやくその姿を見せた。

 

「ジル、捕獲するぞ!」

 

「了解です!」

 

 かなり大きな大鷲魔獣で、魔力も相当なものだ。風を操るみたいで厄介だな。

 

「マッド様、お待ちください。何かを訴えているように見えます」

 

 ジルがそう言うので、俺は手を止めて観察してみた。大鷲魔獣は俺たちから少し距離を取り、不安げに鳴きながら、しきりに地面のある一点を突くような仕草を見せる。その目には、助けを求めるような焦りが宿っていた。

 

「マッド様、ついて行ってみますか?」

 

 俺とジルは、大鷲魔獣について行くことにした。連れて行かれた場所には、羽色が違う大鷲魔獣が、今にも息絶えそうに横たわっていた。

 

「さっきの大鷲魔獣の母鷲のようだ」

 

 大鷲魔獣の母鷲を鑑定すると、状態異常(毒)と表示されていた。

 

「毒のようだ」俺はジルにそう告げた。

 

「やはりそうですか。かなり弱っていますね」

 

「スノウがいれば助けられるが、かなり遠い場所にいるから間に合わない。とりあえずキャロルとドナを急いで呼ぼう!」

 

 俺はラピスに連絡して、すぐにキャロルとドナを呼んだ。

 

 キャロルに浄化してもらったが、それはほんのわずかな時間稼ぎにしかならなそうだ。薬を使っても、少し呼吸が楽になった程度で、根本的な治療にはなっていない。

子鷲は横で、まるで元気付けるかのように母鷲に寄り添っている。だが母鷲の胸はか細く上下するばかりだった。その命の灯火が、今にも消え入りそうなのを見るたびに、俺の胸は締め付けられるようだった。

 

「リオ様たちも集合場所に向かっている頃でしょうから、行ってみます」

 

 ジルは決断した。瀕死の母鷲を抱え、リオたちとの待ち合わせ場所へと急いだ。子鷲は、周りを旋回しながら、悲痛な鳴き声を上げていた。

 

「頑張れ、頑張れ! もう少しだから頑張ってくれ!」

 

 ジルが語りかける声は、普段の冷静さとはかけ離れた、必死なものだった。その声が、命に届くことを俺たちは願った。

 

 やっと待ち合わせ場所に着いたが、まだリオたちは来ていない。だけど、そこにスノウがいた。どうやらラピスが、俺たちの窮状を見てスノウを連れてきてくれたみたいだ。

 

「ラピス、サンキューな」俺がラピスに礼を言うと、ラピスは「ピーピー」と鳴き、得意げに胸を張った。

 

 スノウが母鷲に解毒の魔法をかけると、みるみるうちに毒は完全になくなり、噛まれた傷も消えていった。息絶えそうだった母鷲が、ゆっくりと目を開ける。その力強い輝きは、まさに奇跡だった。子鷲は、すぐに母鳥の元へと飛んでいき、二羽は互いの無事を喜び合うかのように、体を擦り寄せた。

 

「ありがとう、母さんを助けてくれて本当にありがとう」

 

 ジルが、子鷲に向かって話しかけてる。俺は驚いて鑑定してみた。さっきまでは間違いなく魔獣だったのに、聖獣にいきなりなったりするのか?

 

「強い魔獣は、他の種族と意思疎通すると聖獣になりやすいんだよ」

 

 インディが教えてくれたが、それは驚きだった。

 

「そんなの初耳だよ!」

 

「でも最も影響したのは、オレたちのような聖獣が近くにいる事と、マッドたちの並外れた魔力や才能に影響を受けたんじゃないかな」

 

 インディが俺の頭に話しかけて教えてくれた。俺はまだまだ勉強不足だけど、このことを動物好きの父さんに話したらきっと喜ぶだろうなとふと思った。

 

「ジル、もしかして契約できたのか?」

 

「はい! グッドと名付けました。私もグッドも、マッド様のお役に立てるように頑張ります!」

 

 ジルの顔には、喜びと誇らしげな表情が浮かんでいた。

 

「おめでとう、ジル!」

 

「ただ、グッドは母親の回復を見届けてから着いてきてくれるようです」

 

「そうか、よろしく、グッド」

 

 グッドは大きく頷いて、空に飛んで行った。おそらく、母親の食事を取りに行ったんだろう。

 

 しばらくすると、リオたちが到着したようだ。母鷲がスノウのお陰で助かったことをリオに話すと、心底安心したような顔をしていた。

 

 そういえば、先日マリアはスノウが連れてきた少し生成色の聖蛇と契約してキナリと名付けたと言っていたな。キナリは一時的に仲間の身体を強化したり、目眩ましもできるらしい。リオはマリアを守ってくれる聖獣が出来てすごく喜んでた。俺にもその気持ちは分かりすぎるぐらい理解できる。

 

 この世界に来て、自分の命よりも大事な存在に出会えるなんて、本当に幸せだとつくづく感じている。

そういえば、もうすぐ魔獣召喚の儀式があったはずだけど、ボンドンとレティは受けるのかな? ふと思い出して確認してみた。

 

「はい、私は受けますよ」

 

 レティが言うと、ボンドンも当然のように言った。

 

「僕も受けようと思っています」

 

 俺は受けないけど、儀式は見てみたいとは思ってた。召喚の儀式はグループごとに行われるから、他のグループの召喚には立ち会えない決まりになってるんだ。既に契約した魔獣がいても儀式を受けることは可能だけど、俺たちには既に素晴らしい聖獣がついてるから必要ない。

 

 夕飯も終わり、今日の成果について話し合いを始めた。

 

「今日だけで7割は達成できたので、明日には完了できそうですね。聖獣たちの情報では、とても良い温泉があるそうなので、明日はその近くに拠点を置いて行動するのはいかがですか?」

 

 もちろん、誰も異議を唱える者はいなかった。温泉と聞いて、みんなの顔がパッと明るくなる。

 

 俺は今日はキャロルの隣で寝ようと思う。インディとランラン、ピッピも側にはいるけど……。

 

「キャロル、明日は鉱石を掘るんだよね?」

 

「うん、みんなにアンクレットを作ろうと思うのよ。アンクレットならそんなに目立たないでしょ?」

 

「うん、良いけど、願い事は程々にした方がいいぞ」

 

「マッドの願いは?」

 

「キャロルの安全かな」

 

「嬉しいけど、自分の願いは?」

 

「キャロルだって、俺やリオの安全だろう?」

 

「そうだけど……」

 

 俺はキャロルの頭を撫でて、おでこにキスをした。久しぶりにキャロルは真っ赤になって照れてる。どうしたんだろう、こんなに赤くなるのは最近では珍しい。

 

「どうした? いつものことなのに」

 

「えっ、だってランランたちがいるのに恥ずかしいでしょう!」

 

 全く可愛すぎるよ、俺のキャロルは。俺はもう一度キャロルの頭を撫でて、抱きしめながらぐっすりと寝た。

 


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