ミシュランでの出来事
「キャロル、そろそろミシェランへ行くクエストを受けようって話していたんだけど、いいか?」
マッドが私に尋ねた。
「ええ、私もそろそろ行ってみたいと思っていたの」
私は頷いた。ルルソン村でこれ以上目立つことを避けるためにも、新しい環境に行くのは良い機会だと感じていた。
その時、ギルド長のカルロさんがやって来て、私たちに話しかけてきた。
「鍛錬もしっかりやっていると聞いている。若いうちは苦労を買ってでもしろって言うからな。ミシェランへ行くのは2日後でも問題ないか?」
どうやら、2日後にミシェラン行きの乗合馬車に空きがあるらしく、その馬車なら無料で乗せてもらえるというのが理由のようだった。私たちはすぐに頷いた。
カルロさんは、私たちが頷くのを見ると、ミシェランで起こった奇妙な出来事について話し始めた。
「ミシェラン領で去年の1月に起こった出来事についての噂は知っているか? 結構有名な話で、この村でも話題になったほどなんだが……」
私たちが顔を見合わせて首を振ると、カルロさんは話を続けた。
「去年の1月に、4人の若者たちがミシェラン領へやって来たんだ。人種はバラバラだが、着ている物も持ち物も全く同じだった。それだけなら別に不審というほどではないが、常識が無く妙に横柄だったり、訳が分からない事を口走る連中だったので、門番が役人に連絡を入れたんだ。役人が到着後も4人はずっと揉めていたらしい。話を聞くとどうやら、入門料を払えない者がいて、誰が払うかで喚き散らしていたそうだ。平民が役人の前で大声で喚き散らして揉めることなんて、普通では考えられないことだ。分かるだろう? 下手をすればその場で殺される行為だからな。門の外の詰め所で話をすることになり、念の為に鑑定できる者を急いで呼んだ。鑑定の結果、4人全員がレアスキルと呼ばれる極めて貴重なスキルを持っていて、鑑定人もとても驚いていたそうだ。話をさらに聞くと、全員で10人いたというじゃないか。街はその噂で持ちきりになり、残りの6人を探そうと、当時は躍起になって大変だったんだよ」
「それで、6人は見つかったんですか?」
マッドが尋ねた。
「いや、同じ頃にミシェランに来た者たちを探し出して鑑定をしたが、レアスキルを持った者は見つからなかった。この村やルルカラ村でも同様に当たるように言われて探したが、該当する者はいなかったよ」
「4人はどうなったんですか?」
リオが尋ねた。
「ああ、ここからが最近起こった話に繋がる。当時、揉めていた者たちを引き離す為に、男2人はミシェラン領主が保護することになり、残りの2人に関しては冒険者ギルドが一時的に面倒を見ることが決まったんだ。冒険者ギルドで面倒を見ていたのは16歳の女と15歳の男だが、2人共それほど手は掛からなかったらしい。むしろ2人と離れたことを喜んでいたようだ。まあ、この15歳の男が金がなくて大声で喚いていた奴なんだがな。それから1年ほどが経ち、冒険者ギルド預かりの2人は働き口も見つかり自立したが、領主に保護された2人は傲慢で手が付けられないほどの厄介な奴らだったんだ。使用人への暴行も度々あったので奴隷にするつもりでいたんだが、その話をどこからか知った2人は逃亡を図った。奴らが逃亡してから半年後に、ギルドで面倒を見ていた男は水飲み場で死んでいるのが見つかった。持っていた財布が無くなっていたから物取りだろうと最初は思われていたが、その後に現れた目撃者の証言から逃亡した二人だと分かった。女はそれを聞いて酷く怯えて、再びギルドで面倒を見ることが決まったんだ。そんな事があり、街は大騒ぎになり、全力で2人の行方を追っている」
カルロさんの話を聞きながら、私の頭には、転生した日に森で見かけた5人組の顔が浮かんだ。4人とはどういうことだろう? あの後、また仲間割れでもしたのだろうか。彼らで間違い無い気がする。いいえ、間違いないだろう。
「カルロさん、それで俺たちには何か影響がありますか?」
マッドが尋ねた。
「ああ、いまだに入門の際には念入りに調べられるから、門は渋滞して街に入るのに時間がかかるだろう。初日の宿は取っておいた方がいい。ちょうどいいクエストがあるから、これも受けるといい。それと、逃亡した2人に関しては情報公開されているから資料を読んでおいてくれ。かなり危険な2人だから、見かけたらすぐに逃げろ、いいな」
カルロさんの話を聞いている間、私は天界で見たあの黒く恐ろしい魂を思い出し、震えが起こり止まらなくなった。今は考えるのをやめなければ……でも……怖い、会いたくない。その時、マッドの手が私の手を掴んだ。大丈夫だと言ってくれているようで、少しだけ落ち着いてきた。
カルロさんが勧めてくれたクエストは2つあった。
1つは、ミシェラン領の冒険者ギルドへ書類を届けること。報酬は、馬車の片道切符のみのお試しクエストだった。
もう1つは、冒険者ギルドの解体作業の手伝いで、報酬は冒険者ギルドでの宿泊だった。殺された男は、冒険者ギルドの解体作業の仕事をしていたらしく、今だに後任が見つからない為に、こうやってクエストが度々出されているらしい。
私たちは、カルロさんに言われた通り、ギルド内の資料室で逃亡した男たちの資料を見た。そこにあったのは、精巧な似顔絵と、詳細な個人情報だった。
「凄いな、似顔絵まで出ている」
リオが呟いた。
スターク
* 17歳
* 月属性
* 空間、逃走、槍
* 額に大きな傷跡がある
ルート
* 17歳
* 火属性
* 鑑定、隠密、ナイフ
* 赤茶色の髪、痩せ型で小柄
これを見て、私たちは確信した。やはり、私たちと同じ転生者で間違いなかった。スタークとルート、二人の顔は覚えている。
「闇と火か……確かに厄介だな。単独行動は絶対にしないでおこう。特にキャロルは気を付けるようにしないとな」
マッドが私の顔を見て、心配そうに言った。




