バンスの弟分 ベータ バンス視点
バンス視点
俺が盗賊団に身を置いたのは、弟のような存在の仲間、ベータを連れ戻すためだった。あいつは「良い話がある」と言われ、何の疑いもなく盗賊団の仲間になってしまった、とんでもない馬鹿な男だ。「盗賊団じゃなくて義勇団だと思った」なんて本気で言うんだから、本当に呆れる。俺はそんな馬鹿なベータを連れ戻すために、一時的に盗賊団に潜り込んだ。すぐにベータと接触できたが、逃げ出す算段を立てている矢先に、マッドたちへの襲撃指令が出され、今日に至る。
今は奴隷の身だが、奴隷のような扱いは一切なく、以前よりも遥かに楽しく生きている。できればベータも連れてきてやりたいが、あいつがどこにいるのか、俺には全く分からなかった。あの時捕まった盗賊たちは王都で売られたという噂だから、もうどこにもいないとは思うが、念のため奴隷商を探して順に回ってみることにした。ほとんどの奴隷は、買い手が見つからずに既に鉱山へ売られていた。探すだけは探したんだから、ベータだって分かってくれるだろうと自分に言い聞かせ、次で最後にしようと心に決めて、とある女主人経営の奴隷商店の門を叩いた。
信じられないことに、そこにベータがいたのだ。会ってみるかと言われて実際に会ったのだから、間違いない。
「おい、ベータ!まさかお前、こんな所で何やってやがるんだ!?」
俺が思わず大声で叫ぶと、ベータは目をぱちくりさせて俺の顔を見上げた。
「ん?……あ!バンスじゃねえか!なんでこんな所にいるんだよ?お前も捕まったのか?ってか、元気にしてたかー!?」
いや、元気にしてたかーじゃねえよ!俺はてっきり、鉱山送りになったと思い心配していたのに、元気そうに笑ってやがるぜ。
なぜ鉱山に送らなかったのかと不思議に思い、思わず女主人に尋ねてみると、彼女はにこやかに笑って答えてくれた。
「彼はどう考えたって、悪さができる頭を持っているとは思えないでしょう?それに、あまりにも無邪気で……」
どうやらベータは、本質を見抜く女主人の慧眼と、その馬鹿正直さのおかげで命拾いしたようだ。そういえば、ベータは昔から妙に運がいい気がする。
ドナにベータを買い取ってもらえないか頼んでみようと思い、俺はドナに声をかけた。
「ドナ、奴隷を一人買ってくれないか?」
ドナは無反応だ。分かっていたさ、そうだろうと思ったよ。諦めずに、さらに畳みかける。
「ドナ、野営する時はドナの分の設営も俺が全部やってやるからさあ、頼むよ」
少し耳が動いた気がしたが、まだまだのようだ。
「ドナ、店舗が開いたら、店番は俺がやってやってもいいぞ」
すると、ドナの口からようやく言葉が出た。
「奴隷の購入代金はバンス持ち?」
おお、反応してきたぜ!
「足りない分は借りることになるが、必ず返すぜ。借用書も書くから、頼む」
「うーん、キャロル様に聞いてくるから待ってて」
おおーー、やったぜ!やっぱりベータは運がいいぜ。
マッド、キャロル、ジル、ドナ、そして俺の五人で奴隷商店に向かった。向かう途中、俺はベータの事を必死で売り込んだつもりだったが……。
「そこまで馬鹿だと、何をしでかすか分かりません。マッド様、購入はやはり止めた方が良いかもしれませんね」
ジルがとんでもない事を言い出しちまったぜ。俺はこれ以上ベータの話をしないように口を閉ざすことにした。
「うん、俺は良いと思うが、キャロルはどう思う?」
マッドがキャロルに聞いている。キャロル、頼むぞ、全てはキャロルの一言で決まるのだろう。俺は固唾を飲んで彼女の言葉を待っていた。
「うん、私も良いと思うわ」キャロルの声が響く。
よし、マッドとキャロルが賛成なら、もう決まったも同然だ。こうしてベータは無事に俺たちの仲間になった。やっぱりベータは運が良いとしか思えない。
それにしても奴隷商店の女主人は男前だ。俺が奴隷じゃなかったら、嫁さんにしたかったぜ。まあ、奴隷じゃなくても無理だろうがな。
後日、マッドから聞いたが、ベータのスキルは隠れており水晶鑑定では表示されないような珍しい奴らしい。しかも幸運持ちで、尚且つ人に幸運を与える素質もあるそうじゃないか。俺がベータを連れ戻しに盗賊団に身を置く必要など、最初からなかったのではないだろうか……。
嫌、もしかしたらベータのお陰で俺は以前よりも良い暮らしをしているのではないだろうか?まあ、考えても分からないからどうでも良いや。
ベータ:風属性、幸運、幸運を与える
ベータが俺たちに加わって数日後のある日のこと、キャロルが「今夜は何か美味しいものが食べたいわ!」と声を弾ませていた。マッドが「じゃあ、俺とバンスで何か狩ってくるか」と立ち上がった時、ベータが手を挙げた。
「俺も食べたいから一緒について行くよ!」
俺は正直、「足手まといになるだけじゃねぇか?」と思ったが、マッドは「幸運持ちのベータがいたら、何か面白いものが見つかるかもしれない」と笑っていた。半信半疑のまま、近くの三人で森へと足を踏み入れた。
森に入ってすぐ、ベータは何かを発見したように茂みの奥へ分け入った。俺たちが遅れて追いつくと、そこには普段なかなか見つからない貴重な薬草が群生していた。さらに奥へと進むと、今度は珍しい種類のキノコが大量に生えている場所に行き当たった。まるでベータの行く先々に、隠された宝物が現れるかのようだった。
そして、最も驚いたのは、巨大な猪を仕留めた時のことだ。俺たちが猪の群れを発見し、慎重に距離を詰めていると、ベータが突然「うわっ!」と叫んで、地面の木の根につまずいた。普通なら転倒するか、少なくとも体勢を崩すはずなのに、なんとその猪は、ベータが倒れこんだ拍子に偶然転がってきた小石に驚き、木に頭をぶつけて気絶してしまったのだ。俺とマッドは顔を見合わせて笑うしかなかった。
「おい、ベータ、お前、やっぱりとんでもねえな!」俺が言うと、ベータは頭を掻きながら「へへっ、これも運ってやつか?」と無邪気に笑った。その日、俺たちは大量の珍しい食材を抱えてタウンハウスに戻った。キャロルとドナは、その日の晩餐に並んだ普段お目に掛かれない食材に大喜びだった。
ベータの幸運は、自分だけではなく他の皆んなにも幸運をもたらすものなのだと俺はこの時つくづく思ったものだ。




