かつての英雄
カヤザール視点。
かつて僕は灯火の英雄と呼ばれていた男だった。
まだ【魔導帝国】が存在している頃、僕は同じ国の為に剣を振るっているだけの青年だった。
そして【神聖マヨネーズ】との戦いに招集されて、戦果を上げていくと次第に灯火の英雄と呼ばれる事となった。
僕は嬉しかった。
また一層、仲間の為に剣を振るい灯火の英雄の名に恥じないよう活躍しようと、そう思っていた。
突然だった。
突然の雪、それが【魔導帝国】を襲った。
僕は得意の〈栄光の灯火〉で仲間を守ったが、その他大勢の国民を守る事はできなかった。
そんな時に、彼が現れた。
確実な襲撃、大いなる厄災と悪がこの地を襲っていると思っていた。
だが、彼はこう言い放った。
「俺はこのように大悪党を演じているがね、別に俺自身は悪だとは微塵も思っちゃ居ない」
ふざけるなって思った。
怒羅魂の言う通り、ここまで【魔導帝国】を滅茶苦茶にして自分は悪いと思ってないだと!!
許せなかった。
彼がこの地を破壊するならば、容赦しない。
そう思って戦争に挑んだが――――結果は敗北。
あの〈吹雪〉の前では数なんて無力だったのだ。
当然、僕は人に見られない所で責任感に苛まれていた。
僕のせいで皆が…………。
すまない、すまない、と。
正直、これからどうなるのかは全く予想付かない。
国民を酷い目に合わせるに違いない。
囚われたフラーペだって、そう簡単に開放なんて――――
「フラーペ? あぁ、彼女か。今は捕虜として本国に居るよ。ここの占領が終わり次第、彼女を開放しよう」
…………そんなあっさり?
再度彼の顔を見て気づいた。
この人全く憎しみが無い。
なんなら少し満足気で、まるで遊具で遊び終わった子供のような、そんな奇妙な感覚がする。
「一体何を考えているんだ?」
僕は裏路地で一人悩んでいた。
彼と対峙している時、まるで僕は彼を悪魔か何かだと思っていた。
そして、いざもう一度対峙すると……ただの子供のように感じてしまった。
でもそれじゃあ、そんな相手に怒っている僕は碌でもない奴みたいになるじゃないか。
まるで対戦終わりに文句言っている嫌なプレイヤーと全く同じじゃないか。
「そんなに縮こまって、どうしたの?」
「君は……」
鉄の鎧……あぁ、彼らの兵士か。
声は非常に若々しいけど、そんだけ重い鎧を身に着けるって事は歴戦の戦士か何かだろうか。
「何の用かな。敗者を煽りにでも来たのかい?」
「拗ねてるの?」
「拗ねてない」
「確かに負けは悔しいもんね、僕も鬼と腕相撲したとき負けて悔しかったもん」
鬼と腕相撲…………きっと【鬼ヶ島】に居る鬼の事だろう。
僕も一度対峙してみたが、彼らは強い。
全力の一撃を喰らったのに、気絶程度で済ませていた。
そしてもう一体の鬼にも蹂躙された。
そんな彼らと腕相撲だなんて、この兵士は度胸があるな。
「君は……何故彼らに従うんだい」
ふと、こんな事を聞いてみた。
分かってる、これは難しい質問だ。
僕にこれを投げかけれても、鮮明な答えは用意出来ない。
そう言いながら、ふと顔を上げると……僕は驚いた。
目の前には、子供が居た。
背中に羽が生えてるという事は普通の子供じゃ無いのは確かだが、後の重厚な鎧の中から顔だけ飛び出して、一生懸命僕の質問の答えを探している様子だった。
「うーん……何故、何故か……あっ、お友達を助けてくれたから!!」
「お友達?」
「うん、ある日間違って〈吹雪〉使ったらお友達が巻き添えになっちゃってね……」
あの〈吹雪〉の巻き添えになったのか……。
出来れば、僕も二度と〈吹雪〉の被害に会いたくない。
「それを助けてくれたのがトグだったの!!」
「……そうか」
この子にとってトグは恩人か。
我々にとってトグは恐怖の象徴だが、彼らにとっては大事な仲間なんだろうな。
ふと、こんな言葉を思い出した。
「善悪なんてものは立場によってブレる。そんなものが本当にあるのかすら疑わしいと思わないかね」
そうか、そういう事だったのか。
誰かにとっては善で、誰かにとっては悪、でもいちいちそんな定義してたらキリが無い。
大事なのは、やりたいと想う意思のみ。
「ありがとう、君のお陰で少し分かった気がするよ」
「どういたしまして? お兄さんも、あまり思い詰めない方がいいよ。また良いことがあるって」
「…………そうだな」
この氷の妖精、エピソード「雪の妖精とお友達」にて助けを求めた妖精と「見ちゃ駄目なタイプのモンスター」で腕相撲してた妖精と同一個体です。




