魔導配信者アルノルトの挑戦
魔導通信が発達し、遠く離れた国々ともリアルタイムで映像を共有できるようになった時代。エルリエール大公国の片隅に、ひとりの青年がいた。彼の名はアルノルト。街の教会で働く傍ら、趣味として“魔導配信”を行っていた。
「今日は視聴者のみんなに、新作の魔力式トラックを紹介するぜ!」
アルノルトは魔導水晶に向かって笑顔を作った。手元の魔導端末に視聴者のコメントが次々と流れてくる。
「アルさん、トラックって本当に速いの?」
「おいおい、今日は炎の魔法実験じゃないのか?」
彼は苦笑しつつ、トラックの荷台を指さした。
「こいつは最新型で、なんと積載量が2倍になったんだ。街のパン屋からラムダの港町まで、1日で荷物を運べる優れものさ!」
視聴者は驚きの声を上げる。アルノルトは少し誇らしげに、乗り込むとエンジンを魔力で起動させた。トラックは青白い魔力の光を帯び、軽やかに街の石畳を滑り出した。
だが、その時だった。
「な、なんだ?」
道の向こうに、黒い影が現れた。巨大なゴーレムスーツ『ライオネル』だ。護衛任務についていたはずのそれが、なぜか暴走している。視聴者のコメント欄が騒然となる。
「やばいぞ、逃げろ!」
「魔導配信中に事件発生か?!」
アルノルトは焦ったが、冷静さを失わなかった。視聴者が見ている中での醜態は、配信者としてのプライドが許さない。彼は素早く魔導端末を操作し、ゴーレムの暴走原因を探る。
「……くそっ、魔力石の暴走か!」
彼は知識を活かし、機械に対する修理魔法を施すことにした。しかし、ゴーレムの力は凄まじく、トラックが踏み潰される寸前だった。
「おいおい、こんなところで配信終わるわけにはいかない!」
アルノルトは機転を利かせ、魔導トラックの加速魔法を最大限に活かしてゴーレムの動きを封じる作戦に出た。視聴者の数も急増し、画面の向こうでは「アルさんがんばれ!」の応援が飛び交う。
そして——彼は見事にゴーレムの背後に回り込み、修理魔法を放つ。暴走していた魔力が沈静化し、ライオネルはその場に膝をついた。
「ふう……なんとか間に合ったか」
安堵の笑顔を見せるアルノルト。視聴者からは拍手のエフェクトが魔導端末上に溢れかえった。
「さすがアルさん!」
「これだから魔導配信はやめられない!」
彼は額の汗をぬぐい、再び魔導水晶に向かって言った。
「さて、今日はここまで!また次回の配信でな!」
視聴者数は過去最高の記録を達成していた。アルノルトは魔導配信者として、また一歩、成長を遂げたのだった。