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ケイとエム  作者: みん
1/3

終わりの始まり

何故こんなにも、盲目的に愛してしまったんだろう


貴方をどんなに想っても、この心は痛むばかりだと言うのに………

貴方の声を、顔を、香りを、思い返すたびに胸が締め付けられる


私たちの間には確かに愛があったと、そう信じてもいいの……?


ケイ………愛してるよ…





目が覚めると、カーテンの隙間から差し込む光が目に突き刺さり思わずまた目をきつく閉じた。


ドタドタドタドタ…


階段を駆け上がる音。


バタンッ


未夢(みゆ)!起きなさい!!遅刻するわよ!!」


お母さんの大声で、頭が覚醒する。


と同時に、寝起きの大声が頭に響き、フツフツと沸き上がるのは怒りだった。


「っさいな。起きてるから!」


勢いよく起き上がり、ベッドから降りてドスドスとわざと音を立てながら階段を駆け下りた。


中学2年生、俗に言う反抗期だと客観的に分かっていても、だからこの八つ当たりを抑えようだとか、もう少し態度を改めようだとか、そんな考えは微塵も起こらなかった。


私をこんな風にしたのはこいつだ。



「おはよー」


眠そうに携帯でニュースをチェックしながらパンを齧っている父親を無視して、脱衣所に向かう。



鏡に向かって歯磨きをしている弟を睨みつけ、低い声で呟く。


「どいて」



鏡越しに目が合い、睨み合う形になっても弟は避けないし、私の言葉を無視する。


双子だけど、顔も性格も似ていない弟。


「未夢なんかと血が繋がっている事が何よりも恥」らしい。


弟がよく周りに言っている言葉だ。


私だってこんなやつ、弟だとも双子だとも思いたくはない。


「チッ」


私は思わず舌打ちを漏らし、先に服を着替えることにした。


悶々とした気持ちで自室に戻る。


白のカッターシャツに黒いブレザー、黒い膝下丈のプリーツスカート、リボンもないダサい制服。


優等生になったような錯覚を起こすほど、無機質で無難な制服。

吐き気がする。



着替えを済ませ2階から再び1階に降りると、少しして弟が用意を済ませリビングで優雅に朝食を食べ始めた。


無性にイライラしながら、洗面所で歯磨きをしている時、鏡に映る自分の浮腫んだ顔が眉間に皺を寄せ、余計に醜くて酷く腹立たしかった。


顔を洗う時、制服に飛び散った水道水がとても汚く思えて、弟に邪魔されたせいで制服が汚れたと酷くイライラした。


とにかく全てに腹が立つ。


何もかもが周りのせいで、私の周りの環境全てが気に入らない。


弟は優秀な訳でもないのに真面目なガリ勉というだけで親から怒られることもない。


テストの点数は同レベルなのに、両親は私にだけため息をつく。


こんな腐った家から抜け出したかった。


親なんか要らない。弟なんかもっと要らない。


死んで欲しいほど興味も無い。ただひたすらに視界から消えて欲しかった。








「おはよー!未夢ー!」


「おはようてか、こんにちはじゃない?笑」


学校に着くと昼休憩で、教室はザワザワと騒がしい。


学校の外では遊んだこともない同級生AとBが話しかけてくる。


無視だ、無視。

私の無視は日常茶飯事


近所の公園で時間を潰していたらいつの間にかベンチで寝ていて、学校に着いた時には12時を超えていた。


これもいつもの事だ。


私の事を異物のように遠目に見るヤツ、キャピキャピと甲高い声で話しかけてくるヤツ、コイツらみんな嫌いだ。


でも欠席すると親に連絡が行って面倒だから、昼からでも一応出席するようにしていた。


でもふと思う。


怒られるから何だと言うんだろう。放っておけばいい。耳に入れなければいい。


でも親の庇護無しで生きていくには幼過ぎる。私は自分だけで生きられない。


自分の事を大人だと勘違いしている子供だった私は、自分一人では生きられない現実を悟っている現実主義者を気取りながら、でも1人で生きられる術を探せる大人の心を持つ人間だと思っていた。


教室で退屈な授業を聞き流しながら窓の外を眺めていた。


あぁ、ムカつくほどいい天気。


私の気分はこんなにも毎日毎日最悪だって言うのに。



ふと思ったのだ。




こんな生活抜け出して、誰も私の事を知らないところに行きたいな…


願うだけじゃダメだ。誰も助けてなんてくれない。


自分で動かないと……!



家に帰っても、気が済むまでネチネチ小言を言い続ける口うるさい母親、

当たり障りのない言葉を口にして波風を立てず実際は無関心な父親、

私を汚物を見るような目で睨み付け、無視を決め込む弟。


分かってる。反抗期が激しく素行の悪い娘に対して為す術なくこうなってしまっているのだと。


でも、私にだって理由はあった。


昔からお姉ちゃんだからと弟ばかり優先して、何より双子なんだから姉も弟も無いだろうに、何故か両親とも弟ばかり可愛がった。


頭の悪さは同じくらいなのに、弟には勉強より大事な事があると慰め、私には、女なんだから学歴がないと結婚出来ないと、小さな頃から歪な価値観を押し付けられた。


まだ小学生の頃、私が絵で賞を取っても「あ、そう、おめでとう」と無関心だったくせに、

弟が運動会のリレーで1人追い抜いただけでお寿司とケーキを買ってお祝いした。


えこひいきばかりの母親、空気のように母親に合わせるだけの父親。


もううんざりだった。




放課後を過ぎてもしばらく一人で教室に残り、今夜の計画を練りながら、

家族とも言えないあの人達と顔を合わせる時間を少しでも減らすことに集中した。



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