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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

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最終話 赤き狼の群れ

 ロズワルドによる災厄予言を回避してから二週間後。

 リュートは学院長ローゼフの任務を終えて魔法工学学院へと戻ってきていた。

 その任務とは学院の近くに現れたという魔物の討伐。


 リュートは傭兵だ。

 ロズワルドとの戦いで報酬金を受け取ったが、それでも生きていくにはまだまだ足りない。

 なので、ローゼフに仕事を斡旋してもらい、お金を稼いでいる。


 リュートが正門を抜けると、大きな通り道がある。

 その横には通りを歩く生徒を迎えるように花壇があり、色とりどりの花が咲いている。

 その花壇の一角ではネリルの姿があった。

 ネリルはまだ体が回復していないためか車いすに座っている。

 しかし、元気はしっかりあるようで、一緒にいる学院の生徒数人と楽しくしゃべっていた。


 生徒の一人がリュートの存在に気付くと、ネリルに声をかける。

 そして、ネリルはリュートの存在に気付き、生徒達と別れ、一人車いすを動かしてリュートに近づいた。


「こっちのことは気にせず話していれば良かったのに」


「いいの。あの子達とはまたいつでも話せるんだから」


「それって普通逆じゃないか? 俺達こそいつでも話せるだろ。兄妹だし」


「普通じゃないし逆でもない。ほら、私が言うのもなんだけど、攫われちゃったし。

 それに兄さんも気が付けばふらっと消えてそうだしね。それはそうとお仕事お疲れ様」


「あぁ、今日もしっかりと稼いできたよ。ネリルは体の調子はどうだ?」


「全然問題ないよ。ほら、体のこのとーり!」


 ネリルは両腕を曲げて力こぶを作って見せた。

 当然ながら、まだ病み上がりに近いネリルにはほとんど筋肉がない。

 なので、力こぶはぷくっと僅かに出来た程度であり、全然固そうではない。


 ネリルの体はロズワルドによる投薬実験により弱っている。

 しかし、学院で身体検査してみれば、竜の血が作用して順調に回復しているようであった。

 とはいえ、そのようなことをしなくてもリュートには元気を振る舞うネリルを見ればすぐにわかる。

 リュートはニコッと笑った。


「にしても、私達の体に竜の血が流れてたなんて......そんなこと全然知らなかった。兄さんは知ってた?」


「いいや、全然知らなかった。

 知ってたらもっと上手く力をこなせるように努力したし、そもそもこんなことにはなってなかっただろうし......」


「兄さん......」


「ごめん、怖いを思いをさせて。俺が油断していたばっかりに」


「私は兄さんを責めたりしないよ。

 だって、私達は血がつながってなくとも家族だったんだから。

 だから、行動を疑わなかった。それに気づかなかったのは私も同じだし」


 リュートとネリルは静かになる。

 ついしんみりとした話になってしまった。

 青空に昇る太陽だけがやたら眩しく輝いている。

 すると、そこに一人の男性がやってきた。


「全く、二人揃って気を遣って......本当に兄妹だな、君達は」


「ローゼフ学院長......どうしてここに?」


「友達と話そうと思ってね。依頼が終わったならせっかくだ、二人も来るかい?」


 ローゼフが先を歩き、リュートがネリルの車いすを押して続く。

 他愛のない会話をしながらやってきたのは墓地であった。

 リュートはふと周囲を見渡す。


「そういえば、リュート君と契約した時もこの場所だったね」


「そうですね。今となっては懐かしい話ですね。

 そういえば、他の家族の骨も見つかったんでしょうか?」


「少しばかりなら。全部と言えずに申し訳ない」


「いえ、十分なぐらいです。探してくださりありがとうございます」


 リュートは立ち止まり、ローゼフに頭を下げる。ネリルも同じく頭を下げた。

 その行為に「よしてくれ」とローゼフは笑って返答する。

 そして、数々の墓石の間を通り抜け、最後に辿り着いたのは”銀狼の群れ”傭兵団団長ガイルの墓であった。

 もっとも、その墓にはガイル以外の家族(なかま)の骨も埋められている。


 ローゼフは手に持っていた花束を墓石に置いた。

 そして、三人は墓石の前で黙祷を捧げる。

 ローゼフは目を開けると、口を開いた。


「水分と立派な息子を持ったな、ガイル」


「ふふっ、きっと恥ずかしくて笑ってるかもしれませんね」


「そうだな。親父ならありえそうだ」


 しばらく、墓石を眺めた後、ローゼフが兄妹に振り返る。


「君達はこれからどうするんだい?」


 その言葉にリュートとネリルは顔を見合わせる。

 リュートは妹を助けるという目的を果たし、ネリルは現状治療に専念である。

 故に、二人は明日のことすらロクに考えてはいない。


「今は全然って感じですね。俺は.....一先ずネリルの体調が戻ったら、その時に考えることにします」


「私も特には。今は早く元気になって助けてくれた人達にお礼したいです。

 あ、強いて言うならそれが目的かもしれませんね」


「そうか。ならせっかくだ、今の内に考えておいてくれ――私との再契約を」


 リュートはその言葉に首を傾げた。


「再契約?」


「今回、聖女スーリヤの話により災厄の予言に従って行動してもらった。

 結果、君達の活躍によって事なきを得た。

 とはいえ、災厄の予言以外でも各地の防衛拠点<箱庭>では、今でも魔物によって大きな被害が出ている場所は多い。

 そこで君にはその魔物を討伐してきてもらいたい。先の依頼のようにな」


「つまり、また各地を巡る旅をしてこいと?」


「あぁ、そういうことだ。とはいえ、急ぎの用というわけでもない。

 それにどうせなら各箱庭には有名施設もある。楽しんでくるといい」


 リュートはネリルの顔を見る。ネリルに行ってもいいか、と確かめているのだ。

 それに対し、ネリルはコクリと頷いた。

 リュートはローゼフの方へ視線を移動させた。


「わかりました。その話、引き受けます」


―――一週間後


「ネリル、もう体の方は大丈夫なのか?」


「大丈夫だって。それに戦闘になっても、もともと後衛の回復支援役だから間違ってないって。

 それに危なくなっても兄さんが助けてくれるんでしょ?」


「あぁ、もちろん。ただ、自衛できることに越したことはないけどな」


「それはそう」


「全く、朝から兄妹と思えないイチャつきっぷりね」


 リュートが振り向くとそこにはリゼの姿があった。

 彼女以外にもソウガ、ナハク、セイガといった見慣れた面々の顔もある。

 そんな彼らは兄妹を見て口々にリゼの感想に続く。


「ま、仲が良いのは何よりだ」


「家族はあんなもんだよ。ね、セイガ?」


「ウォン!」


「で、今回はどのくらいになりそうなの?」


 リゼが質問してくる。彼女、否、彼女達の背中には大きな荷物を背負っている。

 つまり、これからのリュート達の旅についていくということだ。


「どうだろうな。現状は未定だ。どのくらいかかるかわからない。

 だから、ちゃんと家族に言ってきたか?」


「そこら辺は抜かりないわ。

 心配所のあんたはそういうだろうと思って、あらかじめちゃんと言ってある。

 で、出発するんでしょ? 掛け声はないの、団長?」


 リュートは「ハハ、そうだな」と返事をし、正門へ体を向ける。

 そして、掛け声を言った。


「”銀狼の群れ”を改め()狼の群れ......出発だ」


「「「「おー!」」」」「ウォン!」


 そして、赤き狼は再び群れを成して動き始めた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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