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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

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第85話 決戦の地#3

 リュートの瞳は縦長に伸びていた。

 竜人へと変化したロズワルドと同じ特徴だ。

 ロズワルドはその姿に困惑しながらも、顔には笑みが浮かんでいた。


「どうやらようやく竜の血が目覚めたようだな」


 ロズワルドは地面に手をつけて起き上がる。


「その目だ。その目を待っていた。それが竜の血を持つ証。気分はどうだ?」


「あぁ、最悪だよ!」


 リュートは地面を蹴って走り出す。その一歩は地面を割った。

 すぐさまのロズワルドの背後に回り込むと、大剣を下から上へと斬り上げた。

 瞬間、ロズワルドの左腕が吹き飛んでいく。


「くっ!」


 ロズワルドは痛みに顔を歪める。

 しかし、怯むことなく振り向き様に尻尾を鞭のようにして攻撃してきた。

 その攻撃に対し、リュートは上半身を逸らして尻尾を回避。

 続けざまに来るロズワルドの右手の手刀を、リュートは左手で掴み、胴体に前蹴りをかました。


「んぐっ!」


 直後、ロズワルドは右腕がブチッと千切れ、蹴られた勢いで地面を転がっていく。

 ロズワルドはすぐさま立ち上がった。両腕からは血が噴き出していた。


「先程までとは明らかに攻撃力が違う。

 同じ竜の血を持つもので同士では純粋な戦闘力勝負になるということか。

 なるほど、勝負はここからというわけか」


 ロズワルドは両腕に力を込める。

 すると、何もダメージが無かったかのように両腕が再生した。


「いいや、終わらせる」


 リュートは左手を頭上に掲げた。

 そして、その手から曇天に向かって雷の球を発射する。

 直後、雷の球に触れた空は瞬く間に雷雲へと早変わりし、ゴロゴロと音を鳴らし始めた。


「何をするつもりだ?」


「躱せるものなら躱してみろ――天雷」


 リュートは左手で空を掴むように握る。

 そして、叩きつけるように真下に振り下ろした。

 直後、青白い光を瞬かせた空から瞬きよりよも早く雷が落ちて来る。

 それはロズワルドに直撃した。


「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!」


 当たった時間は一秒にも届かない。されど、その威力は絶大。

 ロズワルドの肉体は全身に焦げ跡を残し、痺れて動けなくなっていた。

 そんな相手に対し、リュートは大剣を両手で握って構える。


「赫灼風輪」


 リュートは大剣に炎と風の二属性を纏わせた。

 大剣を覆う炎は風魔法によって空気が流れ込み、生きているかのように火の粉を激しく散らした。

 そして、それをロズワルドに向かって振るう。


―――ゴゴゴゴゴ


 放たれた巨大な斬撃は高さが十メートルもある。

 それは地面を割りながら突き進む。


「うおおおお!」


「っ!?」


 ロズワルドは僅かに開いた口から大声を絞り出した。

 直後、周囲の魔物達がその声を聴いて一斉にロズワルドの前に集まり始める。

 その光景はさながらロズワルドを身を挺して守る仲間のようであった。

 しかし、その魔物達は斬撃にあっという間に斬られ、焼かれ、そして斬撃はロズワルドに届く。


 炎の斬撃はロズワルドに直撃直後、盛大に爆発した。一瞬にして周囲が真っ赤に染まる。

 同時に、爆炎によって周囲の魔物の肉片が飛び散り、衝撃波が遠くにいた魔物さえ吹き飛ばす。

 当然、その吹き飛ばされた中にはロズワルドも含まれていた。


「チッ、妨害で威力が落ちて殺しきれなかったか」


 リュートはすぐさまその場を移動し、ロズワルドに襲いかかる。

 一瞬にして間合いを詰め、両手に握った大剣を振り下ろした。

 しかし、その攻撃はロズワルドに距離を取られて避けられる。


 直後、リュートはすぐさま大剣の柄を逆手に持ち替えた。

 血管が浮き出るほどしっかりと握りこみ、前方に向かって投げる。

 高速で飛来する大剣がロズワルドを追撃した。


「自ら武器を手放すとはな!」


 ロズワルドは半身になって大剣を避けた。

 されど、その行動は距離を詰めるには十分な行動だ。

 リュートはロズワルドに近づき、左手を伸ばしてロズワルドの右腕を掴む。


 そして、ロズワルドの言葉に反応することなく左腕を引き寄せ、近づいてきた頭に頭突きした。

 ロズワルドが怯んだところを振り下ろした右拳で追撃する。

 しかし、それはロズワルドの左腕で弾かれた。

 同時に、ロズワルドの尻尾のカウンターが襲い掛かってくる。


「なっ!?」


 ロズワルドは直撃を予見した自信にあふれたような顔をしていたが、すぐに目を開かせた。

 なぜなら、リュートは突くように迫ってきた尻尾を躱し、さらには横から噛んで咥えられたからだ。

 リュートはその状態で視線をブラさない。殺意の籠った瞳がロズワルドを睨む。


「ぐはっ!」


 リュートはロズワルドに胴蹴りする

 ロズワルドは背中から打ち付けられるように地面を転がった。

 「来い」とリュートは口ずさむと、右手に雷を走らせる。


 その右手の先から放たれた紫電は、遠くに魔物に刺さって止まっている大剣の柄に反応した。

 すると、ガタガタと震えだした大剣は引き寄せられるようにリュートへと移動した。

 大剣を掴むとすぐに、左手で狙いを定め、右手を大きく引いて突きの構えを作る。


 リュートは右手に宿した雷を全身並びに大剣へと移動させる。

 バチバチッと紫電が音を鳴らし、リュートが集中力を高めると同時に音は激しさを増す。


「雷貫」


 リュートは胸を大きく張り上げ、空に向かって大剣を突く。

 直後、大剣の刃先からは眩い閃光ともに砲撃が正面に向かって放たれる。

 リュートの目の前の一切合切を焦がし消滅させ、紫電走る雷は大地をも抉り、ロズワルドに迫った。


「うがっ!?」


 バンッと弾けた音がした。ロズワルドの左半身が砲撃で抉り取られた。

 ロズワルドはその場に立ちすくみ、そして膝から崩れ落ちた。

 それでもロズワルドに息があるのは竜人族へと変化した肉体の影響だろう。

 しかし、それも長くないことはリュートにも容易に理解できた。


「ロズワルド、死ぬ前に妹の居場所を吐け」


 リュートは大剣を担ぎ、ロズワルドに近づく。その姿に油断はない。

 すると、その質問に対し、ロズワルドはニヤリと笑みを浮かべた。


「......そんなに妹に会いたいか」


「当然だろ。生き残った俺のたった一人の家族だ」


「そうか。ならば、会わせてやろうじゃないか」


「何?」


 リュートはその言葉が信じられなかった。

 なぜなら、ロズワルドは自分の目的で行動する人間だ。

 加えて、笑っている様子からしても命乞いをしている風には見えない。

 すると、ロズワルドは大声で叫ぶ。


「来い、我が最恐の竜よ!」


 瞬間、曇天には巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 周囲を眩く照らすそれは明滅し、その頻度は時間が経過するたびに多くなる。

 そして、眩しくて目が開けられない光量ととに”それ”は召喚された。

 その姿はまるで神が降臨したかのような威圧感を放っていた。

 また、その存在感は戦士達や魔物が戦闘すらやめて視線が釘付けにさせるほどの主張がある。

 

「グオオオオォォォォx」


 ゆっくりと召喚される”それ”は低い唸り声をあげる。

 それは太古の昔に人々が恐れていた存在そのもの。

 その鱗は生半可な剣や魔法に傷一つつかない。

 その牙や爪はあらゆるものをかみ砕き、切り裂く。

 その翼は太陽を隠すほど大きく、空の支配者たる主張を示す。

 その尻尾はしなやかで長く、あらゆるものを砕き叩き潰す。

 かつての世界の支配者だった最強種――竜と呼ばれる存在が地上に現れた。


 その存在に人も魔物も関係なく恐怖させ、慄かせ、立ちすくませた。

 誰しもが口を僅かに開けながら「勝てるのか?」という疑問を思わせる顔をした。

 それはリュートも同じ――否、彼に関しては別の理由であった。


「......ネリル?」


 リュートは困惑する。なぜなら、竜の胸には妹ネリルの姿があったからだ。

 下半身と両腕が取り込まれていて、まるで磔にされているような状態だ。


「ククク......気づいたか、リュート。竜の胸にいるお前の妹の存在を。

 お前が高純度の竜の血を持っている以上、妹にも同じ血が流れてるも同じ。

 つまり、お前の妹を媒介とすれば、竜を復活させることができるというわけだ!」


「テメェ......!」


「見た目は多少劣るが、性能はわかり切っている。比類なき強者という性能がな!

 さぁ、太古の竜よ! デビュー戦と行こうじゃないか!」


 ロズワルドは瀕死だ。

 にもかかわらず、自分の死すら興味がないかのように声色を高くして叫んだ。

 しかし、ロズワルドのテンションに対して、竜はとても静かであった。


「おい、何をしている!? 私の声が聞こえないのか!?」


 ロズワルドは竜に問いかける。

 すると、竜はゆっくりと足を上げた。


「そうだ、それでいい! そのまま前進して自分の兄を殺せ!.......おい、何をしている」


 竜の足はロズワルドの頭上で止まった。

 その行動にロズワルドは冷や汗をかき始めた。


「待て、私はお前を生み出した存在だぞ! 言わば、神だ! 待て、言うことを聞け――」


 リュートがその場から離れたと同時に、プチッとした音が竜の足元からした。

 間違いなく踏み潰された音だった。

 かつて世界の支配者たる存在を支配できるものはいないとでも示すように。


「ネリル、俺だ! リュートだ! 聞こえているか!?」


 リュートは大声で叫び、自分の存在を主張した。

 すると、竜はゆっくりと口を開け、凶悪な牙を覗かせる。

 言葉が通じた、とリュートは一瞬口を緩めたが、上がった口角はすぐに下がった。


 竜の口からボゥと炎が漏れ出ていたからだ。

 その時、リュートはゾッとした悪寒が全身を駆け回り、その場からさらに距離を取る。

 直後、リュートのいた場所に向かって直径十メートルほどのブレスが直撃した。


 ブレスは地上に当たるとそこから周囲へと拡散していく。

 地上に伸びる炎は近くにいた魔物を焼き消滅させ、少し遠い所にいる魔物すら熱波で焼き殺す。

 ブレスが終わった後、その場には焼き焦げた黒い大地と煙しか残っていなかった。


 どうやらリュートの言葉は届いていないらしい。先程のブレスがいい証拠だ。

 あのブレスは完全に焼き殺すつもりの威力であった。

 つまり、そこにネリルの自我は存在しない。


「やるしかないのか......いや、まだだ! ネリルの体があるってことはまだ希望はある!」

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