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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

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第84話 決戦の地#2

 スーリヤの特殊魔法「言霊」はあらゆる事象が彼女の言った言葉の通りになる。

 例えば、「止まれ」と言えば相手は意思に関わらず止まり、彼女の許可が下りるまで動くことはできない。

 ただし、特殊魔法なのでこの当然条件がある。


 それが「聖域」の取得である。

 聖域はスーリヤが認めた聖騎士によって構成され、最小三人が頂点に立つことで聖域が構築される。

 その中ではスーリヤの「言霊」が発動し、その力は事実上無敵となる。


 その力を使い、聖騎士を狙う魔物以外の魔物が聖域内に入った瞬間、「言霊」の効果により魔物達の動きが一斉に停止する。

 それは魔物がどのようなポーズを取っていようと、空中にいようと効果は発動し、関係なく時を止めた。


「これが私の力です。この力がある限り負けはありません。あなた方の家族は、仲間は守られます。

 しかし、この力も無敵ではありません。有限である以上、長期戦は不利です。

 つまり、短期決戦で決着を決める必要があります。

 故に、この戦いはあなた方の頑張りにかかっています。

 勇気あるあなた方が勝利をもぎ取るのです。さぁ、行きなさい女神の子らよ!

 この世界に平和を取り戻すのです!」


「「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」」


 スーリヤの言葉に感化された戦士達が一斉に走り出す。

 前線までたどり着くと、止まった魔物を一方的に斬り始めた。

 しかし、聖域で魔物が止まったのはごく一部。


 同じように魔物達を一方的に倒したいのであれば前線を押し上げる必要がある。

 そのためには頂点となる聖騎士の周りにいる魔物達を倒さなければいけない。

 それをしようとすると魔物達は聖域の外。つまり、そこからは命の取り合いだ。


 ロズワルドの魔物は一体一体が数人がかりでやっと倒すような敵ばかりだ。

 それらは意思を持っているようで聖騎士を集中して狙っていく。

 また、空中では飛行型の魔物と魔法が使える人達の砲撃合戦が行われていた。


 空中で斬り刻む風の斬撃、爆ぜる火球、殴打する石礫、貫く水の弾丸など様々なものが飛び交う。

 そんな中、聖域を飛び出して突撃陣営でもって中央へ切り込む少数精鋭の部隊があった。


「リュートに道を開けろ!」


「必ずあの男まで送り届けるんだ!」


「ウォン!」


「邪魔すんじゃないわよ!」


「待ってろ、ロズワルドォォォォ!」


 その部隊のメンバーは先頭からソウガ、ナハク、リゼ、セイガ、リュートの四人と一匹である。

 先頭でソウガとナハクが道を切り開き、リゼとセイガがサイドから来る敵を払い、リュートは力を温存するように戦闘を控えていた。


「フン、来れるものなら来てみればいいさ」


 ロズワルドは余裕の笑みを浮かべ、威勢よく進んでくる彼らに強力な個体を向かわせた。

 その表情の通り、それらによってリュート達は一人また一人と散り散りになっていく。

 そして、最終的にリュート一人が特攻することとなった。


「ハハハ、威勢が良かったのはここまでかな!」


「それはテメェの方だよ」


 リュートは立ち止まると片手で顔を覆う。


「さぁ、ショータイムだ!」


「なっ!?」


 瞬間、リュートだった人物の顔が切り替わる。

 そこにいたのはリュートの格好とそっくりな姿したカフカであった。

 彼女の特殊魔法によってリュートと入れ替わっていたのだ。

 そのことにはロズワルドも余裕の笑みが消え失せる。


「なら、本物はどこに――」


「ここだよ!」


「っ!?」


 リュートはロズワルドがいた近くの森から奇襲を仕掛けた。

 背後から狙った大剣の一撃に対し、ロズワルドは咄嗟に回避しようとするも左腕が切り飛ばされる。


「うぐっ!」


「チッ、外したか」


 ロズワルドはダラダラと血が流れ落ちる左腕を押さえながら、バックステップしてリュートから距離を取る。

 そして、彼はズキズキと痛む腕に苦悶の表情を浮かべながら口を開いた。


「英雄ともあろう存在が奇襲とは随分と格が落ちたものだな」


「英雄は俺じゃね。俺はただの傭兵だ。

 傭兵の仕事は金を貰ってスピーディに仕事を終わらせる。

 こういったやり方は今に始まったことじゃない。

 それにクソ野郎のテメェにこっちが敬意をもって正面から堂々とやることはねぇ」


「酷い物言いだな。私はただ自分の目的のために行動したに過ぎないというのに。

 だがまぁ、それも今日で叶う。これまでの私の成果の一つを見せてやろう。とくとご覧あれ」


 ロズワルドは白衣の胸ポケットから一本の注射器を取り出した。

 それには赤黒い血液のようなものが入っており、それを左腕の残った部分に刺し注入した。

 直後、彼の体は小刻みに震えだし、苦しそうに胸を手で押さえる。


「う.......うぐ......うごぉぁぁぁぁぁ......うおおおおお!」


 ロズワルドが天に向かって咆哮する。同時に、体に変化が表れ始めた。

 顔の頬から全身にかけてトカゲの鱗のようなものが生え始め、欠けた左腕は再生し、尻尾が生えた。

 両手両足の爪は鋭く伸び、瞳は縦長に伸びていく。

 その姿は獣人族とはまた違い、それよりもはるかに凶悪な存在であった。


「な、なんだその姿は......」


「これはお前と同じ竜の血を引く人間の姿だ。もっともより竜に近い存在だがな。

 魔族より高い魔力を持ち、獣人族より高い身体能力を持つ......さながら竜人族というべきか」


「竜人族......」


「あの大戦の時、私は一介の科学者に過ぎなかった。だが、今や違う!

 もうあの頃のような惨めな存在ではない! それを今から証明してやろう!」


 ロズワルドはダンッと地面を蹴る。ただの踏み込みで地面が割れた。

 そして、一瞬にして近づくとリュートに向かって手刀を放った。


「くっ!」


 リュートはその攻撃を大剣の腹でガードする。

 しかし、その威力はすさまじく地面に踏ん張っていた肉体が吹き飛ばされた。

 直後、片足に何かが絡みつく。


「尻尾!?」


「逃がすと思うか。これが竜のブレスだ――竜炎」


 ロズワルドは口を大きく開き灼熱の炎を吐いた。

 そのブレスはリュートをゼロ距離から攻撃していく。


「火炎防護!」


 一方で、リュートはソウガと契約した炎魔法でもって全身に球体を作り防御する。

 しかし、ゴゴゴゴゴと目の前を覆いつくす赤いの炎があっという間にその壁を破壊した。


「火炎防護!」

 

 リュートは壊れたそばから再び魔法を発動させる。それを繰り返しとにかく耐え続けた。

 そして、ロズワルドの尻尾に振り回され、投げ飛ばされ、地面を転がっていく。


「ハァハァ.......くっ!」


 リュートの上半身の服は炎で消し飛び、肉体は所々火傷によって傷ついている。

 しかし、逆に言えばそれだけで済んでいる。

 そのことにロズワルドは感心したように言った。


「ほう、炎の壁を形成しつづけ私のブレスに耐えたか。

 だが、それだけなら本来最初に壁が壊れた時点でブレスで終わっていた。

 至近距離でブレスを食らいながら肉体を維持し続ける防御力。

 こればかりは今の状態の私にもできるかわからない芸当だ。さすがとしか言いようがない」


「今更褒めたってどうにもなんねぇぞ」


「私はお前を褒めたのではない。その竜人族の性能に感心したのだ。

 しかし、今のやり取りでわかっただろ? 竜の力というものが。

 それも今の貴様が扱えない力。その先に私はいる。

 ちなみに、これでも手加減している方だ。

 これが最終勧告だ。大人しく私のものに――」


「手加減? ハッ、笑わせる。

 逆に言えば、その力を得ておいてこの程度ってことじゃねぇか。

 俺の妹から借りてるだけの力でイキがってんじゃねぇよ。

 それに舐めんじゃねぇ、傭兵の底力ってやつをよぉ!」


「.......ハァ、ならばお前はもう死体で十分だ」


 リュートはロズワルドから来る冷めた視線を無視し行動に移る。


「雷行」


 リュートは全身に雷を纏わせた。

 これにより身体能力が飛躍的に向上する。

 そして、地面を蹴ってロズワルドの背後に回り込み、大剣を叩き込んだ。


――ガン


「くっ!」


 しかし、その攻撃はロズワルドの尻尾で受け止められる。

 僅かに切り込みが入る程度で切断まで至らない。


「これが竜の固さだ! そして、これが竜の身体能力だ!」


 ロズワルドは瞬時に振り返り拳を放つ。

 リュートは咄嗟に首を傾げて躱すが、すぐさま二発目が飛んできた。


「おらおらおらおら!」


 そこから始まるロズワルドのによる怒涛の連続攻撃。

 リュートは大剣でガードするも反撃の隙は無く防戦一方。


「さっきの威勢はどうした!」


「舐めんな!」


 リュートは前蹴りで僅かに間合いを作る。

 同時に、瞬時に大剣に炎を纏わせ、横に振るった。


「灼熱剣」


「遅いな」


「うぐっ!」


 リュートの攻撃はロズワルドにしゃがまれて躱される。

 さらにそのまま懐に潜り込まれると彼のアッパーカットが顎を打ち抜いた。

 その攻撃でリュートの脳が激しく揺さぶられ、視界が歪む。


「おらぁ!」


 空中で無防備を晒すリュートにロズワルドが回転し尻尾で弾く。

 リュートは激しく腹部を叩きつけられ、吹き飛び、地面を転がった。

 すぐに立ち上がろうとするリュートであったが未だ視界は不明瞭のままだ。


「その程度か、お前の力は。だとしたらガッカリだ」


「......っ」


「研究所に来た時のお前は少しは変わっていたかと思えば......何も変わっていない。

 仲間のフリをした私に騙され、のんきに寝ている間に傭兵団は壊滅。

 挙句には私に妹を攫われ、取り返そうとするが失敗。

 今の地面に伏せる姿はまさにあの時そのものだな。失望したぞ」


「くっ、........れよ」


「お前が私を探していた時間は一体何の意味があったのだろうな。

 このままではまたあの時のようにお前の仲間が殺される。

 今度は大勢だ。それも全てお前が弱いせいで。なんと情けないことか」


「黙れって言ってんだろ!」


「っ!」


 リュートは吠えた。

 瞬間、ロズワルドの体がビリッと痺れ硬直する。


「なっ、体が痺れ――」


 リュートはすぐさま起き上がり、ロズワルドに大剣を持ち上げた。

 ロズワルドは動けない。大剣が袈裟斬りに振り下ろされる。


「ぐはっ!」


 ザシュッとロズワルドの体に大きな縦線と血しぶきが舞う。

 そして、斬り飛ばされ、地面に寝そべった。


「今からお前を殺す。泣き喚こうが容赦はしねぇ」


 リュートは大剣を担ぎ、縦長の瞳で見下ろした。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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