表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/88

第82話 バイオグリーン研究所#4

 古代種――それはかつてこの世界に繁栄した生物の総称である。

 しかし、現在では特定のある生物に関して触れられることが多い。

 それが”竜”という大型生物のことである。


 竜とはかつて世界を支配した完全無欠の生物。

 平均的に五メートルから20メートル級のサイズを持ち、トカゲのような鱗の皮膚は柔軟でありながら、鋼鉄ほどの固さを持っている。

 爪は山を切り裂き、口から吐く炎は太陽のごとき熱量でもって大地を焼き尽くす。

 巨大な翼は空までも支配し、水の中でさえわが物顔で長時間の潜水が可能。


 それが竜という生物。

 その時代に生きていた人間は竜の存在を神のように崇め、称え、恐れたという。

 そして、その竜がなぜ今の時代では確認されていないのか推測は多く立てられるも真実できると証明できる証拠もデータも何もない。


 古代種という言葉にスーリヤは目を見開き驚いた。

 その反応に対し、ロズワルドはまるでおもちゃに興奮した子供の用にしゃべり始めた。


「あぁ、そうだ! 古代種の復活! 科学者なら一度は必ず夢に見る最強生物! それが私の目的だ!

 そして、私はその力を使い、英雄を生み出したあの戦いを超えるさらなる地獄を作り出してみせる!

 そうすれば、リュート......お前に流れる血もより一層濃くなるだろう」


「それが妹を攫い、俺を狙う理由か」


「そうだ。確かに世界から竜は消え、その理由は誰にもわかっていない。

 しかし、一つ確かなことはその生物の血は未だ存在するということだ。

 そう、彼らはどうしてかかつての姿を変え、人の姿となってな。

 お前はその少ない血の継承者だ。それはお前の異常な身体能力が示している」


「しゃべりたいことは以上ですか?」


 上機嫌なロズワルドに水を差すようにスーリヤは発言した。

 その言葉にムッとするロズワルドを見ながら、彼女はさらに言葉を続ける。


「あなたがどれだけの理想を抱えているか知りませんが、もうそれはこの場で聞く必要はありません。

 話したければ牢屋の中で好きなだけしゃべってください。

 真面目な監獄長さんがそれはそれは丁寧に話を聞いてくれるでしょう」


「.......私を捕まえると?」


「えぇ、見たところこの場にあなたが使える戦力はなさそうですし、こちらはこの人数。まず負けることはないでしょう」


「驕りが過ぎる言葉だな。だが......確かにこの人数は私にとって不利だ。

 故に、私は逃げさせてもらうとしよう。ここで戦うのは得策とは言い難いからな」


 瞬間、ガーディの足元からは魔法陣による光が放たれ始めた。

 足元からライトアップするようなその光は彼の姿を眩しく照らす。

 それを見たリュートは「待て」と走り出した。


「赤き月が昇る時、太陽の光は闇が遮り、やがては天を覆う。

 それがお前達が見る最期の世界であり、そこから始まるは古代種が支配する新時代。

 そして、私はその古代種を生み出した神として君臨する。

 せいぜいその時まで今の日常を楽しんでおくことだな」


 捨て台詞を吐いたロズワルドは一瞬強く発光した魔法陣によって消えた。

 直後、リュートの振り下ろした大剣がその男がいた場所にザンッと斬撃の痕を残した。


「くっ......!」


 リュートは手の甲に血管が浮かび上がるほど大剣の柄を握りしめ、やがてそれを背中に戻した。

 そして、振り返り向かった先は殺した小型の緑の怪物(グレイマス)だ。

 それの前にしゃがむとそっと抱き寄せる。まるで赤ん坊を抱く母親のように。


「.......」


 リュートの背中から漂う悲愴感。それは仲間達から見てもすぐにわかるほどだ。

 しかし、なぜ悲しんでいるかはわからなかった――ただ一人を除いて。

 スーリヤはその行動の意味を確認した。


「リュート様、その緑の怪物......いえ、失礼でしたね。

 その子供達はもしかすると攫われた子供達ではないですか?」


 その言葉に残りの仲間達が衝撃を受けた反応を見せる。

 そして、その中でリゼはリュートの不可解な行動を思い出した。


「ねぇ、あんたが破った紙ってまさか.......」


「リュート、教えてくれ。スーリヤの言葉は本当なのか?」


 攫われた子供達に関してソウガも反応を見せる。

 その質問にリュートはポツリポツリと言葉をこぼした。


「......俺が見たのはあの男、もしくはいただろう仲間の研究データの一部だ。

 そして、この小型の名前は”ゴブリン”。素体は攫われた子供達のものだ」


「「「......っ!!」」」


 リュートの言葉によって明らかになった真実。

 その衝撃は再び仲間達を襲う。

 なぜなら、先ほどはあくまで可能性の話だったからだ。


 彼らは緑の怪物が人間をもとに作られていることを知っている。

 また、攫われた子供達が運び込まれた場所がこの研究所であることも。

 しかし、それでも僅かな可能性に賭け、そうでないと信じていた。

 結果、事実を知っているリュートにその可能性を潰されてしまった。

 その怒りは計り知れない。


「あのクソ野郎絶対に許さねぇ!

 もうこれ以上の被害を出さないためにも完全に息の根を止めてやる!」


 ソウガが荒々しく言葉を吐いた。怒りで顔が真っ赤である。

 その一方で、静かなリュートはそっと小型を寝かせ、立ち上がる。

 そして、一人でに出入り口に向かって歩き出した。


「待って、どこ行くつもり?」


 暗い顔をして歩くリュートに対し、リゼは真剣な顔つきで呼び止める。


「......決まってるだろ。あの存在すら邪悪な奴のもとにだ」


「そんな怖い顔をして? その顔で行かせられるわけないじゃない。

 このままじゃあんたまで同じような邪悪になるだけよ」


「じゃあ、このまま見て見ぬフリをしろってのか!?

 あんな邪悪を野放しにできるはずないだろ!」


「えぇ、わかってる。当然野放しにはしない。するはずがない。

 私が言いたいのは何で一人で行こうとしてるのかってこと。

 頼りなさいよ、私達を」


「っ!」


 リュートはその言葉に振り返る。

 しかし、リゼを直視することはできなかった。


「あんたは人に気を遣いすぎなのよ。

 あんたがあの時紙を破ったのふぁって、小さい子がいる私が見たらショックを受けると思ったからでしょ? その優しさは嬉しいわ。でも、過保護にしすぎ。

 私だって区別ぐらいできるし、ここに来た時から覚悟はしてた。だから、大丈夫。

 それにあの男は私のお父さんの仇でもあるの。私から戦いを奪わないで」


 そのリゼの言葉にナハクとソウガが続いた。


「僕もリゼに賛成だ。家族の弔いのためにも一緒に戦わせてくれ」


「あぁ、止めようと下って無駄だぜ。この怒りはそう簡単に収まるもんじゃねぇ。

 大事な子供達に手を出しやがったんだ。やり返さなきゃ男じゃねぇ!」


 リゼ、ナハク、ソウガ......この三人も元を辿ればロズワルドの被害者である。

 その怒りは並々ならぬものであり、我慢して収まるものでもない。

 リュートは相手を気遣うあまり彼らのその感情を失念していた。

 そしてこの瞬間、その言葉で彼の意識も変わる。


「そうだな。確かに君達には戦う道理がある。そして、それは俺が止められるものではないな。

 わかった。一緒に戦おう。あの男を倒してこの事件にケリをつけるんだ」


 リュートが共闘の姿勢を見せると、三人とも破顔一笑となった。

 そんな中、一人だけ蚊帳の外となっていたスーリヤがしゃべり始めた。


「皆様が一致団結している姿はとても素晴らしいです。

 ですが、私一人和の中に入れないのは寂しいので、私も輪に入らせてもらいましょう」


 その言葉にリゼが反応する。


「そういえば、あんた......あの男から”聖女”って呼ばれてたわよね?」


「はい、その通りです。では、改めて自己紹介をするとしましょう。

 私は<聖霊の箱庭>より来ました星詠みの聖女スーリヤ。

 いずれ来る災厄の予言をした張本人です」


「本物の聖女、初めて見た」


「確かに修道服を着てるけど色が違うし変だなと思ってたが......」


「お二人方の貴重な反応ありがとうございます。

 ですが、その反応を楽しむのは後にしておきましょう。

 私からお伝えしたいのは予言の期日が確定したことについてです」


 リュートの本来の目的は攫われた妹を探し出すこと。

 しかし、あてもなく探し続けるのはあまりにも非効率。

 ということで、団長の知り合いであるローゼフ学院長に協力してもらい、その代わり災厄の予言に対して戦力となる生徒を集めるというのが現在の仕事だ。

 しかし、その予言がいつなのかは明確ではなかった――さっきまでは。


「赤き月......それは古来より魔の力を高めるとされています。

 そして、それが起きるとされているのが二週間後。

 それまでに私達は戦いの準備をしなければなりません」


「当てはあるのか?」


「国に戻れば戦力の確保はできるでしょう。それから、リュート様とカフカ様のツテを利用できるのであれば、傭兵団の方も戦力として数えられそうです。

 加えて、ローゼフ学院長からは学院からのサポート役として生徒を派遣することを約束して下さいました」


「おっと、俺の方も親父に言えばちょっとだが戦力を呼べるぜ」


「ありがとうございます。助かります」


 ソウガの言葉にスーリヤは丁寧に頭を下げる。

 その姿を見ながらリゼは質問した。


「戦力確保は十分ってことはわかったけど、肝心の戦う場所は?

 それはまだわかってないんじゃないの?」


「それに関しては見当がついております。

 というのも、あの男はリュート様に固執しているようでした。

 理由は恐らくあの件ですが......ともかく、あの男は大戦の生き残りであり、その頃の記憶が今の狂気の原初であるならば、まず間違いなくあの時の戦いを再現しようとするはずです」


「となれば、あの場所しかない」


 リュートは過去の記憶を思い起こす。

 あの大戦で人族、獣人族、魔族と多くの人達が死んだ。

 そして、その戦場は今では血によって地面が赤く染められた呪いの地とされている。

 その場所で起きた戦いでリュートは英雄になった。


「決戦の場所は呪いと憎悪に染まった地――オベリアーテだ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ