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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

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第81話 バイオグリーン研究所#3

 リュートはこれまでにない怒りの感情でもって明確な殺意を示す。

 しかし、ロズワルドはその怒りの意味に対して微塵も理解していない言葉でもって返した。


「私を殺す......? 意味が分からないな。

 お前は妹を取り戻すことに固執したような発言をするが、その実妹と一緒にいたいだけだろ?

 であれば、私がお前の妹を手放すことが無い以上、お前からこっちに来てくれれば問題は解決じゃないか」


「テメェのようなクソ野郎に妹を預けておけるわけないだろ!

 自分の発言のイカレ具合わかって言ってんのか!?」


「イカレてるだと? 侵害だな。私はお前のことを思って両方に得がある提案をしたに過ぎない。

 前にも言ったはずだ。私が本当に欲しいのはお前だとな。

 妹よりも遥かに血が濃いであろうお前の血や細胞を使えば、私の実験は比較的に進展する!

 だらかこその提案だったのだが......受け入れてもらえず残念だ」


「そんな言葉で受け入れるほど頭沸いちゃいねぇんだよ。

 妹は取り戻させてもらう。これは決定事項だ」


「......そうか、ならば仕方あるまい。せめてお前の戦闘データでも取らせてもらうとするか」


 ロズワルドは奥にあるガラス張りの部屋に入ると、そこにある機械を起動させる。

 直後、部屋にあったカプセルからは緑色の液体がどこかへ放出されていき、蓋が開いたそこからは小型の緑の怪物(グレイマス)が出てきた。

 その数は全部で四体。そして、普通の小型とは違う威圧感を放っている。


「コイツらは私が改良を施した強化型の緑の怪物だ。小型でありながらその実力は通常型にも勝る」


 その小型を見た瞬間、リュートの目は大きく反応した。

 そして、睨みつける目でもってロズワルドを見た。

 彼は知っている――その小型の元になった存在を。


「おい、この小型......攫った子供達だろ?」


 リュートがその正体を知ったのはリゼと一緒に入った部屋にあった資料。

 そこには攫った子供達によって実験を施したレポートが書かれていた。

 故に、彼はリゼにその情報を教えることをしなかった。

 幼い妹を持つ彼女にとってあまりに酷な情報であったから。

 そんな彼の言葉に対してロズワルドは一言。


「だったらなんだ?」


「クソ野郎が!」


 四体の小型がリュートに向かって走り出した。

 最初に接近した二体は他の小型よりも速さに長けているのか素早い動きで翻弄する。

 そして、挟み撃ちをするように左右の壁を伝って近づいてくる。


 リュートはその左右に注意を向けていると、最初に攻撃をしかけたのは正面にいる二体。

 一体が腕を横に伸ばして構えると、もう一体がその腕に両足を乗せた瞬間、正面に向かって投げた。

 すると、左右の小型よりも速くリュートに接近した。


「っ!?」


 リュートも咄嗟に左右から正面に意識を変える。


「グアアアァ!」


「くっ!」


 大砲のような勢いでもって大振りな拳が飛んでくる。

 リュートは咄嗟に大剣の腹でガードすると、ドンッと重たい音と衝撃が伝わる。

 その衝撃は体を軽く吹き飛ばすほどの威力だった。

 

 リュートは入り口の扉まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 すると、僅かな硬直の隙に左右から小型が襲い掛かってきた。


「大人しく掴まれ! リュート!」


 ロズワルドは追い詰められたリュートを見て嬉しそうに叫ぶ。

 しかし、その表情はすぐに曇った表情へと変化した。


「雷行」


 リュートはリゼから借りている雷を全身に纏わせ、肉体を強化した。

 その状態で壁に正面を向けるように反転し、壁宙をして左右から来る小型の攻撃を回避する。

 そして、大剣を逆手に持ち替えると、剣先を真下に向けた。


「旋風剣」


 体験に渦巻く風を纏わせ、挟み撃ちに失敗してぶつかり合う小型に向かって剣を振り下ろす。

 すると、一体を剣先に捉え、そのまま床に突き刺した。近くにいたもう一体は風で吹き飛ばされる。


 床に刺さって絶命する小型を見てリュートは表情を一瞬曇らせる。

 しかし、覚悟を決めた彼の意思は固い。

 素早く柄を順手で握り下から上へ剣を斬り上げる。


「昇炎斬」


 リュートは大剣に炎を纏わせ、先ほど吹き飛ばされた小型に向かって攻撃。

 それに対し、小型は両腕でガードするが、その行動の意味もなく両断された。


「っ!」


 小型が両断された矢先、攻撃の後隙を狙ってもう一体の小型が手刀で攻撃してきた。

 その攻撃に対し、リュートは大剣を床に突き刺し棒業する。

 そして、そこから流れるように後ろ回し蹴りで顔面を蹴り飛ばした。

 そんなリュートの姿を見てロズワルドは舌打ちする。


「チッ、やはり一筋縄ではいかないか」


「......テメェという人間はどれだけ命を弄べば気が済むんだ」


「弄ぶ? とんでもない言いがかりはよしてくれ。私の何が命を弄んでいると?」


「テメェが作り出したこの存在こそが命への冒涜に過ぎねぇってんだよ!

 緑の怪物ってのは人間だろうが! 仕舞には子供にまで手を出しやがって!」


 リュートの怒りはもはや頂点を超えようとしていた。

 その証拠に彼の瞳の形が縦長に伸びていく。

 その変化にロズワルドはニヤリと笑った。


「どこまでも愚かだなお前は。この研究の偉大さが分かっていない。

 私がやっていることは新たな命を生み出し、挙句にはかつての古の時代に想いを馳せて、その時代に最強種として君臨した生物を復活させることにある!

 それはもはや生物が次世代へと命を繋げる行為に等しい!

 今の研究はその中間というだけのこと。少し知能が下がり、見てくれが変わるだけだ」


「随分とデカい主張の詭弁だな。

 お前によって実験体とされた人間が自分の意思でそれを望んだわけじゃないだろ。

 それに少し知能が下がり、見てくれが変わるだけ? 人間はテメェのおもちゃじゃねぇんだぞ!」


「ハァ......理解力のない相手との話は苦痛極まりないな。

 まぁいい、この場で今の戦力でもお前に適わないとわかっただけでも儲けものだ。

 これ以上は時間の無駄。私は帰らせてもらうとする」


「待て!」


 リュートは何やら妙な動きを見せるロズワルドに向かって走り出す。

 しかし、その道中で小型が襲いかかってきた。

 されど、その奇襲に素早く対応したリュートの敵ではなく、大剣で吹き飛ばされる。

 その時、小型から呟くような微かな声で言葉が聞こえた。


「助ケテ......オ、兄......チャン」


「っ!?」


 その瞬間、リュートの動きが僅かに鈍る。

 思考は小型から放たれた言葉に集中し、目線は自然とその小型に吸われる。

 直後、もう一体の小型がリュートの背後から攻撃した。


「グギャァ!」


「くっ!」


 リュートは咄嗟に振り返り腕でガードした。

 その腕からは小型によってひっかかれた傷ができ、ブシャと血が噴き出す。

 その攻撃でよろめいたリュートに先程吹き飛ばした小型が戻ってきて振り被った拳が直撃。


「しまっ――ぐはっ!」


 リュートは吹き飛ばされ壁に直撃した。

 衝撃で体が怯み、すぐに動き出すことができない。

 そんな絶好の隙を小型は逃がすことなく襲いかかる――その時だった。


「「リュート!」」


 聞き覚えのある二人の青年の声が聞こえた。


「火炎鉄拳!」


「ウィンドエッジ!」


 ソウガの炎を纏わせた拳と、ナハクの風を纏わせた短剣が小型の二体を攻撃した。

 その攻撃で二体とも吹き飛んでいく。


「リュート、大丈夫か?」


「怪我はない?」


「腕を少しひっかかれたぐらいだ。それよりもお前らはどうしてここに――」


―――パンパン


 二発の銃声が鳴り響く。

 そして、二丁の拳銃を構えたリゼがリュートを見て言った。


「当然、私がここまで連れてきたからに決まってるでしょ。

 それと二人とも、ちゃんと仕留めたか確認してから怪我人の心配をしなさい」


「すまん」


「ごめんなさい」


 リゼに注意されてしょんぼりするソウガとナハク。

 その一方で、リュートは眉尻を下げ、眉間にしわを寄せていた。

 助けてくれたことには感謝している。しかし、先ほどのリゼの行動は――


「おや、帰ろうとしていれば、とんだ珍客が来ているではないか」


 ロズワルドの言葉に全員の視線が彼に向いた。

 同時に、リュート以外は初めて見る魔族の姿にすぐさま臨戦態勢になる。


「私、初めてみるんだけど.......魔族で間違いないのよね? 特徴的に」


「はい、その認識で間違いないかと。まさかこれまでの事件の裏で魔族が関わっていたとは。

 加えて、リュート様のご様子を見るになにやら因縁深そうな相手のようですね」


 そんなスーリヤの言葉を聞いたロズワルドは帰るのを止め、まるで焦りのない表情で挨拶を始めた。


「これはこれは初めまして皆さん、私の名はロズワルド=ハーペント。

 皆さんもご存じかもしれませんが、かの英雄が生まれたあの大戦の生き残った魔族の一人です」


 ロズワルドは恭しく頭を下げる。

 そして、頭を上げると彼が向けた視線の矛先は仮面をつけた少女であった。


「にしても、まさかあなたのような人物がこの場におられるのは意外だ。

 あぁ、仮面をつけていても無駄なことだ。

 あの大戦でその容姿をした人物を知らない魔族はいない。

 とはいえ、人類の秘宝である”聖女様”ともあろうお方が何故このような山奥へ?」


「聖女?」


 その言葉に反応したのはリゼであった。

 彼女はスーリヤの反応を伺うように視線を移す。

 その視線に気づいたスーリヤは「後で話します」とだけ伝え、ロズワルドに話しかけた。


「魔族の方々の間で私が有名とはなんとも嬉しい限りですね。良い牽制になっているでしょう?」


「あぁ、全く酷い話だ。お前を筆頭とした聖女部隊は魔族軍を覆いに苦しめた。

 そのせいかお前の名を見るだけで怯えてしまう軟弱者が増えてしまったようだ。

 まぁ、それも仕方あるまいか。何もできずに一方的に蹂躙されるというのは恐怖でしかないからな」


「まぁ酷い! まるで私を悪者みたいに! 私は女神に仕えるだけのただの心美しきシスターですよ?

 ですが、そんなか弱く清らかな心を持つ私でも同胞を傷つけられることは容認できませんが」


「はっ、随分と達者な口だ」


「それはそうと、あなたはこの場で何の研究をしているのですか?

 何の目的であのような悍ましい生物を作られたのですか?」


「これまた随分と直球な質問だな。だが、嫌いじゃない。

 特別に教えてやろう。私の最終目標は一つ――古代種の復活だ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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