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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
最終章 赤狼の群れ

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第80話 バイオグリーン研究所#2

 バイオグリーン研究所に侵入したリュートとリゼは警戒しながら歩いていく。

 そんな二人が抱いた研究所内部の印象は”静か”であった。

 最初こそ小型の緑の怪物(グレイマス)の姿があったが、ほどなくしてその気配も消える。

 辺りにあるのはもう動かなくなった小型や通常サイズの死体ばかり。


「なんというか、ここまで気配が無くなると不気味ね。

 研究員らしきしたいもあるけど、なんかだいぶ経過してるような感じもするし」


「考えられるとしたら、やはりもうすでに廃棄された場所の可能性だな。

 しかし、警報装置が起動しているから人の気配があってもおかしくないんだけどな」


「もう少し周囲を詳しく調べてみましょ。どこかに痕跡があるかもしれないし」


 二人は進みながら廊下の左右にある扉を一つずつ見て回った。

 そのどの部屋も悲惨な有様で飛び散らかった本や資料、壁に染み付いた結婚や刻まれたひっかき傷、人間のものであろう肉塊ばかりであった。


「一階には大した情報はなさそうね。先程見つけた階段を下りてみない?」


「そうだな。引き続き警戒していこう」


 そして、二人が下の階に降りていくと、突然リゼが「うっ」と鼻を押さえた。


「どうした?」


「なんか......酷いニオイがする」


 辛そうなリゼの表情を見てリュートを警戒心を高めた。

 慎重にリゼの指さす方向に歩いていき、その扉を開ける。

 すると、扉のすぐ近くに金属製の足場と柵があり、そこから先は大きな空間があった。


 さながら水槽のような地下深くまで続くそこからはリュートでも顔をしかめるほどの強烈な異臭がする。

 小型通信機(アクシル)のライト機能を使って広い部屋の底を照らした。


「うっ」


 リュートはそこで見たものに口を手で覆った。

 大きな空間の底にあったのは床一面に敷き詰められ、積まれたような緑の怪物の死体の数々。


「腐ってるのかしら.....?」


「さあな。あの怪物が腐るかどうかわからないから答えようもない。

 ただここがこの怪物の廃棄場であることは確かなようだ」


「ねぇ、アレ見て! なんか小型も混ざってない? それになんだか髪の毛っぽいのも見える気がする」


「そうなのか? うーん.....俺はわからないな」


「そう。さすがに小型通信機のライトの光量じゃ厳しそうだしね。

 しっかし、なんて数の死体なの......? どんだけの実験にしたらこんな死体の数が築けるのかしら?」


「こっちの足場の先に階段がある。進んでみよう」


 近くの階段を見つけ、さらに移動すること地下二階。

 下りた先にあった扉を抜けると、その廊下はさらに至る所に赤いシミが飛び散って乾いていた。

 それだけでこの場所でどれほどの地獄があったのかは想像に難くない。


「これは.....生きてなさそうね」


「弾痕がある。交戦した証だ。近くに怪物の死体もある。

 つまりは何らかが原因で脱走した怪物と殺りあったということだろう」


 周囲の状況からそう判断したリュートは近くの部屋を見て回り、さらに奥へ進んだ。

 奥には両開きの扉があり、押して入るとそこには破損したカプセルがあった。

 それはいくつもあり、サイズは成人男性が優に入るほどの大きさ。


 周囲を見て回っていると、リュートは足元に柔らかいものを踏んだ。

 瞬間、それは「グギャ」と小さく鳴き、彼は咄嗟に距離を取る。

 鳴き声の主は小型の怪物であった。虫の息程度だが息はある。


「これは......」


 リュートは近づくようにしゃがみ込み様子を見る。

 その小型は地上で戦った怪物とは違う特徴があったからだ。

 ボロボロの服やズボン。そして、生まれたての赤ん坊のような僅かな髪の毛。


「ほら、やっぱり生えてるわ。ってことは、コイツももともと人間ってことね」


「可哀そうだが殺すぞ。それも彼のためだ。

 介錯は俺がする。リゼは引き続き探索を」


「わかったわ」


 リュートは黙とうをささげ、素早く首を切断した。

 そして、立ち上がると、リゼに並んで周囲の机の資料を漁っていく。

 適当に資料を読んでいると、不意に別の机のとある資料が気になった。


 それはさながらこの資料が手掛かりになると直感が告げている。

 その意思に従ってその机に向かい、置かれていた資料を手に取った。

 そこに書かれていたのはカプセルに入っていた個体の実験レポート。

 それにリュートが目を通した瞬間、彼は静かな怒りに包まれた。


「リュート、こっちに気になるようなものはない――ってリュート?」


「......クソが」


「リュート? どうしたのよ? その紙に手がかりがあったの?」


 リュートの様子がおかしいことに気付いたリゼはそっと近づく。

 そして、リゼが資料の内容を覗き込もうとした瞬間、リュートがそれをビリビリに破いた。


「ちょ、何してんのよ!? それじゃあ、私が読めないじゃない!」


「君は読まなくていい、知らなくていい。

 世の中には知らない方が幸せなことは沢山ある。これがそのうちの一つだ」


 リュートは破いた資料を炎でもって念入りに処理した。

 そんな彼の言葉にリゼは悲しい顔をする。


「リゼ」


「........何?」


「ここからは俺一人で先に行く。君はみんなと合流して待っていてくれ」


「え、何で――」


「いいから!」


「..........わかった」


 リゼはしばしの沈黙の後、言いたそうな口を閉ざしてゆっくり背を向けた。

 そんな彼女の小さな背中が見えなくなった所でリュートは一つ息を吐く。

 そして、瞳に怒りをにじませて歩き出して向かったのはこの部屋のさらに奥にある扉。


「.......なんとなくこの先にいる気がする」


 それはリュートにとってただの勘に過ぎない。

 しかし、彼にとって酷く確信的な勘であった。

 だからこそ、今は一人の方が都合が良かった。

 こんなに殺意を抱いた姿を見られずに済むから。


 扉を抜けるとさらに下へ続く階段があった。

 階段を下まで降り切るとリュートの目の前に現れたのは両開きの扉。

 その扉の奥からは気配があり、覚悟を決めて扉を開けた。


 目の前に見えたのは広めの空間に今も稼働中のカプセルの数々。

 カプセルの中には緑の液体で満たされてあり、小型の怪物の姿がある。

 そして、カプセルの一つに一人の男が立っていた。


 青い色をした肌にこめかみ辺りから生える髪。

 科学者のように白衣を着た姿。

 その男をリュートは知らない。しかし、()()()()()


「こんな所にいたか――ガーディ。いや、仲間を辱めた魔族は」


「その声は.....なるほど、外が騒がしいと思えば、お前が侵入してきたからか」


「お前は一体何者だ? どうして俺達家族のフリをした!? 答えろ!」


「稚拙な感情の見せ方をするな。お前はそんなガキのような性格ではないはずだ。

 だがまぁ、俺は礼儀知らずでもない。お前の質問に答えてやろう」


 魔族の男は振り返り、リュートを見た。

 モノクルをつけたその男は胸に手を当てて恭しくお辞儀する。


「私の名前はロズワルド=ハーペント。お前がいた傭兵団を壊滅させた男だ。

 いやぁ、にしても、滑稽だったな。仲間のフリしている俺に気安く声をかける姿は。

 酒を飲んだ状態で大蛇に肩を組むような愚行。お前もそう思わないか?」


「お前ごときが俺の家族をバカにするな」


 リュートは背負っている大剣を感情のままに床に叩きつけた。

 怒りの量が床に刻まれた深い傷跡に表されている。

 そんな態度に対し、ロズワルドは臆することもなくしゃべり続ける。


「それで? どうして家族のフリをしたか.......だったか?

 それはお前が前の大戦で活躍しすぎたからだ。

 大勢の魔族と魔物を相手にしながら、まるで巨人のような暴れっぷり。

 それで私の同胞達は塵芥のように散っていく」


「復讐ってことか」


「復讐? そんな言葉で片づけないでもらいたい! むしろ、あの戦いで私は夢を見た!

 有象無象を寄せ付けない圧倒的な力! 相手の攻撃を受けても死なない防御力!

 まるで疲れを見せない無限のスタミナ! 見るだけで敵を畏怖させる覇気!

 アレはまさに私が夢にまで見た存在そのものだ! お前にはその資質がある!」


 ロズワルドは興奮気味に早口でしゃべり始めた。

 その姿はさながら狂信的な信徒のよう。

 もはや話が通じるような人間のしゃべり方ではない。


「正直、私は同胞のことなどどうでもいいんだ。

 魔族軍として戦っていた時からそもそも人という存在に興味が無かったからな。

 代わりに、私は私が求める最強の魔物を作る方が好きだった。

 お前が今見ているカプセルにいる生き物もその試作品の一つ。

 ま、正直イマイチだな。お前のような存在にはなり得なかった」


「俺を作るためにただ日常を暮らしていた多くの人々を手に欠けたってのか!?」


「何も役に立たない人間に生まれ変われるチャンスを与えてやっただけ感謝して欲しいものだがな。

 誰もがお前のような英雄と呼ばれる人間になれる。憧れるだろ? 英雄は」


「お前の勝手な価値観で人の人生捻じ曲げてんじゃねぇ!」


 リュートは額に青筋を走らせる。怒りはピークに達しようとしていた。

 大剣を右手にも血管が浮かび上がり、その手を今にも振り上げそうになったが――まだだ。

 まだロズワルドには聞くべきことがある。


「おい、ロズワルド........答えろ――俺の妹はどこにいる?」


 リュートによる今にも殺さんとばかりの視線がロズワルドに突き刺さる。

 しかし、ロズワルドは自分が切り殺されないとでも思っているかのような相変わらずの落ち着きっぷり。

 そして、その男は余裕の笑みで答える。


「あぁ、妹か。安心しろ、大事に保管してある。

 なぜなら、お前と同じ血を持つ貴重なサンプルだからな」


「どこにいるっつてんだ!」


「そう声を荒げるな。知性の低さが透けて見えるぞ。

 どうやらお前がここまでやってきたのは妹を助けるため......そうなんだろ?

 だが、先も言った通りお前の妹は貴重なサンプルだ。手放すわけにはいかない。

 そこでどうだ、お前もサンプルにならないか?」


「........は? 何言ってんだ、お前......?」


 リュートは言葉が理解できなかった。いや、理解を拒否した。

 自分勝手な都合で話を進めるロズワルドに脳が拒否反応を起こした。

 そして、全身全霊の憎悪がロズワルドに向けられる。


「お前を殺す!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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