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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
第3編 クズ金の山

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第69話 ファイトポーカー#5

 消聴風音(ハイパーボイス)――それは自身の声を風で増幅・拡散させるための技で、吐き出した声とともに風にはダメージこそないが強烈な吹き飛ばし効果がある。

 しかし、ナハクが相手しているバルムンクは三メートルもの巨体を持つ。


 そのため、相手を吹き飛ばして距離を作るなどできやしない。

 であれば、ナハクは何のためにその技を発動させたのか。

 それは当然、バルムンクに一矢報いるためである。


 その技の前に<風弾>で簡易的な目潰しを行い、その後増幅させた声で聴覚を潰したのはそのためだ。

 つまり、相手には視覚と聴覚がない。反撃するには十分な隙が生まれる。


「行くよ、セイガ!」


「ウォン!」


 ナハクは相棒のセイガに声をかけると同時に攻撃を仕掛ける。

 それぞれの短剣と爪による攻撃はバルムンクの強靭な肉体に致命傷を与えるには程遠い。

 されど、全く傷がつかないわけではない。傷がついた箇所からは出血する。

 その出血数も増えればたちまち大出血だ。


「ガアアアア!」


 バルムンクは副腕の一つで目元を覆いながら、残りの三本の腕をぐるんぐるんと振り回す。

 まさに腕のどこかに当たれと祈るばかりの暴れっぷり。

 しかし、その怪物が位置を探れていないのなら襲るるに足らず。


「風刃! さらに破斬風!」


 ナハクがバルムンクの懐に潜り、肉体を傷つける。

 さらに暴れる相手の攻撃を離れると同時に風の斬撃を飛ばし攻撃。


「ウォウ! ウォウ!」


 セイガはナハクが動きやすいように噛みついて注意を逸らす。

 そして、逆にナハクへと注意が集まれば、隙だらけの背中を強靭な爪で引っ掻いた。

 そんな連携プレーにバルムンクは翻弄されるばかりで為す術なし。

 そのフラストレーションが頂点に達したのかその怪物は咆哮した。


「ガアアアアァァァァアアアァァアアァァァ!!」


 その方向は大気を轟かせ、震えは衝撃波を生み出し、バルムンクの近くをウロチョロしていたナハクとセイガをたちまち吹き飛ばしていった。


「ふぅー、さすがにタフだね。もうかなりの出血させたと思うんだけど」


「ウォウ、ウォン!」


「『でも、あまり効いてる様子はないわ。他に原因があるかも』か。

 うん、みたいだね。僕も攻撃しててわかった。あの怪物はかなり回復量が高いみたいだ。

 全ての傷が一瞬にして回復するわけじゃないみたいだけど、それでも普通の魔物なら弱ってきてもおかしくない攻撃量を受けて未だ無事みたいだから長期戦は無理」


「ウォン」


「『ナハクの左腕も折れてるしね』って、ハハハ、確かに僕の左腕も使い物にならいしね。

 今は戦いの興奮で痛みを忘れてるけど、この後に襲ってくるであろう痛みを想像するだけで怖いよ」


 ナハクとセイガが話していると、彼らの正面にいるバルムンクの動きが変化した。

 先ほどまで暴れていたその怪物は大人しくなり、そして背を向けていた体を振り返させた。

 どうやら怪物の視力が回復したようで指の隙間から睨んだ目を覗かせている。


「......どうやらとうとう視力まで回復しちゃったみたいだね。なら、聴覚も時間の問題かな?」


「ウォフ」


「『でも、他に比べると回復するのが遅くない?』って?

 確かに、言われてみれば視力は回復するのに時間がかかってたね。

 やっぱり目は剥き出しの皮膚だし、そこを攻撃されるのは弱いのかな?」


「ウォン」


「『もしくは刺激に弱いのかも』か。なら、今度は毒霧でもって思うけど、さすがにそう簡単にいかなそうだよね」


 バルムンクが副腕の一本で目を覆い、警戒しながら突っ込んでくる。

 二度も同じては食らわないという強い意志を感じる構えだ。

 それが同じ人型であればやりやすかっただろうが、相手は腕が四つある怪物。

 正直、ナハク達が有利であるとは言い難い。


「ウォフ」


「『このぐらいで十分じゃない?』って、まぁそうなんだけど。

 問題はどうやって怒らせた相手からこれ以上の傷を負わずに退出するかだよ」


 巨体であっという間に迫るバルムンクはナハクとセイガに巨大な拳を振り下ろす。

 その攻撃を跳躍して躱した彼ら。そんな彼らの足元には大きめに凹んだ地面がある。

 一撃でも貰えば致命傷は避けられない。当たってはいけない。


「ガアアア! ガアアア! アアアアァァァァ!」


 今度は相手をしっかりと認識した無秩序ではない暴れ攻撃が彼らを襲う。

 上手く距離を取ろうとしてもしっかり詰められ、移動位置を予測したように攻撃が飛んで来る。

 もはや反撃している暇はない。避けることに専念しなければ。


「ウォウ! ウォン!」


 その時、セイガがナハクに向かって何かを伝えた。

 その言葉に彼は「なるほど」と頷くと、腰ポーチから液体の入った瓶を取り出す。


「これはイチかバチかの賭けになるね。それに上手くかかったとしてもタイミングが重要だ。

 でも、今更迷っている暇はない。やるっきゃない!」


 ナハクは覚悟を決めるとその瓶を片手にバルムンクの攻撃を伺った。

 いつどのタイミングで、どの位置ならどういう攻撃をしてくるのか。

 その攻撃に次ぐ攻撃にある一瞬の合間を狙いすまして。


 ブンブンと振り回す攻撃はさながら子供が全身を使って暴れてるよう。

 されど、その威力は直撃すればたちまち人を殺せるほどだろう。

 であれば、直撃は当然避けなければいけない。


「ウォン!」


「セイガ!?」


 その時、セイガが勢いよく前に出て進んだ。

 そうなれば、当然バルムンクの狙いは接近してくる敵へ向く。

 そんなセイガの後ろ姿はまるでこの瞬間を狙えとでも言ってるようだ。


「っ......死ぬなよ、セイガ!」


 ナハクも覚悟を決めてセイガの後ろをついていきながらタイミングを計る。

 彼の目の前ではバルムンクがセイガ相手に三本の腕を振り回して攻撃をしかけ、その攻撃をセイガが高い運動能力で回避してるという状況。


 その僅かの隙間をナハクは狙い定める。

 当てるべきはバルムンクのみ。セイガに当たることは万が一を考えれば避けたい。

 であれば、セイガが腕を登ってバルムンクの頭上を越えたタイミングなんかまさにチャンスだ。


「ウォン!」


「わかってる!」


 ナハクは手に持っていた瓶をバルムンクに向かって投げつける。

 瞬間、その怪物は投擲物に気付き、腕を薙ぎ払った。瓶はバリィンと割れる。


「グガガガガ!」


 まるで笑うかのようなバルムンクの声が響く。

 されど、その状況はナハクとて同じだ。

 なぜなら、先ほど割られたのは空の便だから。


「僕はお前を舐めてないから想定済みなんだよ!」


 ナハクはすかさず二投目に入った。投げれた瓶には液体が入っている。

 そして、虚を突かれたバルムンクは回避行動が一瞬遅れ、瓶が胸に直撃し壊れた。

 直後、瓶の中の液体は一瞬にして気化し、怪物の顔を覆った。


「グガ......?」


 瞬間、バルムンクに襲う強烈な眠気。

 というのも、瓶の液体は強制卒倒催眠という激ヤバな睡眠薬だったからだ。

 当然、人に対してやればたちまち死に追いやる。

 されど、相手が緑の怪物であれば話が別だ。


「これで正常な判断はできまい!」


 ナハクの言葉通り、バルムンクの足が千鳥足のようになる。

 されど、すぐに意識を失ってもおかしくないそれを浴びながらもふらつくだけのその怪物は、頭上に跳ぶセイガの足を掴むと、すばやく横に投げた。


「キャン!」


「セイガ!」


 ナハクは咄嗟に飛ばされたセイガへ走っていくと、直撃する壁の地点を予測して先に移動。

 そして、セイガを庇うようにして壁とサンドイッチされた彼は、そのまま壁を突き抜けて横たわった。


「グガ......グガ......」


 突き飛ばされてから動く気配のないセイガとナハクを追いかけようとするバルムンク。

 されど、ついに眠気がピークに達したのか、足取りはゆっくりになり、やがて止まり、さらには膝を崩して眠ってしまった。


******


―――カンカンカン


「試合、終了~~~~~~!」


 リュートとガルバンがいるゲーマー同士の戦いでは、バリアンが盛大に第二ラウンドのファイター同士の戦いの終了宣言をしていた。

 そして、その両者の戦いをモニター越しに見ていたガルバンは、少しだけ焦ったような冷や汗をかきながらも、勝利の余韻に浸った様子でリュートに話しかける。


「あ~あ、惜しかったな。あぁいう場合、勝利はこっち側に入るんだよ。

 戦いのステージから離れちまったこともあるが、何より俺のバルムンクは寝ているだけで、そっちの仲間は意識を失っている。

 仮にそっちの仲間に意識があった所で壁をぶち破るほどの猛烈な衝撃を受けたんだ。まず動けまい」


「......」


 リュートは机の上で手を組み、顔を伏せながらしずまに黙り続ける。

 そんな青年を目の前に見ながら、ガルバンは上機嫌にしゃべり続けた。


「まぁ、そう落ち込むなって。確かに、これで俺の勝利があと一つで決まるところまでお前は追い込まれたわけだが、まだ勝負が決まったわけじゃない。

 もしかしたら、お前がこの後に二連勝するかもしれない。まぁ、それはかなり低い確率だろうけどな。

 なんたって、俺のペットは人間なんかに負けるようなヤワな存在じゃないからな!」


 ガハハハと盛大に笑うガルバン。それに対し、リュートは依然沈黙を貫く。

 そんな彼の姿を見て、金の王は興が冷めたのか見下すような目線を送りながら言った。


「おいおい、お前もエンタメぐらい理解してんだろ? 例えこんな感じになっても自棄になるなよ?

 なんたって今は奇跡的にお前の味方が生きているが、お前がここで下手な行動を取れば、そのツケを支払わされるのはお前の仲間だぜ?

 俺からすればどうでもいいけどよ、さすがにそれは見てて可哀そうってもんだ.....って肩震わせて、もしかして泣いてんのか?」


 ガルバンはついにかける言葉すら失った様子で大きくため息を吐く。

 しかし、そんな金の王の考えは全くリュートに当てはまっていなかった。

 なぜなら、彼は敗北に追い込まれて落ち込んでいるわけではないからだ。


 むしろその逆で、勝利へのプロセスに着実に進めてることに笑っているのだ。

 故に、思うことはただ一つ――全て計画通り。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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