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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
第3編 クズ金の山

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第66話 ファイトポーカー#2

 リュートとガルバンのゲーマー同士の戦いが終わり、続いてそれぞれのファイアー同士の勝負。

 二人とは別室にいるリゼは目の前に現れた緑の怪物(グレイマス)を見て苦笑いを浮かべた。


「どんな相手が来るかと思っていたら、まさかこんな所にもあの研究所と繋がりがあるなんてね。

 それに気配からしてあそこにいた緑の人間(グレイム)より強い」


 ドスンドスンと鈍重な音を響かせながら緑の怪物が歩いてくる。

 リゼは両手に二丁拳銃を持ち、そっとトリガーに指をかけた。


『それでは早速第一ラウンドのファイター同士の戦いを始めましょう。

 まずは先ほどの戦いからファイターにはゲーマーからの支援が送られます。

 初めに互いの手札による支援から――』


 バリアンの放送の直後に、リゼの体は暖かな空気に包まれる。

 しかし、それぐらいで全然体に変化は起こらなかった。


『続いて勝敗による支援の効果が発揮されます』


「っ!」


 ズンッとリゼの周りだけ重力が増したように体が重くなった。

 体中に鉛の錘がつけられたように、体を動かすだけで息苦しい。

 それもそのはず、リゼのバフはほぼ1倍に対し、デバフは0.8倍だ。

 リゼが出せる力を「100」とするなら、支援を受けた今は「80」ということになる。


「グオオオオォォォォ!」


 対して、緑の怪物は手札と勝利ボーナスから共にバフを支援される。

 加えて、その緑の怪物の戦闘力数値は「4」だ。


「ちょっとちょっと!? 目の前から感じる気配がもう『4』って感じじゃないんだけど!?

 確か、説明だと『5』が魔物と応戦できる強靭な一般人って話なんだけど」


『それはあくまで人間側の基準だね。だけど、相手はそもそも人間じゃない。

 であれば、人間としての枠組みで収めては可哀そう――というガルバンからの親切なルールだよ』


「親切? 出来レースって言うんじゃないのこんなの」


 リゼの体に緊張が走る。

 額からは冷や汗が流れ始め、口の中は乾き始めた。

 一発でもまともに当たれば死んでしまうかもしれない。

 それが目の前の存在から漂うイメージだ。


『それでは、早速始めましょうか。()()()()()を楽しみにしましょう』


「あの女......見た目も相まって相変わらず性悪ね」


『いざ尋常に――始め』


「グアアアアア!」


 バリアンの言葉とともに緑の怪物が突撃した。

 瞬間、リゼはビリッと来る気配を感じ、横に跳ぶ。

 その刹那、彼女の横を巨体が通り過ぎた。


―――ドゴオオオオン!


「嘘でしょ......」


 リゼは額の冷や汗が頬を伝って顎に流れた。

 息を呑むような光景を見たからだ。


 リゼが見る背後の壁は緑の怪物が突っ込んだことにより貫通していたのだ。

 その瓦礫の奥から無傷の緑の怪物が出てくる。


「スーハァー、ビビるな。存在感はセイガのお父さんの方が圧倒的にあったわ」


 リゼは一つ深呼吸をして呼吸を整える。

 先ほどまで相手の空気に飲まれていた彼女だが、気配が一気に冷たいものへ変わった。

 狩人が獲物を見つけた時のように神経を尖らせたのだ。


「グアアアア!」


 緑の怪物が再び突撃してきた。

 速度は相変わらず大砲の弾のような速度だ。

 だからこそ、リゼは反射神経ではなく、獣人としての危険感知に頼った。


 リゼは再びサイドに跳ぶ。

 同時に、両手を正面に伸ばす、通り過ぎていく緑の怪物に発砲した。

 彼女が扱う雷魔法で生成された弾丸がかの怪物の肉体を穿つ。


「グガッ!」


 緑の怪物は痛みを感じたような声をあげ、床を転がっていった。

 勢いのまま壁に突っ込み、再び壁に穴を開けていく。


 数秒後に立ち上がった緑の怪物が戻ってきた。

 その怪物の腕にはリゼの弾丸が撃ち込まれた証のように緑色の血が出ている。


「どうやら全く通じないようじゃなくて安心したわ。

 その姿を見ているとお父さん(あのバカ)を思い出すようで癪なの。

 私の家族を苦しめた罪はキッチリ支払ってもらうわ」


「グガガッ!」


 緑の怪物は三度真っ直ぐ突撃してくる。


「その速さには慣れたわ。やはりその姿になると知能が低下するのかしら――っ!?」


 リゼが再び危険が迫る前に再度に避けた直後、まるで勢いをゼロをするかのように片方の足を床にめり込ませてピタッと止まる緑の怪物。


 その怪物は三メートルもの巨体を活かした回し蹴りでもってリゼを襲う。

 リゼはすかさず体を床と平行になるほど逸らして回避。


「くっ!」


 リゼの神回避も束の間、緑の怪物は勢いを活かしてもう片方の足で蹴りを放つ。

 回すような蹴りではなく、一点を狙った蹴り。

 リゼは咄嗟に両腕に魔力を集中させてガードした。


 バンッとリゼの肉体が軽く吹き飛ぶ。

 近くの壁まで移動した彼女は壁に垂直になるように着地した。


「あっぶない。リュートに習った魔力操作で腕を強化してなかったら今頃終わってたわ。

 だけど、咄嗟だったから制御が甘かったわね。腕がジンジンする」


「グガアアア!」


「まだ来るわよね!」


 緑の怪物は大きく跳躍してリゼまでやって来る。

 その怪物は右腕を大きく振りかぶるとリゼに振るった。


 リゼはすぐさま回避する。

 緑の怪物の腕が壁にめり込み、その怪物は壁に張り付いたようになった。


「チャンス!」


 リゼは二丁拳銃を構え、空中に浮いたまま攻撃に転じる――その時だった。


――リゼ避けろ!


 リュートの叫びのような言葉が聞こえた気がした。

 リゼはすぐさま攻撃を中止し、再び両腕に魔力を集中させる。


 瞬間、緑の怪物は壁に突っ込んだ右腕をそのままに、ガリガリガリと壁を抉りながらフックパンチをぶつけてきたのだ。


 リゼはガードのおかげでその攻撃を防ぐことが出来た。

 しかし、彼女がいる場所は衝撃の逃げ場がない空中。

 殴られた勢いは殺すことが出来ず、弾き飛ばされるままに床に体がぶつかる。


「カハッ!」


 リゼは背中から床に叩きつけられ、肺の空気が強制排出される。

 同時に、強い衝撃が彼女の呼吸を妨げる結果となった。


「(い、息が出来ない......)」


 リゼは小刻みに震える全身をなんとか制御しながら、立ち上がった。

 喉から入り込む空気を肺が受け入れるのを拒む。

 ただでさえ動きに制限がかけられている状態でさらに呼吸が困難。

 絶望的な状況に立たされてしまった。


 緑の怪物がドスンと着地する。

 弱った草食動物を王者の風格でもってジリジリと距離を詰める肉食動物のように。


「や......ばい」


 リゼの額からは大量に脂汗が流れ始めた。

 衝撃を受けた背中の痛みと呼吸困難な状況がリゼの精神をさらに追い詰める。

 そんな窮地の中で思い出すのは戦闘中の男の笑み。

 まるで絶望を感じていないようなあの顔だ。


「だ、けど......これでいい」


 リゼは不敵な笑みを浮かべた。

 その笑みが癪に触った様子に緑の怪物はリゼの眼前に立つと大きく腕を振りかぶった。


電磁光刺(パルススピア)


 瞬間、緑の怪物の両肩に紫電を走らせる光が突き刺さる。

 同時に、その紫電は怪物の巨体に一気に流れ込みズガンと感電させた。


「ガアアアア!?!?」


 突然の理解できない痛みに緑の怪物は叫びながら硬直する。

 雷による体の痺れで一時的に行動できなかったのだ。

 目の前に無防備の状態で突っ立っている敵がいる。

 そんな好機を見逃す対戦者はいない。


巨獣型雷砲弾(マキシマムマグナム)


 リゼはギリッと歯を噛み締め、銃を持つ両手を緑の怪物に向ける。

 向けられた銃口からは雷の球体が発生し、それぞれ膨張するそれは隣り合った球体と合体。

 やがて直径五十センチほどの紫電走らせる球体となった。


 引き金を同時にカチッと押し込めば、雷の球体は勢いよく発射される。

 緑の怪物の腹部に直撃したそれは発射された勢いでもって巨体を壁の方へ押し込んでいく。

 ガガガガガッと緑の怪物による引きずり跡が出来た。


―――ドゴォォォォン!


 雷の球体に押し込まれた緑の怪物は壁へと勢いよく突撃。

 衝撃を吸収できなかった壁は崩れ、さらに奥の方へ姿を消す。


「ハァハァ......どんなもんよ。やっぱただで負けるなんて癪だしね」


 ゆっくり深呼吸するリゼは過呼吸気味だった体が鎮まっていくのを感じた。

 打ち付けた背中からは鈍い痛みが続くが、戦闘に支障が出るほどではない。

 そろそろほどよく演出もしたところだろう。戦闘も潮時だ。


「全く、人に随分な無茶を――っ!?」


 リゼの視線の先の壁の奥。真っ暗な暗闇の中から小さな光が見えた。

 それはどんどんと大きくなり、壁を抜けて見えてきたのは放ったはずの雷の球体。


「まさか跳ね返したってわけ!?」


 リゼが避ける判断を下すよりも早く迫る雷の球体。

 逃げることが難しいと判断した彼女は腕をクロスさせて防御態勢に入った。

 直後、強化した両腕に砲弾のような衝撃でその球体が直撃する。


「くっ! さすが自分の放った攻撃ね! クッソ重っ!!」


 リゼの放ったのは自身よりも遥かに大きい大型獣に対しての攻撃だ。

 逆に言えば、人に対しては過剰な攻撃力であり、当然放ったリゼとて例外ではない。


 リゼは体重を前方に傾け、脚を前後に広げ踏ん張る。

 地面が凹むほどの踏ん張りを見せるが、無情にも体は球体によって押し込まれる。

 引きずった跡を作る足は次第に前後幅を小さくしていく。


「ガアアア!」


「!?」


 ドスンドスンと巨体を揺らして緑の怪物が走ってきた。

 人間の身体能力を超越した走りはあっという間にリゼとの距離を詰め、自身の間合いへと収めた。


「グッガッ!」


「っ!!」


 緑の怪物は巨大な拳を振りかぶり、リゼが防いでいる雷の球体にぶつけた。

 雷の球体の圧力に怪物の一手が加わる。

 その合力はリゼを吹き飛ばすには過剰な力だ。


 瞬間、リゼの肉体が瞬きよりも早く吹き飛ぶ。

 彼女は全力で全身に魔力を込めて防御に集中した。


―――ドゴォォォォン


 本日、何度目かの壁が崩壊する音。

 瓦礫の上で寝そべるリゼは気を失ったようで動かない。

 第一ラウンドのファイター同士の勝負がついた。


『カンカンカン』


 放送越しでゴングの音がやかましくなる。

 司会兼審判であるバリアンがこの試合の勝負に終わりをつけたのだ。


『ただいまの勝負。リュート選手チームのファイターリゼ選手の戦闘不能を確認しまして、第一ラウンドの勝者はガルバンチームです!』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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