第64話 開幕!ビッグマッチ
ソウガの攫われた子供達を救うために起こした一波乱。
それは大勢の参加者を敵に回す事態となったが、それは内通者であるカフカのよって防がれた。
カフカは<金檻の箱庭>のナンバーツーである。
王であるガルバン以外彼の言葉を否定することは出来ない。
加えて、カフカは中立という立場を守った発言をしたため、未だ観客がカフカがソウガの味方と思った人はいないだろう。
結果、天獄物品オークションはつつがなく全ての品を出し終えた。
本来ならこの時点で三日間に及んだこのイベントは終わり、裏で購入者の支払いと商品譲渡が行われる。
だが、今回は違う。なぜなら、今回だけの最大なビッグマネーイベントがあるからだ。
「リュート、準備はいい?」
とある会場の裏ではリゼがリュートに声をかけた。
その質問の意味することを理解している彼は平然と答える。
「俺は問題ない。こういう勝負事には慣れてるからな。
むしろ、そっちはどうなんだ? 今回の勝負のカギはそっちの方だ」
「わかってるわよ。ま、予定通り私達は程よく体力を残しておくわ。
だから、無事にこっちの仕事を終わらせたら、さっさとあの成金をぶちのめしなさい」
「あぁ、任せろ。ソウガ、ナハク、セイガ、スーリヤ、ボルトンさんの皆の方もな。
試合の後は時間との勝負だ。信じてる」
リュートの言葉にそれぞれが力強く返事をする。
そして、そのメンバーは会場のスタッフによって別の場所へと案内され始めた。
その時、スーリヤが振り返り、サッとリュートに近づくと言う。
「行ってきます、ダーリン」
それだけ伝えてスーリヤは皆の方へと戻って行った。
そんな甘い囁きを知覚で聞いていたカフカがリュートに近づく。
「全く、デレデレしちゃって。焼けるね~。
あたしのことなんて何時まで経っても撫でてくれもしないのに」
「それで後でリゼともめるのは君の方だぞ。つーか、そんなにのんびり構えてていいのか?」
「大丈夫だよ。なんたって、修羅場には慣れてるからね。さ、君の会場はこっちだよ」
カフカが先を歩き案内を始める。その後ろをリュートはついていった。
それから少しの雑談をしながら廊下を歩くこと数分。
リュートは一つの鉄の扉の前に立たされた。
「ここが会場だ。それじゃ、ちゃっちゃと行っちゃおうか」
カフカがドアノブを引いて道を譲った。
リュートがドアを通っていくと、そこには机と椅子、机の上にカードがあるだけの殺風景な空間だった。
ただし、その部屋の片側の壁際には何人もの黒服の男達が立って並んでいる。
言うなれば、その彼らがこの部屋の中の唯一のインテリアというべきか。
リュートはチラッと目線を動かし、周囲に設置型の罠らしきものがないか確かめる。
この行動は傭兵時代から続く仕草で、職業病というものだ。
特に何もないことがわかると、すぐさま机の方へ目線を向けた。
なぜなら、そのテーブルに並べられた二つの椅子の内の一つにガルバンが座っているからだ。
にやけ面のガルバンの視線を浴びながら、リュートは席に着く。
最初に口火を切ったのはガルバンの方だ。
「よう、昨日ぶりだな。俺様に勝つ算段は考えてきたのか?
ビビらずにここまで来たのは褒めてやるよ」
「そりゃどうも。そっちも俺の噂にビビらず勝負受けてくれるなんてな。
......いや、俺とカードゲームって選択の時点で及び腰なのは間違いないか」
「ハッ、俺をキレさせて感情任せに行動させようとしたって無駄だ。
確かに、昨日の戦いじゃお前とまともにやり合うのはリスクが高い。
お前が万全の状態だったらさすがに結果が違ったかもしれない」
「ほぅ、随分な高評価だな」
リュートはガルバンが素直に結果を受け止める姿勢に少しだけ感心した。
しかし、目の前の男ががどうこう言おうと別に万全な状態でなくても、リュートは勝とうと思えば勝てた。
戦闘中でのガルバンの動きは十分に対処できる範囲内だったから。
だが、もし勝ってしまえば、オークションの商品として紹介される子供達に危険が及ぶという可能性が出てしまう。
それを防ぐために一度負け、万全な準備を整えてここまでやってきた。
故に、今のリュートは絶対に負ける未来など見ていない。
「ここにいるのはこれで全員か?」
「疑ってるのか?」
「さすがに敵陣のど真ん中だからな。そっちだって既に気付いてんだろ?
俺達がここまでしぶとくつきまとってんのは攫われた子供達のためなんだって」
「あぁ、当然。気づいてるとも」
「だから、もしこの中で一人でも欠けていたら、お前は子供達を人質に取るかもしれない。
もちろん、生粋の勝負師としてここまで成り上がってきたお前が、正々堂々と戦うことを信じてるけどな」
ガルバンはリュートの質問に笑って答えた。
「もちろん、俺はそんな卑怯な真似はしない。ここにいるので全員だ」
「ちなみに、ここにいるのは全員であることは本当だけど、実は遠隔で子供達を殺せるとかいうオチは止めてくれよ?」
「安心しろ。お前はどうあがいたって俺には勝てねぇ。これはそれを証明するための試合だ」
その言葉にリュートはじっとガルバンの目を見つめる。
その瞳に僅かな揺らぎもないことを確認することだ。
ガルバンは全く嘘をついている様子の無い自然体の笑みを浮かべている。
どうやら言った言葉に嘘はないようだ。
それだけの自身があるということなのか。
「オーケー、信じよう。それじゃ、早速どんなゲームをするんだ?」
「それは僕の方から説明しよう」
小さな机を運んできたバリアンは、その机の上にさらに小さな水晶を置いた。
その水晶に魔力をかざすと光が放たれ、それは壁に映像を映し出した。所謂プロジェクターのようなものだ。
それに映し出されているのは、どこかの空間であり、そこも殺風景な施設であった。
映像を見たリュートはすぐに尋ねた。
「この映像は?」
「ここはとある闘技場の映像を映し出してる。
ま、説明の際に触れるからまずはルールを聞いてね。
ってことで、早速ルールを説明するよ」
バリアンの説明を簡潔にまとめるとこんな感じだった。
ゲーム名「ファイトポーカー」。
このゲームはカードゲームをする人と戦闘をする五人の仲間達によるチーム戦である。
ルール説明。
チームは一名のゲーマーとファイターに分かれて戦う。
ゲーマーは一人、ファイターは五人のタイマン形式。
先に相手を全滅かギブアップさせたチームが勝ち。
ルール手順。
1,初めにゲーマー同士がカードゲームで勝負する。
カードゲームはポーカーを行い、そのゲームで勝者と敗者を決める。
また、そのカードは特殊な仕様があり、仲間にバフをかけられるという効果がある。
ただし、カードが半分(数字の7)より小さい時はデバフの効果、半分より高い時はバフの効果をチームに与える。
また、ワンペアを基準とし、ツーペアの場合は効果が二倍、スリーペアは相手にデバフをかけられ、フォーカードは相手のバフを消すことができる。
それ以外の役はまた別の効果が与えられる。
ジョーカー使用の際は相手にかけるデバフが五倍、味方にかけるバフが五倍になる。
さらに、勝者にはバフが、敗者にはデバフが自動的に加えられる。
引き分けの時はノーバフとなる。
それ以外の基本ルールはポーカーに乗っ取る。
2,カードゲームが終わると次はファイターの番。
ファイターはそれぞれ「1」から「10」までの能力値が与えられ、数値に応じてカードゲームで決められたバフ、デバフの倍率に補正がかかる。
例えば、数字が「2」の選手がバフを受けた場合、その倍率は高くなり、反対にデバフの倍率は低くなる。
反対に、数字が「9」の選手がバフを受けた場合、その倍率は低くなり、反対にデバフの倍率は高くなる。
ファイターはそれらの恩恵または呪いを受けて、相手選手と戦う。
勝敗は単純な選手の力量に委ねられる。
つまり、デバフを受けていたとしても、相手に勝てたとならその試合は勝利となる。
3,カードゲームとファイターの試合で一ラウンドとする。
最大五ラウンドとし、先に三勝した方のチームが勝ちとなる。
カードゲームは勝負を降りることが出来るが、ファイターは試合から降りられない。
また、その場合ファイターはデバフだけを受けることになる。
「――と基本的なルールはこんな感じ。
一度に覚えるには難しい内容だから、確認したかったら聞いてもいいよ?」
「そうだな。もしかしたら聞くかもしれないな」
リュートはバリアンの言葉にそのような返答すると、すぐに目線をガルバンへと移した。
「これはあんたが考えたゲームか?」
「......なぜそう思う?」
ガルバンが興味深そうに聞いた。
さすがに場慣れしているのか表情にほとんど変化がない。
「まぁ、なんとなくっていうやつだ。ただ、俺達がもう一度勝負させてくれって言って、こっちがゲームを決めたならそりゃこっちが有利なゲームになるだろ?
だったら、ゲームぐらいはそっちで決めることで、お前の方が勝ちやすいゲームを作れるだろうからさ」
「俺がそんなしょっぱい勝負をするとでも?」
「割とその可能性はあるんじゃないかなってさ。
俺とのタイマン勝負を避けてる時点で」
「またその挑発か。どうやら血濡れの狼と言われようとも、中身は所詮単なるガキのようだな。
あまりにも思考が短絡的で、勝負ごとに向いているとはとても思えない」
「あぁ、ぶっちゃけこういう手のゲームで俺の勝率はあまり高くない。
だけど、これはあくまでチーム戦なんだろ? だったら、勝てるでしょ。
俺はお前よりも裸の王様じゃないんでね。自信あるよ」
リュートの挑発に対して、さすがに我慢しかねたのかガルバンは額に青筋を走らせた。
鋭い目つきでリュートを睨むと言う。
「いい加減その減らず口を閉じた方が良いぞ、クソガキ。
テメェはその傲慢さで自分の仲間を殺すんだからな」
「俺の仲間はそんなにヤワじゃないよ。まぁ、後は結果で示すだけさ」
「お二人とも、盛り上がってるとこ悪いけどそろそろ試合を始めるよ。
僕的にはもう少し見ていたいところだけど、どうにもオーディエンスがうるさいからね」
バリアンは二人の言い争いを止めると、早速試合の音頭を取り始めた。
「それじゃ、始めようか。互いの未来を賭けた決戦を――ファイトポーカー、開始!」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




