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赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
第3編 クズ金の山

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第63話 天獄物品オークション#3

 カフカによって紹介された奴隷は、ステージ中央のスポットライトの前に立たされる。

 その男はボロボロの布切れを一枚羽織っている様子で、屈強だが頬は痩せこけている。


「この男はその昔、冒険者を十人も殺した凶悪犯です。

 もちろん、亡くなった冒険者は実力を持った人物ばかりで、その実力は折り紙付き。

 しかし、今となればこのように奴隷の身。

 働かせるもよし、嬲るのもよし、戦地に向かわせるもよし。

 それでは早速この奴隷のオークションを始めましょう。開始金額は一万五千ドリンから!」


 カフカの言葉に客席の一人が「二万」と声を挙げた。

 その声を皮切りにポツリポツリと声が挙がり、値段はどんどん釣り上がっていく。


「ついに始まったかこのオークションの闇の部分が。

 ま、実際犯罪をした奴のは奴隷(どうぐ)となって使われるぐらいだろうがな」


 腕を組みながらリュートは呟く。

 その声に反応したのは同じく裏社会を生きるボルトンだ。


「そういう奴隷は奴隷になる理由があるからまだいい。

 そういう人生に踏み入ってもおかしくな生き方を自分で選択したってことだからな。

 言っちまえば自業自得。自分の選択に後悔するだけさ」


「ま、それでも普通の奴隷商に管理されるぐらいの方がマシだろうな。

 このオークションを見に来てる連中はおおよそロクでもない連中ばかりだ。

 地獄の地獄を見ることになるってのは、少しばかり可哀そうにも感じる」


 リュートとボルトンの会話に入ってきたのはソウガだ。

 ソウガもこの箱庭(くに)で暮らしてきた裏社会の住人だ。

 だからこそ、この手の会話にはついて行ける。


 しかし、その話に全くついて行けないのナハク、リゼ、スーリヤの三人だ。

 ナハクは三人の会話を耳に入れながら、隣に座るスーリヤに話しかける。


「ねぇ、あの三人って結局どういう話してるの?」


「犯罪者に対して自業自得ざまぁ。だけど、想像している以上の罰を見て、一周回って同情してるって感じです。

 例えるなら、陰湿な陰口を言ってくる相手を嫌っていたけれど、死んでほしいとまでは思っていたわけじゃないみたいな」


「なるほど、そんな感じね」


「それこそリゼさんなんかはまだわかるんじゃないですか?」


 スーリヤがリゼに話題を振った。

 リゼは横目でスーリヤの視線が来ていることを確認すると、首を横に振る。


「確かに、私が住んでた場所は治安が悪かった場所よ。

 だけど、何もしょっちゅう犯罪が起きてたわけじゃない。

 というか、犯罪をする体力もないっていうか。

 一部の悪党が幅を利かせてたからある意味他の場所よりは統率が取れてたんじゃないかしら」


「無法地帯の中のルールですか」


「そんなとこ。確かに、スラム街は人間の醜さがむき出しになる場所だけど、どこか同情できる部分もあったのよ。

 けど、ここは奇麗な身なりで、教養も蓄えた人が真っ黒な心でここにいる」


 リゼの言葉を横で聞いていたリュートが簡潔に言葉をまとめた。


「世の中で生まれた純粋で澄み切った悪の掃きだめ。

 それがこの場所だ。今に見てろ。時期に来るぞ」


 それからしばらく大人の男や女の奴隷の紹介が続く。

 男の時はイマイチの反応だったが、女の時の反応はすさまじいものがあった。

 開始金額は五万からスタートし、気が付けば百万以上まで膨れ上がっている。


 そんな大人の女の番が終わって、ついにリュート達の目的の商品が来た。


「それではここからは()()なことにこのような“ステキな”場所に流れ着いてしまった子供達を紹介しましょう!

 まず一人目の紹介はこちら! ダリソン=ソーヤ君だ!」


 ダリソンと呼ばれる少年が手錠されたままスポットライトの上に立つ。

 その瞬間、ソウガが前のめりになって少年を見つめた。


「ダリソン......間違いねぇ! あの子は俺達が経営支援していた孤児院のダリソンだ!

 くっ、やっぱり攫われていたか! 挙句の果てにはこのような場所に流れ着くなんて!」


「だが、ここはまだ不幸中の幸いみたいな場所だぜ、ソウガ。なんたってここには君がいるからな。

 もし、あの子が他の奴隷商によって他の箱庭(くに)に流されてたなら、もはや取り戻すことも叶わないからな」


「そうか......そうだよな。なら、買い戻そう。絶対にだ!」


 ソウガが見つめる先では、カフカがダリソン少年に対しての紹介を行っていた。

 そして、その紹介も終わると早速開始金額を告げる。


「それでは早速行きましょう。ダリソン君の開始金額は――百万から!」


「百万!?」


 ソウガが驚いていると、その驚きを上回る衝撃がすぐそばから聞こえた。


「五百万!」


「さて、五百万が出ました! 他の方はいないのか!? はい、六十九番」


「七百万」


「七百五十万!」


「八百五十万!」


「九百万!」


 ダリソン少年の値段がどんどんと他の参加者によって釣り上がっていく。

 ヒートアップしているようで、九百万の声を境に勝負に出る者はいなくなかった――ただ一人を除いては。


「一千万!」


 そう声を張り上げたのはソウガだ。

 真っ直ぐと伸ばした手に持つ「163」という番号は一瞬にして彼の存在を主張した。

 その言葉に先ほどまで争っていた貴族達が一斉に彼を敵視する。


「一千万! この金額を超える人はいるか! いなければ決定だ!」


 カフカはガベルを強く叩いた。

 ガンガンガンと鳴り響く音は瞬く間に客席へ響いていく。

 それはこのオークションに対する終了の合図だ。


「ダリソン=ソーヤ君は163番の片に一千万という高額で売買が終了しました。

 それでは次の奴隷に参りましょう! 次の奴隷はこちら――マリシア=レックスちゃんだ!」


 カフカは次の奴隷を紹介する。

 その子供はダリソン少年よりも少し年齢が高い少女だ。

 中学生と呼ばれるぐらいの体格だろうか。

 そのような少女がボロ布一枚でスポットライトの下に立たされた。


 マリシアは身を縮こませまがら、酷く青ざめた格好をしている。

 格好に対する羞恥心もあるようで胸元近くを両手で隠しているが、それ以上に表情が現状から察するこの先の地獄を感じ取ってしまっているようだ。


 無理もないだろう。まだ成人も迎えていないような子供が、見知らぬ大人に攫われて、今や商品として売られている。


 自分の人としての存在価値は勝手に捨てられ、まるで動物園の動物を見るかのように客から見られている。


 まだ小学一年生ぐらいの年齢だったダリソン君よりも自意識や思考がしっかりしているからこそ、余計今の状況はその少女にとって酷であろう。


 そんなマリシアを救えるとしたら、それはソウガしかいない。

 しかし、その少女に対するオークションは先ほどのダリソン少年とは違って本気度が違った。


「それじゃ、早速行きましょう! この子の開始金額は――」


「五百万!」


「おっと、まだ告げてないですがいいでしょう! 五百万からスタートです!」


「六百万!」

「七百万!」

「八百五十万!」

「九百五十万!」

「一千百万!」


 フライング男の言葉を皮切りに一分も経たずに金額は倍以上に膨れ上がった。

 その少女を求めたのは九割の男性貴族と一割の女性貴族。

 若い娘の使い道など、もはや語るべくもないだろう。


「一千二百万!」


 ソウガも負けじとナンバープレートを持ち上げて主張する。


「一千四百五十万!」


 しかし、すぐに別の貴族の言葉によって容易く上書きされていく。

 そのかき消した貴族の声も別の貴族によって消される。

 それの繰り返しが続き、気が付けばマリシアの金額は二千万に到達しようとしている。


「二千万だ!」


 さしもの貴族達もマリシア一人に対し二千万というボーダーを超えることは躊躇われたのか、誰しもがギリギリ二千万を超えないように争っていた。

 そんな中、ソウガの言葉が鶴の一声となって響き渡る。


 争っていた貴族達は一斉にソウガへと視線を向けた。

 先ほどの少年と今の少女を合わせて早くも三千万ドリン。

 この金額はいくら貴族といえど出せるポケットマネーの上限を超えている。


 そんな金額を持っているソウガを一目置いてみるか、はたまた場を荒らす不届き者がいると見るか。

 現状ではこの二つの意見で貴族達が分かれていた。


 それからも奴隷オークションは続く。

 その度にソウガが全てを掻っ攫っていった。

 そのことに対して黙っている貴族ばかりではない。

 一人の貴族がソウガに対して怒鳴った。


「いい加減にしろ! そこのクソガキ!

 貴様みたいな若造がそれほどの金額を持ってるわけねぇだろ!

 コイツは神聖なオークションを汚す不届き者だ! 即刻追い出せ!」


 その声をはじめとして、次々とソウガに対するヤジが溢れ出てきた。

 それは先ほどまでのオークションに対するうっぷんを晴らすかのように。


 貴族の誰もが最初に声を挙げた貴族の言葉が最もだと思った。

 なぜなら、ソウガの総計金額は今や一億九千五百万ドリンまで達していたからだ。

 そんな金額をポケットマネーで出せる男などこの世で一人しかいない。


 だが、その一人はこのオークションの主催者側だ。

 だからこそあり得ない。あってはいけない。

 故に、貴族達はソウガの行動を悪と断定したのだ。


 一人の声から始まったヤジがやがて会場を包みこむ。

 ソウガに対し、この会場の誰しもが悪意を向けた。

 直後、ソウガは思いっきり叫ぶ。


「うっるせぇんだよ! 黙ってろ!!」


 ソウガの言葉で一瞬場は静かになる。

 その僅かな静寂をソウガは奪取した。


「ふざけんな! まだ成人してもいねぇガキを寄ってたかって食い物にしようとしやがって!

 いいか、俺はお前らに誰一人として大切なガキどもを譲るつもりはねぇ!

 それに俺達にはまだ払える可能性が残ってるからな!」


「ククク、面白いことを言いますね、163番の方」


 ソウガの言葉に反応したのはカフカだ。


「確かに、あなたはこれから我らが王とのビックマッチに参加される血濡れの狼御一行のようだ。

 ならば、その“払える”という根拠に対してもあながち嘘とは言い切れない。

 なぜなら、あなた達が我らが王に勝てば、この国は瞬く間にあなた達のものになるんだから」


 彼女は主催者側の立場を利用して、瞬く間に言葉巧みに場を支配する。

 そして、彼女はさらに言葉を続けた。


「会場の皆さん、ここはしばしのご辛抱を。

 彼らの言葉も可能性がゼロではない以上、絶対に無理とは言い切れません。

 故に、ビッグマッチを終えた後に、再び奴隷オークションを始めようではありませんか。

 ちなみに、もしも我らが王が勝てば、帰る商品が少しばかり増えますが、どちらを選びます?」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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