表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き狼は群れを作り敵を狩る~やがて最強の傭兵集団~  作者: 夜月紅輝
第3編 クズ金の山

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/88

第60話 決戦への招待状

 会場に盛大に響き渡る観客の声。

 それら全ては今宵最大で行われたビッグマッチに対する賞賛の声と、賭け負けた悲しみの声で構成されている。


 それらを全身に浴びながらリングで佇むのは三人。

 一人は司会者として上がってきたバリアンことカフカ。

 もう一人が勝者で両手の拳を突き上げるガルバン。

 最後がリングの上で寝そべるリュートである。


 そこにいるのは勝者と敗者というわかりきった事実。

 されど、それはあくまで観客側から見た認識だ。

 リュートとカフカの二人の自意識は違う。

 この結果(かたち)こそ二人にとって勝ちなのだ。


「ぐっ!」


 その時突然、リュートは全身に痺れが走るような感覚に襲われた。

 痛みはない。されど、顔以外全くどこの動かせない。

 まるで金縛りにあったかのようにピクリとも。

 不測の事態にリュートの額には冷や汗が流れる。


 リュートが苦悶の表情を浮かべる。

 すると、それが目の端に移ったのかガルバンが視線を向けた。

 勝者は敗者を見下ろして邪悪な笑みを浮かべる。


「どうやらようやく聞いてきたみたいだな。俺様の()()()が。

 試合中に効かなかったのはさすが生きる英雄と言うべきか?」


「......麻痺毒?」


「俺のメリケンサックの先端には麻痺毒が仕込んであんだよ。

 にしても、これで殴ったってのに顔面の傷が驚くほど少ねぇな。

 まるで人間とは別の体を作りをしてるみてぇに」


「親が頑丈に生んで育ててくれたもんでね」


 リュートは冷静に返答しながら、ガルバンの嘘に気付いた。

 その嘘とはリュートが感じている麻痺が“麻痺毒ではない”ということだ。


 リュートは生まれながらにして、状態異常に対する耐性が異常に高い。

 つまりは、物に付与された毒が傷口から入り込んだとしても問題ないのだ。

 それこそ壊死毒や強酸性の溶解液のようなレベルまでこないと効かない。


 故に、ガルバンの言葉は嘘になるということだ。

 逆に、嘘をついてまで隠したい事実があるという裏付けでもあり、それはつまりガルバンの特殊魔法に関することと言える。


 ガルバンは既に<未来予知>という特殊魔法を持っている。

 だとすれば、その魔法はそれで完成するものが普通だ。


 加えて、未来という“時間”に作用する魔法としてもデメリットが無さ過ぎるのも不審点がある。


 特殊魔法は強力になればなるほど、その魔法を発動させるためのルールやデメリットが大きくなる。

 それは誰であろうと共通のルールである。


 リュートの<契約(コネクト)>も強力な魔法だが、契約相手の信頼を勝ち取り、さらに魔法を使う許可を得なければいけないという仕様だ。


 また、これはリゼや他の仲間には言ったことがないが、相手の信用が一定値を下回った場合、自動で契約が解除されてしまう。


 つまりは弱体化してしまうということだ。

 故に、リュートは日々自分の立ち位置、言動に気を遣っている。


 リュートでさえそれ程までの発動ルールがあるにもかかわらず、ガルバンの<未来予知>の能力はあまりにも発動ルールが甘い。


 特殊魔法の中でも“世界の理”を司る魔法は特に強力だ。

 その魔法とは<重力><時間><空間><魂魄>の四つであり、<時間>から派生している<未来予知>はそれこそ命をかけるような大きな代償を払えないと使えない魔法とされている。

 

 となれば、ガルバンはリュートとの試合の中、もしくは直前で必要な条件を満たしたかデメリットを受けたことになるが、そのような様子はない。


 特殊魔法発動において、術者以外がルールをクリアしても意味がなく、誰かがデメリットを肩代わりすることは出来ない。


 つまり、考えられるのはガルバンの特殊魔法において<未来予知>は副産物と考えるのが妥当だ。


 リュートの受けている麻痺が本来の仕様なのか、はたまたこれも副産物なのかは分からない。

 されど、ガルバンの特殊魔法がさほど強くないことは理解できた。


 リュートの思考は高速で巡っていく。

 そして、彼は思った。

 後は発動ルールを探るだけだが、それに関しては既に当たりをつけている。

 であれば、この状況からどうやって再戦するかがカギになる、と。


「なぁ、ガルバン。俺はこれからどうなるんだ?」


「あぁ? そりゃ当然、俺様専用の奴隷になるだろう。

 ククク、英雄を椅子にして酒を飲む......考えただけで笑えてくる状況だな」


「なら、残念だな。俺はまだ負けを認めてねぇ」


「ハァ?」


 ガルバンは眉を寄せて睨みつけた。

 対して、リュートはずっと変わらず不敵なを笑みを浮かべる。


「俺はまだ負けてねぇ。次は完膚なきまで叩き潰す」


「お前、自分の状況わかってんのか?

 今、お前の生殺与奪の権はこっちが握ってんだぞ?

 お前を生かすも殺すもこっちの匙加減だってことを忘れんなよ」


「俺がこんな場所に一人でノコノコ来るわけねぇだろ。

 いいのか? 俺を殺すことは構わないが、同時にお前は日々寝首かかれないように気を張らなきゃいけねぇ。

 ずっと神経を張り詰めなきゃいけないって相当辛いぜ?」


 ガルバンはすぐに答えることは無かった。

 それは監視カメラの映像からリュートが複数人の人物と接触してるのを見てたから。


「バリアン、お前も会ったんだったよな?」


「会ったよ? 可愛らしいお嬢さんがいたね。それもとてもお金になりそうな二人が」


「そうかそうか、そいつはいいな」


「だけど、同時に相当な手練れだ。確保を目的にするなら相当骨が折れる。

 というわけで、僕としてはこの憐れな敗北者は再戦を望んでいるようだから、それで負かしてやればいいんじゃない? 今度は仲間も巻き込んで」


「.......そうだな。そいつは面白い」


 バリアンを僅かじーっと見たガルバンはそう答えた。

 そして、一つの命令をリュートに与えた。


「俺様は慈悲深い寛大な心の持ち主だ。だから、特別にチャンスをやろう。

 明日のオークション終わり、最後の締めにもう一度お前とのエキシビションマッチを組んでやる。

 だから、お前は必ず受けろ。拒否権はない」


 ガルバンがそう言った後、リュートは金縛りがスッと引いていくのを感じた。

 あまりにもタイミングの良い引き。確実にガルバンの魔法と関係してるだろう。


「さぁ、聞いたかお前達! 今回は俺が勝利を収めた!

 だがしかし、打ち漏らした獣は知恵をつけて帰ってくる!

 再び同じ結果とはならないだろう! だからこそ、賭けるの勝ちがある!

 楽しみにしておけ! そして、再び俺が勝つ瞬間をな!」


「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」


 ガルバンの煽りは盛大に観客に火をつけた。

 その盛り上がりは先ほどの戦いの比ではない。

 人心掌握の術を持っているのはさすが王というべきか。


 リュートは体を起こし、その場に立ち上がる。

 そして、リングの外へ歩き出すガルバンを眺めた。


「じゃあな、英雄。今度は完膚なきまでに叩き潰してやるからよ」


 ガルバンは立ち止まりそれだけ言うと、再び歩き出す。

 その後ろをカフカもついていく。

 リュートにウインクだけ送って。


 リングに立ち尽くすリュートは、天井の証明をぼんやり眺め、肩の力を抜いた。


「ふぅー、これで俺のこの日の仕事は終わりか」


―――その日の夜


 一室に一同が介しながら、最後の一人が集まるのを待っている。

 その間、回復薬を飲むリュートにソウガが話しかけた。


「リュート、お疲れさん。いよいよ、明日だな」


「あぁ。明日はソウガ達にも協力してもらう予定だからな。しかも、たぶん体を張る方だ」


「明日、何やるか想像ついてるのか?」


 ソウガの隣に座るボルトンが腕組みしながら、リュートに質問する。

 リュートは「おおよそな」と言い、考えを述べ始めた。


「今回のガルバンとの戦い、感想を言えばそこまで厄介な相手というわけじゃなかった。

 確かに、ガルバンの動きはケンカ慣れしてる感じはあったが、恐らくだいぶ実践からは離れてるだろうな。動きが目に頼り過ぎてる」


「だけど、割とあんたの攻撃を躱していたと思うけど?」


「それは恐らくガルバンの魔法による効果だな。

 どういう魔法かってのはハッキリしたことは言えないけど、そこまで外れた回答にならないんじゃないかとも思ってる」


 そして、リュートの説明はこうだ。

 ガルバンはまず何らかのルールによって魔法を発動させているが、そのルールは恐らくゲームのルールと同じではないかということ。


 試合直前、ガルバンはリュートにルールを尋ねた。

 このイベントの主催者であるにもかかわらず。


 ガルバン本人は「年に一回だから覚えていない」と主張するが、運営する前には何事も情報伝達があって然るべき。よって、嘘と判断できる。


 であれば、わざわざルールを尋ねるような行為は、発動の条件と見てもいいだろう。


 そして、肝心の能力だがそれに関してはまだ不透明なことが多い。

 ただ予想できることはガルバン側に有利な何かが作用するのではないかということ。


 例えば、今回のリュートとガルバンの戦い。

 リュートの攻撃をガルバンはまるで来る場所が分かっていたかのように躱した。

 

 その先読み能力、未来予知とも呼べる能力がガルバンに働いていた。

 速度のある戦闘において相手の取る行動が先に読めているのは圧倒的なアドバンテージ。


 故に、リュートはそのように判断した。

 有利な何かが作用するというのは、判断材料が今回のデータしかないため、情報を過信しないようにするためだ。


 そして、そのまま決着。確実に分かることは、敗者は身動きが取れなくなること。

 勝者であるガルバンが言っていた「生殺与奪の権」の縮図が現れていた。


 これらの情報を整理すると、ガルバンの魔法はこう判断できる。

 一つ、ガルバンはゲームのルールを相互で共有しなければならない。

 二つ、そのゲームの内容によってガルバンに有利な何かが作用する。

 三つ、敗者の生殺与奪の権は勝者に委ねられる。


「――つまり、自分の命をかけた超クレイジーな賭け事ってことだ。恐らくな。

 そして、今回で俺と戦うのは分が悪いと悟っただろうから、俺との直接対決はないとみた」


「さすが、ダーリン。クレバーな思考に惚れ直しちゃったよ」


 最後の一人であるカフカが部屋の中に入ってくる。

 そして、彼女はニヤッとした笑みを浮かべて言った。


「それじゃ、総仕上げといこうか。大丈夫、あたしは伊達にずる賢く生きてないから」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ