第9話
「バカですね。思ったよりバカですねあなたは」
ゆかりのご機嫌がナナメだった。
洗濯した下着を他の洗濯物と一緒に庭に干しておいたのが気に入らなかったらしい。
なら自分で干せばいいのにという話だが、当番制でやっているのでそうもいかない。
大体、異母兄妹とはいえ同年代の男に洗濯物を任せるような人間がそんなに怒るものか。
「身内に見られるのと外から丸見えの庭に干しておくのは全然違います!ていうか、大体、今まで外に干してたんですか?」
「干してたけど」
「男というものは……」
「洗濯物なんて誰も見てないって」
わなわなと震えている。
僕はといえば平謝りの姿勢だ。
和を以て貴しとなすのが日本男児の嗜みである。
「治安の良さに甘え過ぎです。あんなことしたら盗まれて顔写真付きで売り飛ばされても文句言えないですよ」
「文句は言えばいいだろう……」
「口答えしないの」
和を以て貴しとなすのが、日本男児の嗜み。
「はぁ……これから洗濯は私がやるので、縁は掃除をお願いします。交代性はやめて分担しましょう」
「わかった」
「というか、干す場所もですけど、干し方も問題です。なんでちゃんとシワを伸ばして干さないんですか。そもそも洗濯する時に裏返した方が皮脂汚れが落ちやすいし水と洗剤も節約できるから」
「わかったわかった。お任せします」
「まったく……」
居候らしくなってきたものだ。
ピンポーン。
チャイムが鳴る。
返事をする前に、縁側から朝顔がぴょこっと顔を覗かせた。
手にはお土産のスイカを持って、いつものように楽しそうにニコニコと笑っている。
「黒が好きなんですね、ゆかりちゃん」