第4話
村の外れ、家から40分ほど山へ歩いた所に、沼とも池ともつかないような大きな溜池がある。
水の流れは殆ど無い。
水中の様子は殆ど見透すことは出来ず、周囲も小さな桟橋が一つ架かっている以外は緑に覆われてしまっている。
時折虫が魚が水面を跳ねる以外には波紋すら起こらない。
時間が止まったような真黒い水溜まりだ。
そんな水溜まりの桟橋に、小さな人影が一つあった。
栗色の髪をゴム紐で束ね、着ている短パンと白いTシャツは泥とか雑草とかに塗れている。
バレーボールくらいの石を椅子代わりにして、プラ製のバケツと安っぽい釣竿を持った小柄な少女。
「あー、縁くん!その子が妹さん??」
ニコニコ顔で立ち上がって、ブンブンと手を振る。
『縁くん』というのは僕の名前である。
『えにし』と読むのだが、彼女は頑なに『みどり』と読み続けいつの間にか定着してしまった。
プラのバケツの中では、鯉か何かがバシャバシャ跳ねていた。
宮原朝顔。
この村で生まれ育った希少な若者だ。
僕が5歳の頃にこの村に来た時からずっとこの調子である。
もう10年以上の付き合いになる幼馴染というやつだ。
「ゆかりです」
スンとした顔で隣の少女が答える。
「朝顔です!」
向こうは眩しい笑顔だった。
「いやー、一目でわかるよ。めちゃくちゃそっくりだもん」
「「え」」
声が揃う。
思わず。
「あはははは」
それを見てまた、朝顔は爆笑していた。