第3話
「この部屋、自由に使って貰っていいから」
「どうも」
兄妹とはいえ、初対面の年頃の男女である。
せめてもの配慮として、一階の僕の部屋の対角線上、2階の角の部屋を彼女に用意しておいた。
僕の暮らす木造二階建ての古い家屋は、元々寺だったものを改築したものである。
とても一人では持て余す広い家だ。
家族が増えるというのは、実のところ、僕は悪い気はしていなかった。
「布団は押し入れに入ってるから自由に使って。2階のトイレは廊下を突き当たって右。食事は一階の広間で取ってるけど……」
「食事はそちらに合わせます。それほど礼儀知らずじゃないですよ」
「そう」
「この広い家に一人で?」
「うん」
「……そうですか」
ゆかりの表情が少し曇る。
こういう生活は、彼女には金持ちの道楽のように映るだろうか。
ゆかりの荷物は、小さなトランクケースに収まるような最低限のものだった。
僅かな衣類に洗面用具。
革製の小物入れと、ボロボロの文庫本3冊。
マジマジと見たわけではないが、隠すでも見せるでもなく淡々と荷解きを済ませていく。
退室しようかと思ったが、そんな暇も無かった。
手伝うほどのものもなく、僕は所在無げに部屋の隅に突っ立ってそれを眺めていた。
「必要な家具とかあれば、可能な限りは用意するけど」
「十分ですよ」
「雑貨とか日用品とか」
「消耗品以外は欲しいものは持ってます」
「……」
「……あ、なら、村を案内してください」
行き場の無い老婆心に気を遣ったのだろう。
明け透けな言動だが、そういう気は回るタイプらしい。
礼を言うのも変に思えて、そのまま二人、靴を履いて家を出た。
午後3時を少し過ぎた頃。
日はまだ高かったが、気温は涼み始めていた。