第18話
「ここにいると、たまに懐かしくなるんです」
「懐かしい」
ゆかりと朝顔は、二人で神社の階段に腰掛けていた。
木漏れ日の中、晴れた初秋の昼下がりである。
「そう。来たこともないのに」
「既視感ってやつかな?」
「うーん、少し違うと思います……。イメージの中のノスタルジーっていうか、なんていうか……」
人という種が地球という土壌を覚えているのか。
あるいは、文化的に刷り込まれた共同幻想なのか。
言いようの無い懐かしさ。
存在しない思い出への郷愁。
「朝顔ちゃんは、ここで育ったんですよね」
「そうだよ」
「縁も?」
「縁くんは、私が4歳くらいの頃に村に来たの」
朝顔は、懐かしそうに顔を綻ばせる。
それは本物の郷愁だろう。
「縁のこと、どう思ってるんですか?」
「ど、どうとは」
「気になります。妹として」
ゆかりがじっと目と目を合わせる。
「う―……。そりゃ憎からずは思ってるけど」
「けど?」
「向こうが気を遣ってるっていうか。そういう距離感はさ」
「でも、10年以上の付き合いなんでしょう?」
「まあ、そうだね。人生の三分の二くらいは一緒に居るからねぇ……」
「気を遣ってるって、昔何かあったとか?」
「昔っていうか、これからっていうか……。明石さんの事があるから」
「明石さんって?」
「私の結婚相手だよ」
「……え」