第15話
月が出ている。
月明かりの下、縁側には少女が腰掛けていた。
「……あ」
「まだ起きてるんだ」
時計は午前2時を回っている。
「そっちこそ」
「ちょっと読書が捗り過ぎたから」
「……私も、そんな所です」
いつもなら通り過ぎて部屋に戻る所だが、なんとなく縁側の隅に腰掛けて一緒に月を眺めることにした。
月明かりに虫の声。
涼しげな風と土の匂い。
「……縁は」
「?」
「大切な人が病気になって、もう助からないって言われたらどうしますか?」
「……」
正解のある問いではない。
パッと思いつくような気の利いた言葉もなく、僕は答えに窮して黙り込んだ。
「その人は苦しそうに息をするんです。ヒュウヒュウって、喉の奥に絡まるみたいな弱々しい呼吸。手なんて殆ど骨だけで、ご飯はもう固形のものは喉を通らなくて」
淡々と、台本でも読み上げるみたいにゆかりは言う。
まさか心理テストの例題でも無いだろう。
ゆかりの目は静かに、しかし力強く芯の通った色で僕を見据えていた。
「……」
僕は……。
「手を握ると思う」
「……それだけですか」
「そう。それだけ」
「……そうですか」
ゆかりは一度目を伏せると、ゆっくりと月に向き直った。
「苦しみますよ、あなたの大事な人」
強い言葉だったが、非難の色は無かった。
「そうかも」
「そうかもって」
「でも、他にも何もできないと思う」
「……そうですね」
月明かりに浮かぶ少女は、少し寂しそうに見えた。