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第8話:フェンリルさんが元気になりました

『う、美味い!』


一口食べた瞬間、ルフェリンさんは大きな声で言った。

暗かった表情が、一気に明るくなっている。


『こ、これは美味いぞ!』

「どんな味なんだ?」

『ピリっとした辛さが後を引くから、いくらでも食べたくなる! そして、この鶏団子が最高だ! 小さくて食べやすい! 何より、噛むと自然に崩れるくらいの硬さが絶妙だな!』


ルフェリンさんは、ガツガツと食べている。


「そんなに美味いのか」

『おまけに、このスパイスの加減が最高だ! どんどん食欲が湧いてくるぞ!』


良かった、美味しかったみたい。

私はそっと安心する。

そのうち、ルフェリンさんの体に変化が起きた。

全身の毛が、銀色に輝き出したのだ。

さらには、パサついていたのがしっとりしてきた。


「あっ、ルフェリンさんの体が!」

「まさか……こんなことが……」


やがて、全部食べ終わったとき、ルフェリンさんが銀色に光った。

日の光を受けて、眩しいくらいに輝いている。


「ルーク様、何が起きているんですか!?」

「あれがルフェリンの本来の姿だ。信じられん……」

『うおおお! 体の調子がいいぞ! 病気が治ったんだ!』


ルフェリンさんは、すくっと立ち上がった。


『体も熱くなってきて、良い感じだ! ほら、触ってみろ!』

「うわぁ、あったかい……!」


ルフェリンさんを触ってみると、体がポカポカしていた。

スパイスが効いてくれたみたいだ。


『これならもう大丈夫だ! こんなに体の具合が良いなんて、久しぶりだな!』

「……君の料理を食べると病気が治るというのは、本当のことらしいな。そんなことは、私も初めて見た」


ルーク様は、とても驚いている。

やっぱり、私のお料理には不思議な力があるんだ。

それに加え、今回はスパイスの効能がより強くなったのかもしれない。

何はともあれ、ルフェリンさんが元気になって本当に良かった。


『メルフィー、ありがとう! お前のおかげで病気が治ったぞ!』


ルフェリンさんは、嬉しそうにピョンピョン跳ねている。

さっきまでの、ぐったりした感じとは大違いだ。

お屋敷の中から、エルダさんたちがやってきた。


「やったんだね、メルフィーちゃん!」

「メルフィーさん、すごいよ! ご飯で病気を治しちゃうなんて!」

「あんたは最高の料理人だよ!」


みんな、いっせいに私の周りに集まってくる。

しかし、ルーク様が一喝した。


「こら、お前たち、使用人はもっと丁寧に話さんか」

「「「も、申し訳ありません……」」」


三人は、しょんぼりしている。

だけど、私はルーク様に言った。


「ルーク様、すみません。私が友達みたいに接してほしいと言ったんです」

「なに? なぜだ、君は貴族の出身だろう」

「いえ、私はもう貴族の人間じゃありません。それに、立場が平等な方が私も楽しいですから」

「む……」


ルーク様は眉間にしわを寄せて考えている。

そして、静かに言ってきた。


「メルフィーがそういうことなら……まぁ、いいだろう。ただし、来客の前では丁寧に話しなさい」

「「「はい! ありがとうございます、公爵様!」」」


すると、ルフェリンさんが近づいてきた。


『おい、メルフィー! 今からお礼に乗せてやるぞ! 早くこっちに来い!』

「え、でも……いいんですか?」

「せっかくだから、乗せてもらえ。ルフェリンは結構速い。疾走感が気持ちいいぞ」


ルフェリンさんは、しっぽをフリフリしている。

今にも乗ってほしそうだ。


「で、では、お言葉に甘えて……うわっ!」


跨ろうとしたら、ひょいっと噛まれて背中に乗せられた。

思ったより高くて、私はルフェリンさんの首にしがみつく。

ルーク様が呆れたような顔をしていた。


「そんなに締め付けると、ルフェリンが窒息するぞ」

「す、すみません、ちょっと怖くて……」

『ははは、別に気にするな。俺は苦しくも何ともない。じゃあ、いくぞ!』

「うわっ! まだ心の準備が……!」


言い終わる前に、ルフェリンさんはすごい勢いで走り出した。

周りの景色が、どんどん流れていく。

だけど、不思議と息はしやすかった。


「あの、どこに向かっているんですか!?」

『公爵領の端っこさ!』


少しすると、切り立った崖に出た。

遠くの方に、お屋敷がポツンとある。


「ずいぶん遠くまで来ましたけど、ここもお屋敷の敷地なんですか?」

『ああ、そうだ。反対方向も、同じくらい広がっているぞ』

「そ、そんなにあるんですか」


これほど広い領地なんて、他には王様くらいしかいないんじゃないかな?


『メルフィー、ほんとにありがとな。お前がいなかったら、俺はどうなっていたかわからん』

「ルフェリンさんが元気になって良かったです」


私たちは、しばらく佇む。

夕日がとてもキレイだった。

ここに来たときはどうなることかと思っていたけど、むしろ来られて良かったな。


「ルフェリンさんとルーク様は、長い付き合いなんですか?」


なんとなくだけど、二人は特別な関係みたいな雰囲気がある。


『俺はルークに命を救われたんだ』

「えっ?」

『昔ダンジョンの奥深くで、瀕死のケガを負ったことがあってな。そのとき、俺を助けたのがアイツだ。それから、一緒に仕事をしている』

「そうだったんですか」

『今度はメルフィーに、命を助けてもらったってわけだ。さてと、そろそろ戻るか!』

「はい!」


ひとしきり走って、お庭に戻ってきた。


「楽しかったぁ……ルフェリンさん、どうもありがとう」

『またいつでも乗せてやるぞ』


さぁ、夕食の準備をするか。

と思ったら、ルーク様がまだいた。


「あっ、ルーク様。ただいま戻りました」

「メルフィー、どうもありがとう」


ルーク様に、ボソッとお礼を言われた。


「いえ、私は自分にできることをしただけですから」

「だが……これだけは言っておきたい」


いきなり、ルーク様はギラリと私を睨んできた。

とても真剣な目をしている。

こ、今度は、なんだろう……?

私はゴクッと唾を飲む。


「私にも同じ物を作ってくれ」

「は、はい……それはもちろん」


私は転びそうになるのを、またもや必死にこらえた。

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