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第33話:王様にフルコースをお出ししました ~東の国の懐石料理~

「王様、本日は“懐石料理”をご用意いたしました」


私は大食堂に、王様たちのお料理を運んだ。

みなさんピシッと座っていて、とても姿勢が良い。


「メルフィー嬢。“懐石料理”とはなんだ?」


王様たちは、不思議そうな顔をしている。


「ここから遥か東にある、“ニポン”という国のお料理でございます」


私が言うと、みなさんはおおっ! とざわついた。


「“ニポン料理”とは、また珍しいな。我輩もいつか食べてみたいと思っていたぞ。どうやって、調べたのだ?」

「ルーク様が本を買ってくださっていたのです」

「ほぅ、メルシレス卿は良い趣味をしているな。我が輩もその本を読んでみたい」

「ええと、確か本のタイトルは……」


私たちが話していると、ルーク様がそわそわし出した。


「陛下! せっかくの料理が冷めてしまいますぞ! メルフィーも、早く料理の説明をしなさい!」


思い出そうとしたら、ルーク様に遮られてしまった。

確かに、雑談しているとお料理も冷めてしまう。


「こちらは、白いご飯に、しじみのお味噌汁、鯛の昆布締めでございます」


私はお椀を王様たちの前に置いていく。


「メルフィー嬢、これはいったいどんな料理なのだ? 初めて見るスープだが」


王様たちは驚いた顔をしている。


「味噌という大豆から作られた調味料を溶かしたスープです」

「ふむ、大豆とな」

「陛下。お飲みになったら、きっとビックリなさいます」

「では、さっそくいただくとしよう」


王様たちは、揃ってコクンと飲む。


「「美味い!」」


その瞬間、王様たちの顔がぱあぁっ! と輝いた。

側近や総料理長たちも、驚いた顔を見合わせている。


「これは初めて飲むスープだ。しょっぱい中にも、ほんのりとした旨味があって誠に美味い」

「今日お作りしたお料理には、昆布やかつお節の煮汁を使っているんです。“ニポン人”たちは、出汁と呼んでいます。もちろん、このお味噌汁にも使っています」


私は用意しておいた昆布や、かつお節を見せながら話す。

王様たちは恐る恐る触っていた。


「かつお節は、ずいぶんと硬い食べ物だな。これが丸ごと入っているのか?」

「いいえ、薄くスライスしています。私たちは味付けに塩や砂糖を使うことが多いですが、“ニポン人”たちは食材から味を引き出すのが上手なんです」

「なるほど、それは面白い話だ」


さっきから総料理長は、必死にメモを取っている。

味噌汁を飲み干すと、王様は興味深そうに鯛を見た。


「昆布締めとは、また聞いたこともない料理だ。見たところ、これは生の魚だが」

「はい。その名の通り、昆布で味付けした鯛の切り身でございます。昆布の味が染み込んでいて、美味しいですよ」

「ソースなどはかけないのか。ずいぶんとシンプルな料理だ」


王様は無言で、モグモグと食べている。

何も喋らないので、私はドキドキした。


「い、いかがでしょうか?」

「……実に美味い! 魚を生で食べるのは初めてだが、こんなに美味いとは思わなかったぞ。しかし、昆布も侮れないものだな、ハハハハハ!」


しかし、王様は笑顔で話してくれた。

他の人たちも嬉しそうに食べている。

それを見て、私はホッとした。

王様たちのペースに合わせるように、お料理を出していく。


「根菜の煮物でございます。こちらは今が旬のレンコン、にんじん、ごぼう、そしてサヤエンドウを使っております」


私は煮物を並べる。

直前に作ったので、まだ温かかった。

王様たちは大喜びで食べていく。


「レンコンやごぼうはサクサクしていて、歯ごたえが最高じゃないか。にんじんは柔らかくて、味が染み込んでいるぞ。それにしても、不思議な甘い味付けだな」

「これも出汁を使って、味付けしております」

「いやぁ、メルフィー嬢の作る料理は、どれも美味くて素晴らしい」


王様たちはとても上機嫌だ。


「お次は焼き物として、ブリの照り焼きをご用意しました」

「いいじゃないか。王宮では肉ばかりだからな。魚をたくさん食べたいと思っていたところだ」


王様はニコニコしていたけど、総料理長は表情が少し硬かった。


「どうぞ召し上がってください」

「では、さっそく……うまぁい。甘くてしょっぱくて、絶妙な味加減だ」


王様たちは、最初にお出ししたご飯もガツガツと食べている。

たくさん炊いたのに、もうおかわりが無くなりそうな程だった。


「最後に、椀物としてポテトと鶏肉のそぼろをご用意しました。食べているうちに崩れていくので、最後はポタージュのようにしてお食べください」

「濃い感じではないのに、しっかりと味がついているじゃないか」

「そちらも出汁を使っています」

「ほぅ、出汁とは素晴らしいスープだな。どんな料理にも合うではないか。いや、全てメルフィー嬢が作ったから美味いんだな」


王様たちはホクホクしている。

ルーク様も、静かに笑いながら食べていた。

チラッと見ると、微笑んでくれる。

言葉では言われていないけど、なんだか褒められている気がした。


「恐れ入ります、王様」


これで、全ての料理をお出しした。


「も、もう食べられないぞ」


王様たちはお腹が満たされたみたいだ。

お食事会も終盤に差し掛かっていた。


「それでは、ニポン茶をどうぞ」

「これもまた、初めて見る。ずいぶんと緑が濃い茶だ」

「やや渋みがありますが、紅茶やコーヒーより“ニポン料理”に合うお茶でございます」


王様たちはまたもや揃って、コクリと飲んだ。

みなさん、ふぅっと一息吐いている。

とても満足げだった。


「王様、お出ししたお料理はいかがでしたでしょうか?」

「想像以上に、遥かに美味かった。ありがとう、メルフィー嬢。我が輩は感動したよ」


王様は私と握手をしてくれる。

そして、周りの人たちもお礼を言ってくれた。


「私は宮殿で総料理長を務めておりますが、こんなに美味しい料理は初めて食べました。メルフィー嬢の下で修行したいくらいです」

「メルフィー嬢、あなたは相当の腕前をお持ちですね」

「王宮に帰ったら、他の貴族たちにも自慢してやります」


大食堂はワハハハ! という笑い声に包まれる。


「我が輩にとっても、今日は印象深い日になった。こんなに美味い食事が毎日食べられるなんて、メルシレス卿は世界一の幸せ者だな。誠に羨ましいことだ」

「恐れ入ります、陛下。私もメルフィーにはいつも世話になっています」


ルーク様も笑顔で王様とお話しする。

だけど、王様は不思議そうな顔をしていた。

しきりに、胸のあたりを触っている。

どうされたんだろう?


「陛下、どうかされましたか?」

「いや……我輩は胸に病気を持っているのだが。急に呼吸が楽になったような気がすると思ってな」


王様が言うと、総料理長が驚いたような顔をした。


「王様もそうでしたか。私もここ最近、頭痛に悩まされていたのですが、たった今キレイさっぱりなくなりまして。いやぁ、奇遇ですな」

「私も目が悪かったんですが、いきなり遠くまでよく見えるようになりました。不思議なこともありますねぇ」

「おや、あなたもそうですか。私も膝が痛かったのが消えてしまいまして、どうしたんだろうと思っていたのです」

「実は私も、肩が痛かったのがなくなりまして」


王様や総料理長、側近たちは、揃って不思議そうな顔をしている。

きっと、“聖女の加護”が効いてくれたんだわ。

私が話そうとすると、ルーク様が説明してくれた。


「陛下、恐れ多くも申し上げます。メルフィーの作った料理には、“聖女の加護”が宿っているのです」

「「“聖女の加護”!?」」


ルーク様が言うと、みなさんはとても驚いた。


「メルフィーの料理を食べると、体の調子が良くなるのです」

「いや、しかしだな。国で一番の医術師も薬師も、誰一人我輩の病気を治せなかったのだぞ」

「メルフィーの料理の力は、それ以上だったということです」

「なんと……それは誠であるか、メルシレス卿?」

「私が保証いたします」


王様たちは驚愕の表情をしている。

でも、今回は体に良い特別な食材は使っていないような……。

私はルーク様にこっそり話す。


「ルーク様。今回のお料理では、スパイスなどは使っていないのですが……どうして、王様たちの病気は治ったんでしょう?」

「おそらく、君の“聖女の加護”は、料理を作るたびに強くなっているんだろう」


私はそんな実感は無かったけど、ルーク様が言うんだからそうなんだろう。


「まさか、そんな力がこの世にあるとは……メルフィー嬢、貴殿の料理は神の恵みだな! ハハハハハ!」

「お、恐れ入ります、王様」


王様たちは嬉しそうに笑っているけど、私は恐縮しっぱなしだった。


「ところで、総料理長。我輩はこの料理が、かなり気に入ったぞ。王宮でも同じ物が作れるかね?」

「も、申し訳ありません、王様。これは私にも難しい料理です」

「そうか。総料理長でもできないとは……どうだ、メルフィー殿。王宮付きの料理師にならないか? もちろん、待遇は王族と同じにするぞよ」


王様は嬉しそうに言ってきた。

王様直々にお声がけいただくなんて、大変名誉なことだ。

でも、どうしよう。

私はルーク様の専属シェフだし。

私は王宮には行けない。

お断りするしかない。

だけど、王様や側近の人たちはニコニコしている。

どうやってお断りすれば……でも、断ってしまったら、王様たちは怒らないかしら……。


「いや、私は……」

「お言葉ですが、陛下。メルフィーは、誰にも渡しません」


私がお断りしようとしたら、ルーク様が強い口調で言った。

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