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第31話:王様にお出しするメニューが完成しました

「さてと、始めましょうか」


一通りレシピが決まったところで、私は練習してみることにした。

王様たちが来るのは、まだ先のことだ。

練習する時間は、たっぷりあった。


「わ、私も何か手伝うか?」


キッチンで準備していると、ルーク様がやってきた。


「ですが、ルーク様に作らせるわけには……」

「いいや、私にできることがあったら、何でも言ってくれ。私も手伝いたいのだ」


お料理は私の仕事だから、ルーク様にやらせるわけにはいかない。

だけど、ルーク様は本気みたいだ。

花柄のかわいいエプロンまで着ていた。


「でしたら、申し訳ありませんが、お湯を沸かしていただけますか?」

「よし、わかった……って、うわっ!」


ルーク様は勢い良くお鍋を取る。

と思ったら、その手からつるりとお鍋が落ちた。

ドンガラガッシャンと、もの凄く大きな音がする。

私は慌てて駆け寄った。


「ルーク様、大丈夫ですか!? おケガはありませんか!?」

「ああ、私は平気だ。すまない、手伝おうとしたんだが……料理とは、なかなかに難しいものだな」


ルーク様はしょんぼりしている。

いつもの頼りになるルーク様とは大違いだった。


「お気持ちだけで嬉しいですよ」

「では、私は味見専門になるとしよう……」


なんだか、かわいそうだったけど仕方がない。

もし、ルーク様がケガでもされたら大変だ。


「メルフィー、何から作るんだ?」

「まずは、“鯛の昆布締め”を作ろうと思います。少し時間がかかりそうですから」


私はさっそく、昆布を濡れタオルで拭いて柔らかくする。

その後、鯛をそぎ切りにした。

ふやけた昆布の上に、鯛の切り身を並べていく。

さらにその上から昆布を被せたら、重しを置いてお終いだ。


「どれくらいこのままにするんだ?」

「2時間ほど待ってみようと思います」


これくらい待てば、昆布の味がほどよく染み込むはずだ。


「後は、昆布とかつお節で、出汁をとらないといけませんね」

「“懐石料理”で、一番大事なところみたいだからな」


私は水の中に、昆布を入れる。

柔らかくして、旨味を取り出すのだ。

30分ほど経ったら、沸騰する少し手前まで煮る。


「昆布は乾燥しているので、一度水でふやかさないと旨味が出てきません」

「ほぅ……」


昆布を取り出して、沸騰させたら火を消す。

かつお節を入れて、もう一度ぐつぐつさせた。

ちょうどいいところで、ルーク様と味見してみる。


「「おいしい(美味い)!」」


しっかりとした塩味なんだけど、塩辛いわけではない。

どこかで食べたような……そうだ、魚や貝の旨味に似ているんだわ。

これが出汁の味なのね。

栄養満点って感じだ。


「この出汁を使って、“お味噌汁”を作ります。具材は、しじみにします。一緒に入れれば、貝の旨味も出てくると思いますので」

「聞いただけで美味そうだ」


しじみの砂出しが終わったら、水を注いだお鍋に昆布と一緒に入れる。

ゆっくり沸騰させて、旨味をしっかり出していく。

やがて、しじみの殻がパカパカ開いてきた。

数分経ったら、アクと一緒に昆布は取っておく。

味噌を溶かして、沸騰し始めたら完成だ。


「不思議な色のスープだな」

「ちょっと味見してみます」


私はコクンと飲む。

お、おいしい……一口飲んだだけで、濃厚な味が広がった。


「メルフィー、私にもくれ」


余韻に浸っていると、ルーク様が羨ましそうに言ってきた。


「どうぞ、お飲みください」


渡したお味噌汁を飲んだ瞬間、ルーク様は満面の笑みになる。


「どうですか、ルーク様?」

「これは美味い……美味いぞ、メルフィー。何というか、味や風味にとても奥行きのあるスープだ」


あの本を読むと、“懐石料理”はおもてなしに溢れた料理ということがわかった。

温かい物は温かいうちに、冷たい物は冷たいうちにお出しするのだ。

今回のお料理にピッタリね。


「次は“ブリの照り焼き”を作ります」

「どんどん作りなさい」


付け合わせに、ネギも切りましょう。

ブリもネギも、表面をしっかり焼くことが大切ね。

一番大事な“たれ”は、お砂糖、みりん、しょうゆから作ることにした。

ネギは適度にひっくり返しながら炒める。

少しすると、こんがりおいしそうなきつね色になった。

ネギをお皿にあげたら、ブリの切り身を焼いていく。

じゅぅぅっと、食欲をそそる音が響いた。


「とても脂が乗っていますね」

「こんなの美味いに決まっている」


ブリが焼けてきたら、作っておいた“たれ”を加える。

しばらく炒めていたら、たれがとろとろしてきた。

良い感じかも。

お皿に載せ、“たれ”をかけたら完成だ。

ルーク様と一緒に味見をする。


「思った以上に、おいしくできました」

「今まで食べたことがないような味付けだ」


ブリの表面はカリカリで、ふっくらジューシーに焼き上がっていた。

特製の“たれ”で、ほんのり甘い。

ブリとの相性は抜群だった。


「次は煮物を作りますね」

「ああ、頼む」


私は買ってきた根菜を並べる。

にんじん、ごぼう、レンコンだ。

皮をささっと剥いたら、ザクザクと食べやすい大きさに切っていく。

そして、ごぼうは酢水に、レンコンは水に浸した。


「メルフィー。どうして、ごぼうとレンコンだけそんなことをする?」

「アク抜きと、色が変わらないようにするためです」

「ふむ……」


今回は根菜以外にも、さやえんどうを用意しておいた。

鮮やかな緑色が、良いアクセントになってくれるだろう。

これはすじをとったら、軽く茹でて準備完了だ。


「では、煮ていきますね」


私は鍋にお水と、さっき作った出汁を入れる。

野菜たちを入れたら、コトコト煮込んでいく。

一度沸騰したら、落し蓋を被せて火の勢いを弱くする。

そのうち煮汁も減って、野菜も柔らかくなってきた。

砂糖、みりん、しょうゆで味を調えたら完成だ。


「味見してみましょう」

「私にも分けてくれ……美味いな」


ごぼうとレンコンはサクサクしていて、にんじんは柔らかかった。

甘い味が染み込んでいて、とてもおいしい。


「最後は、椀物の“じゃがいもと鶏そぼろのお椀”ですね。玉ねぎとサンショウの芽も使うことにします」

「メルフィーは何でも作ってしまうな」


じゃがいもは皮を剥いて、ざく切りにしたら茹でて柔らかくする。

フォークでたくさん押し潰したら、マッシュポテトになった。

丁寧に丸めて、小さなお団子にする。

玉ねぎは細かく切ったら、お肉と一緒にフライパンで炒める。

さらに出汁としょうゆ、みりんを加えて、水分を飛ばしていった。

炒め終わったら、マッシュポテトのお団子に詰め込む。

お椀に出し汁と一緒に入れ、サンショウの芽を飾り付けたら完成だ。


「“お味噌汁”とはまた違った感じですね」

「ああ、さっぱりして美味しい。それにしても、芋と肉の組み合わせは良いな」


食べていると、お団子が少しずつ溶けてきた。


「メルフィー、形が壊れてしまったぞ」

「大丈夫です。最後は、スープみたいにして食べることもできます」

「なるほど……そんな味わい方もある料理なのか」


そうこうしているうちに、2時間くらい経った。

そろそろ、“鯛の昆布締め”を食べてみようかしら。

一口食べた瞬間、私たちはビックリした。


「調味料を使っていないのに、ちゃんと味がついています」

「これはすごい料理だ。身も引き締まっていて、美味いな」


出汁みたいな味が、全体に染み込んでいる。

ソース等をかけていないのに、とてもハッキリとした味わいだ。


「“懐石料理”にして良かったです」

「陛下も喜んでくださるだろう」


それから何回か試作して、十分に納得いく出来になった。


「ルーク様、このメニューでお出ししようと思います」

「無事に完成して良かった。それにしても、君の作る料理は本当に美味しいな」


いよいよ、王様がいらっしゃるんだ。

私はドキドキしてきた。

でも、心配することは何もない。

だって、ルーク様がおいしいと言ってくれたのだから。

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