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第27話:公爵様が守ってくれました

「ル、ルーク様、魔物です!」

「メガウルフだ。どうやら、群れのようだな」

『グルル!』 『ガルル!』


メガウルフは体が大きい狼のようで、とても凶暴な性格をしている。

鋭い牙に強そうな爪が、ギラリと光っていた。

森の中から、何匹も出てくる。


「おそらく、食事の匂いにつられてきたんだろう。私から離れるんじゃないぞ、メルフィー」

「は、はい!」


私はルーク様の後ろに、ピタッと隠れた。

あんな爪で襲われたら、ひとたまりもない。


「でも、どうして魔物が。ここには結界が貼ってあるのに」

「どこかに、結界のほころびがあったのかもしれん。すまない。事前に、辺りを偵察しておくべきだったな」


メガウルフの群れは、私たちを取り囲むように近づいてきた。

牙を剝き出しにして、グルルと唸っている。

私たちを鋭く睨んで威嚇していた。


「ルーク様、どうしましょう」

「メルフィーは下がっていなさい。こいつらは私が何とかする」


ルーク様は私を背中に隠すようにした。

すぐ目の前に、魔物がいる。

私は怖くて仕方なかった。


「≪アイス・ショット≫!」


ルーク様が呪文を唱えると、氷の塊が現れた。

すごい勢いで、メガウルフに向かって飛んでいく。


『グアア!』 『ギイイ!』


次々と当たっては、メガウルフを吹っ飛ばす。

とても痛そうだ。

キャンキャンと、おっかない魔物たちは逃げていった。


『ガアア!』

「きゃあっ!」


そのとき、背後の木に隠れていたメガウルフが飛び出してきた。

ズバッ! と私の腕が引っかかれる。


「しまった、メルフィー!? ≪アイス・メガショット≫!」

『グアア!』


ルーク様はメガウルフに特大の氷塊をぶつけ、森の中に吹っ飛ばした。

そして、私の方に急いで近寄ってきた。


「メルフィー、すまない! 大丈夫か!?」

「は、はい……って、あれ? あまり痛くない」


だけど、私の腕は思ったより傷ついていなかった。

ちっちゃな切り傷で、血もほんのちょっと出ているだけだ。

なんでだろう。

思いっきり、引っかかれたはずなのに。


「メルフィー、すぐに手当てする。ケガしたところを見せるんだ」

「いや、なんだか平気みたいです」

「見せなさい」


ルーク様は、私の腕をグイッと強引にひいた。

そのまま、じっくりと見ていく。

あまりにも熱心に見られるので、私は恥ずかしくなってきた。


「あ、あの……ルーク様?」

「やはり、君の作る料理には、“聖女の加護”があるようだ」

「“聖女の加護”……ですか?」

「君の料理には、聖なる力が宿っているらしい。ルフェリンの病気が治ったのも、この力によるところが大きいだろう。こんな力は、私も見たことがない」


やっぱり、私が作るお料理には不思議な力があったんだ。


「だから、私の料理を食べた人は、体の調子が良くなったりしたんですね」

「メルフィーの体も、とても頑丈になっているようだ。おそらく、今の君はバジリスク並みの皮膚を持っているはずだ」


そういえば、私は昔から病気になったことはなかった。

でも、バジリスクって……。

できれば、もう少しマシな言い方をしてほしかった。


「君が本気で殴ったら、メガウルフなど木っ端みじんになったかもしれないな」

「そ、そうですか……」


いや、それはどうなんだろう?

褒められても、あまり嬉しくなかった。


「こんな傷、放っておけば治りますよ。それに早くマリョク草を探さないと、日が暮れてしまいます」

「いいから、私に見せなさい。化膿したらどうするんだ。すぐに治すから、ジッとしていろ。<グレート・ネオヒール>」


ルーク様が手をかざすと、私の腕がキレイな光に包まれる。


「ルーク様、それは最高級の魔法ですよね。そんな魔法を使っていただくわけには……魔力がもったいないです」

「黙っていなさい」


ルーク様は、とても真剣な顔をしていた。

そのまま、私の腕を丁寧に癒してくれる。

おかげで、傷はあっという間に治ってしまった。


「ありがとうございます、ルーク様。痛くもなんともないです」

「君が無事で本当に良かった」


ルーク様はとても安心している。


「料理が作れなくなると、困りますものね」


そう、私はルーク様のご飯を作るためにいるから。

でも、嬉しいけれど寂しいようなよくわからない気持ちになった。


「君は何か、勘違いしているようだな」

「え?」


ちょっと考えていると、ルーク様に言われた。


「もちろん料理も大事だが、それ以上に君が大切なんだ」

「ルーク様……」


ルーク様がそんなことを言ってくれるなんて、私はとても嬉しかった。


「ウウン! さて、メガウルフも追い払ったし、昼食にするか」

「そうですね、お昼にしましょう」


食べ物や調理器具は、全て無事だった。

ルーク様が守ってくれたのだ。

私たちは、出来上がったパスタを食べる。


「このフジッリは、見事なアルデンテだ」

「茹で時間がちょうどよかったみたいですね」


フジッリは芯が残っていて、嚙み応えがある。

乾燥野菜はみずみずしくて、切りたてみたいだ。


「干し肉も柔らかくて美味い」

「パスタも具材も一緒に茹でたので、味が染み込んでいると思います」


山の空気がおいしいこともあって、お昼ご飯はすぐに食べ終わってしまった。


「山でこんなに美味い料理が食べられるとは、私は幸せ者だな」

「喜んでいただけて良かったです、ルーク様」


満足気なルーク様を眺めていると、私も嬉しい気持ちになる。


「私のお料理に“聖女の加護”があるのなら、ルーク様にも何か恩恵があればいいんですけどね」


幸い、ルーク様にご病気はないみたいだし。

ましてや魔法なんて、私の料理の力などいらないくらいお上手だ。

何かしら、ルーク様に恩返しができたらいいのだけど……。


「もう……十分に恩恵を受けている」


ルーク様は静かに言った。


「え、そうなんですか?」

「君の料理を食べると……心が温かくなる」


その言葉を聞いて、私も心がポカポカしてきた。


「ルーク様……そう言っていただけると、私も嬉しいです」


この人の専属シェフになれて、本当に良かったな。


「さて、日が落ちる前にさっさと採取するか」


食事も終わり、私たちは登山を再開した。


「マリョク草は、どこにあるんですか?」

「もう少し登ったところだ」


頂上より手前に、マリョク草はたくさん生えていた。

キレイな黄色い花で、小さい蕾がかわいい。

ルーク様はちょっとだけ切り取った。


「それくらいで足りるのですか?」

「必要最低限の量で十分だからな。あまり採りすぎると、育たなくなってしまう。さて、仕事も終わったし、屋敷に帰るか」

「はい、ルーク様」


私たちは山を下りていく。

短い登山だったけど、とても楽しかった。

怖い魔物に遭遇したけど、マリョク草も無事に手に入ったし。

ずっと、こんな毎日が続いたらいいな。

私は静かに、だけど力強く願った。

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