第19話:公爵様に夜食をお作りしました ~濃厚トマトリゾットとお芋のあったかミルク~
「お夜食だから、軽い料理の方がいいわね」
夕ご飯はもうお食べになったから、小腹を満たすくらいがちょうどいいだろう。
なおかつ、満腹感のあるお料理。
まずは、食材を探してみましょうかしら。
たしか、トマトが残っていたはず。
冷蔵箱を見ると、真っ赤なトマトがいくらか入っていた。
私はジッと眺める。
何か良いレシピが浮かびそうな……。
「そうだ、トマトリゾットを作りましょう」
リゾットならご飯がクタクタだから、胃もたれしないだろう。
それに、トマトの酸味でリフレッシュできる。
そうと決まったら、さっそく準備ね。
玉ねぎとにんにくも、一緒に入れましょう。
まずはお米を研いだら、玉ねぎを細かく刻んでいく。
このとき、にんにくも一緒に切ってしまう。
トマトも細かく切ったら、下準備はおしまい。
フライパンに火をつけて……とそこで、誰かがキッチンにやってきた。
「メルフィー、こんな遅くに何をしてるんだい?」
ラベンテさんが、目を擦りながら入ってきた。
「あっ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「いや、ちょっと喉が渇いちゃってね。目が覚めたのさ……って、ずいぶんと美味しそうな物を作っているねぇ」
「ルーク様のお夜食に、トマトリゾットを作っているんです」
「いいじゃないか。最近、公爵様は夜が遅いみたいだからね。お腹を空かせているだろうよ」
私は玉ねぎとにんにくを、じゅわーっと炒めていく。
にんにくの芳ばしい香りが漂ってきた。
良い匂いが出てきたところで、研いでおいたお米を加える。
やがて、お米が透明になってきた。
そろそろ頃合いなので、切ったトマトも入れる。
焦げないように注意して、軽く混ぜてと。
お水を入れて、コトコトと15分ほど煮ていく。
「良い匂いがしてきたね、メルフィー。食欲が刺激されるよ。そろそろ出来上がりかい?」
「仕上げに火を強くして、煮詰めていきます。リゾットがとろりとするくらいがちょうどいいです」
最後に、塩コショウを少し振ったら完成だ。
真っ赤なリゾットから、ホカホカと温かい湯気が上っている。
「とっても美味しそうじゃないか。見てたらお腹が空いてきちゃったよ」
「ちょっと味見してみます」
私は一口食べてみる。
はぁ……おいしい。
お米は柔らかくて、野菜の旨味を吸い込んでいる。
トマトは、ほんのり酸っぱくて、滑らかな舌触りも最高だ。
うん、これならいける。
「アタイもちょっと食べてみたいな」
「ラベンテさんも味見しますか?」
私はトマトリゾットを、少し差し出した。
「いいのかい、メルフィー。じゃあ、いただきま……いや、でも、ダイエットしないと。そうよ。食べたいけど我慢しなさい、ラベンテ。これ以上太ったら、どうしようもないって」
ラベンテさんは手を伸ばそうとしては、ひっこめていた。
そういえば、ダイエット中とかなんとか言ってたっけ。
「軽めの食事ですから、食べても太らないと思いますよ」
「そうかい!? そうだよね! 味見くらいなら大丈夫ね!」
そう言うと、ラベンテさんはリゾットを一口食べた。
すぐさま、満面の笑顔になる。
「美味しいねぇ、メルフィー。頬っぺたが落ちそうだよ」
よし、これでメインは決まったわね。
できれば、もう一品作りたい。
「う~ん、飲み物も作ろうかな。リゾットだけだと寂しいし」
「どんなものがいいかねぇ」
「リゾットはさっぱり系だから、飲み物は少し甘くしようと思います」
味の変化があった方が、ルーク様も楽しめるだろう。
あまり多くの種類は作れないからこそ、こういうところで楽しんで頂きたい。
「どんなのを作るんだい?」
「これを使います」
私は冷蔵箱から、サツマイモを取り出した。
ラベンテさんは、驚いた顔をしている。
「サツマイモで飲み物? 全然想像つかないよ」
「ホットミルクを作ります。お芋の甘さを活かすんです」
サツマイモを潰して温かいミルクと混ぜれば、おいしい飲み物になる。
スープみたいだし、ルーク様のお腹も膨れるだろう。
「ホットミルクかぁ。思い浮かべるだけで美味しそうだね」
「素材の味を十分に使っていきます」
サツマイモを輪切りにしたら、茹でて柔らかくする。
フォークの背中で潰すと、ホクホクと崩れてきた。
裏ごしして、滑らかにしましょう。
ミルクを入れて、お鍋で温めていく。
ヘラでかき混ぜていくうちに、だんだんスープみたいになってきた。
サツマイモのかぐわしい香りが沸き立つ。
「サツマイモは匂いも甘いね」
「砂糖なんていらないくらい、甘いと思います」
私はすりおろした生姜も、お鍋に少し加えた。
「生姜も一緒に入れるのかい?」
「ピリリとした辛さが、アクセントになってくれるはずです。生姜には体を温める効果もありますから」
夜は冷えるから、風邪をひいてしまうと良くない。
ミルクが温まったところで、私はコクンと一口飲む。
……甘くておいしい。
サツマイモの味がしっかり出ていて、まるで丸ごと食べているみたいだ。
思った通り、生姜の辛さが良いアクセントになっていた。
サツマイモの甘さの後に、生姜の辛みが出てくる。
飲み物だけど、とても満足感があった。
「ラベンテさんも、少し飲んでみますか?」
「これはおいしい……おいしいよ、メルフィー。アタイはこんなにおいしいホットミルクなんて、初めて飲んだね」
だんだん、私の体がポカポカしてきた。
一口飲んだだけなのに、すごい効果だ。
これなら、体が温まること間違いなしだ。
「ルーク様もおいしく召し上がってくれたらいいな」
「メルフィーは本当に優しいねぇ。こんなに人のことを考えている人なんて、他に見たことがないよ」
「そうでしょうか。私は自分にできることをやっているだけですが……」
「きっと、メルフィーの優しさが、料理にも溶け込んでいるんだよ」
お盆にトマトリゾットとホットミルクを乗せたら、準備完了だ。
「では、ルーク様に届けてきますね」
「公爵様も喜んでくださるさ」
そして、私はルーク様の書斎まで来た。
コツコツと扉をノックする。
どうか、喜んでいただけますように。




