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第15話:公爵様はお昼を食べていないと聞きました

「ルーク様、おいしいですか?」

「うむ、相変わらず美味いな」


あれから、私は朝ごはんもご一緒するようになった。

レモンのフレンチトーストは大変気に入ったみたいで、今朝もそれをお出しした。

お屋敷に来たときより、ルーク様とお話しできる時間が増えている。

お食事を出すたび、美味しいって言ってくれるし。

些細なことだけど、私は素直に嬉しかった。


「最後にお茶をご用意しますね。ドクダミ茶がよろしいですか?」

「ああ、頼む」


すっかり定番となったドクダミ茶をお出しする。

ルーク様はとてもおいしそうに飲んでいた。

私も一緒に飲む。

すっきりして、気持ちが落ち着くわ。


「ふむ……やれやれ……」

「どうかされましたか、ルーク様?」

「いや……まぁ、なんだ」


さっきから、ルーク様は話したそうだ。

でも、何を話したいのだろう?

も、もしかして、お料理を失敗しちゃったのかしら?

私は不安になる。


「何かお口に合いませんでしたか?」

「いや、そうではない。ただ、今日も魔法省に行くんだな、と思ってな」


魔法省は、ルーク様の職場だ。

だけど、魔法に疎い私は、入るのがとても難しいとしか知らない。

ふと廊下を見ると、エルダさんがいた。

しきりに、何かの合図を送ってきている。

口パクで一生懸命しゃべっていた。

お仕事の話を聞くの! と言っているようだ。


「あの、ルーク様は、どんなお仕事をされているんですか?」


そういえば、私はルーク様のことをよく知らなかった。

氷魔法が得意なことくらいしか聞いていない。


「私は魔法省の新魔法開発部、というところで働いている」

「なんだか、難しそうな名前ですね」

「別に難しくも何ともない。名前の通り、新しい魔法を開発しているだけだ」


ルーク様はさらりと言った。

新魔法の開発なんて、誰でもできることじゃない気がするんですが。


「私もいつか、ルーク様の魔法を見てみたいです」

「そんなもの、いつでも見せられるが……。そうだ、今日はまだ時間があるから、少し見せよう。庭に来なさい」

「あっ、ルーク様」


引きずられるようにルーク様に連れられ、お庭へ出てきた。


「この辺りでいいだろう」

「どんな魔法を使ってくださるんですか?」

「なに、たいした魔法ではないがな。見る分には美しい」

「それは、どういう意味で……」

「見てればわかる。<アイス・ベール>」


ルーク様が呪文を唱えると、辺りを氷の粒が舞い始めた。


「え、す、すごい! ルーク様は、杖なしで魔法が使えるんですか?」


私はとても驚いた。

杖がないと、普通は魔法なんて使えないのに。


「これくらいなら、問題なく使える」


そのうち、氷が固まり始めた。

少しずつ、何かの形になっているようだ。


「ルーク様、なんだか氷の様子がおかしいです」

「大丈夫だ。安心して見ていなさい」


やがて氷の塊は、かわいい妖精になった。

私たちの周りを、ふわふわ飛んでいる。


「ルーク様! 氷の妖精です! こんなの初めて見ました!」

「いつもメルフィーには頑張ってもらっているからな。ちょっとしたお礼と言ったところだ」

「ルーク様……」


私は嬉しくて、涙が出そうになった。

氷の妖精たちは、私の周りに粉雪を降らしてくれる。

キラキラ輝いていて、とても美しい。

私の頬を何かが流れたけど、きっと雪だ。


「さて、そろそろ終わりにするか」


ひとしきり遊ぶと、氷の妖精たちは消えていった。


「私の魔法というと、こんな感じだ。もちろん、もっと攻撃的な魔法もたくさんある」

「ルーク様、ありがとうございました。とても……とても楽しかったです。こんなにキレイな魔法を見たことは、今までありません」


私は感動して、ルーク様を見る。

いくら感謝してもしきれないくらいだった。


「いつもいつも、こういうことばかりしているわけでないからな。決して違うからな、絶対に」


ルーク様から、強く念を押すように言われた。

かなり強く。


「こんなにすごい魔法が使えるなんて、羨ましいです」

「羨ましい? どうしてだ」

「いえ、私は大した魔法が使えませんから」

「別に魔法が得意だからといって、何もないぞ。魔物の軍勢を一掃して、公爵の爵位を賜るくらいだ」


いや、それは十分凄すぎると思うのですが……。


「そういえば、ルーク様。お昼はいつもどうされているのですか?」


魔法省には、食堂とかあるのかしら?

もしかしたら、ルーク様の好物が聞けるかもしれない。


「昼は食べていない」

「食べられていないんですか? でも、ご飯を食べないとお体に悪いです」

「なかなか時間が取れなくてな。料理が出てくるまで、結構待つんだ」


そっか、ルーク様はお忙しいんだ。

でも、私はルーク様の健康が心配になった。

朝ごはんを食べてから、夜までずっとお腹が空いているってことだ。

ご飯を食べるのは、健康に一番大事なことだと思っている。

でも、私が魔法省に作りに行くわけにもいかないし……。

そのとき、私はあることを思いついた。


「ルーク様、私がお弁当を作るというのはどうですか?」

「弁当?」

「お昼休みの時に持っていけば、料理を待つ時間もありませんから。それに、今日の素晴らしい魔法のお礼がしたいです」

「いや、別にいい」

「ぜひ、私に作らせてください。お腹が空いて、ルーク様が倒れたら心配です」

「私はそんなにひ弱に見えるか?」


ルーク様にギラリと睨まれた。


「い、いえ、違います! ひ弱に見えません! 申し訳ありません!」


私は慌てて謝る。

失礼なことを言ってしまった、反省しないと。


「フッ、冗談だ」


ルーク様はかすかに笑っている。

じょ、冗談か……良かった。

私はホッと一息つく。


「何か食べたい物はありますか?」

「苦手な食べ物はない」


だけど、やっぱりまだ食べたい物は教えてくれなかった。

でも、「何でもいい」よりかはいいか。


「じゃあ、おいしいお弁当を作りますね。楽しみにしていてください。元気が出るようなお料理を作ります」

「君は優しいな……」


ルーク様はボソッと何かを呟いた。


「え? なんですか?」

「いや、何でもない。私はもう仕事に行く」

「行ってらっしゃいませ、ルーク様」


そう言うと、ルーク様はお屋敷から出ていった。

私はグッと気合いを入れる。


「さっそく、お弁当のレシピを考えなくちゃ!」


私はキッチンに向かって走り出した。

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