第13話:公爵様に朝ごはんを作りました ~たっぷりレモンの爽やかフレンチトースト、林檎とナッツのチーズ入りサラダ~
「どんな料理にしようかしら?」
私はキッチンで考えていた。
ルーク様に朝ごはんをお出しするのは初めてだ。
あまり量が多いと、胃もたれしちゃうかもしれないし。
かと言って、少ないと物足りないだろうし。
何を作ろうかな。
『メルフィー、良い物持ってきたぞ』
そのとき、窓からルフェリンさんが顔を出した。
口に黄色い物をくわえている。
「あっ、ルフェリンさん」
『ほら、屋敷の木で採れた果物だ。ルークの朝ごはんに、使えるんじゃないかと思ってな』
「うわぁ、レモンですね! こんなにたくさん、ありがとうございます」
私はさっそく、レモンを受け取った。
太陽の日差しをたっぷりうけて、とてもみずみずしい。
鮮やかな黄色が、とてもキレイだ。
レモンを眺めていると、レシピが浮かんできた。
「そうだ! このレモンを使って、フレンチトーストを作りましょう!」
『いいじゃないか! 朝にはピッタリだな!』
レモンの爽やかさを活かして、ほんのり甘い味づけに。
これなら、朝からさっぱりすると思う。
でも、レモンはどうやって使おうかしら?
このままだと、さすがに酸っぱすぎるわよね。
キッチンの中を探していると、はちみつがあった。
「このはちみつと、レモンを合わせることにします。そうすれば、酸味が落ち着くはずです」
『想像するだけで美味そうだ。出来上がったら、ちょっと分けてくれ』
「少しだけですからね。今日のうちに、はちみつレモンだけ用意しておきましょう」
レモンは丁寧に水洗いしたら、薄めにスライスしていく。
ここで種をしっかり取ってしまうのが大事、噛むと痛いからね。
ビンに入れて、はちみつをなみなみと注いだらおしまい。
「これで下準備はできました」
『明日が楽しみだな』
□□□
翌日、私はいつもより少し早くキッチンに来た。
ルフェリンさんもちゃっかりと、窓の外でウロウロしていた。
「朝ごはん作りますよ~」
『おっ、そうか。俺は別に、たまたま歩いていただけだからな』
「はい、わかってますよ」
まずは、ブレッドを半分に切り分けよう。
レモンははちみつに漬けなかった分を搾って、果汁を用意する。
『酸っぱい匂いが爽やかだな』
「レモンはたくさんあるから、たっぷり使いましょう。皮も細かくすりおろせば、おいしく食べられます」
次に、溶き卵とミルクを混ぜて卵液を作った。
そのまま、底の深いお皿にレモン果汁と一緒に注ぐ。
砂糖で味を調えたら、ブレッドを丁寧に置いた。
『どれくらい浸しておくんだ?』
「だいたい10分くらいですね」
そして、いよいよブレッドを焼いていく時だ。
フライパンでバターをゆっくりと温める。
バターがじゅわぁっと溶けたら、レモン果汁に浸しておいたブレッドを焼き始める頃合い。
やがて、良い匂いとともに、きつね色に焼けてきた。
ひっくり返したら蓋をのせて、少しの間蒸していく。
こうすれば、ふんわりサクッとなるはずだ。
焼き上がったらはちみつレモンを乗っけて、粉砂糖を少し振って完成。
「では、味見してみます」
『俺にもくれよ』
「全部はダメですからね」
『わかってるって』
私とルフェリンさんは、一口ずつ食べてみる。
「『……甘くておいし~い!』」
レモンの酸味がほどよく抑えられ、それなのに爽やかさが残っている。
フレンチトーストもサクサクふわふわで、とてもおいしい。
これならルーク様も喜んでいただけるだろう。
「パンだけだと寂しいから、もう一品作りましょう。やっぱり、朝はお野菜を採った方が良いわよね」
『俺は野菜なんかより、肉や魚の方が良いな』
「この朝ごはんは、ルフェリンさんのじゃないんです」
キッチンの中を探していると、林檎やナッツ、チーズの残りがあった。
「ちょうどいいわね。これを使いましょう」
新鮮なレタスもあるので、サラダにする。
朝から野菜を食べるのは、健康にとてもいいからね。
『野菜ばっかでいいのか?』
「チーズとナッツが入っているから、とても栄養があるんです。まずは、ナッツから調理していきます」
私はナッツを食べやすい大きさに砕いていく。
「う~ん、林檎はスライスにした方がいいかな? そうすれば、レタスと一緒に食べられるし」
『メルフィーは食べやすさとかも大事にするよな』
「お料理は、食べる人のことを一番に考えないといけませんから」
レタスは均等に切るより、手でざっくりとちぎった方が良さそうだわ。
葉っぱをちぎるときの、ザクザクとした感じが心地よい。
それらをキレイに盛り付けたら完成だ。
林檎は皮を残しておいたから、緑と黄色、赤色のコントラストがとても美しかった。
『へぇ、見た目も鮮やかだな』
「料理は五感で楽しむものですからね」
レモンと林檎で、たっぷり栄養補給だ。
これなら、お肉やお魚を使わずに手軽に栄養が採れる。
胃もたれもしないだろう。
さて、そろそろルーク様が起きてくる時間だ。
「じゃあ、朝ごはんを持っていきます」
『ルークもきっと喜ぶぞ』
私はいつものように、ドキドキしながら朝ごはんを運ぶ。
「おはよう、メルフィー」
「おはようございます、ルーク様」
ルーク様は、もう席に着いていた。
衣服もキッチリ整っている。
いつ見てもちゃんとしてるなぁ。
だけど頭の横に、ピコッと髪の毛が跳ねていた。
「ルーク様、お寝ぐせがありますわ」
「な、なに!? 確認したはずなのに!」
「お待ちください。今、私が直しますわね」
「直さなくていい!」
しかしルーク様は、乱暴に寝ぐせを直してしまった。
グシャグシャしたので、余計ひどくなった気が……。
「ルーク様、素敵な髪が……」
「これでいいんだ! ゴ、ゴホン! さあ、朝ごはんはできているのかね?」
「ええ、できてます。“たっぷりレモンの爽やかフレンチトースト”でございます」
私はルーク様の前に、出来たてのお料理を並べる。
フレンチトーストから、レモンの爽やかな香りが漂う。
ルーク様は、ゴクッと唾を飲んだ。
「なかなかに、素晴らしいじゃないか」
「あと、お野菜もご用意しました。“林檎とナッツのチーズ入りサラダ”です」
「サラダまで作ってくれたのか、さすがはメルフィーだ」
ルーク様は機嫌が良さそうだった。
「では、いただくか」
「いただきます」
ルーク様は、フレンチトーストを口に運んでいく。




