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第12話:公爵様に朝ごはんを作ってほしいと言われました

「メルフィー、最近仕事に余裕が出てきた」

「そうなんですか、それは良かったです!」


夕食後にエルダさんとリトル君の仕事を手伝っていると、ルーク様が話しかけてくれた。


「だから、いつもより遅く屋敷を出られる」

「ええ、そうですね」


お仕事が減れば、お屋敷に居れる時間も増える。

今までより、朝もゆっくりできるだろう。

ルーク様の負担が減るのであれば、私も嬉しい。

過労で倒れてしまわないかと不安だった。


「この話には続きがあるんだが」

「はい、何でしょうか?」

「つまりだな」


しかし、ルーク様はなんだか歯切れが悪い。

何かとても言いにくそうな感じだ。


「……あ……ん……」

「ルーク様、すみません。あん……とは、何でしょうか?」


ルーク様が食べたい物かしら?

だとしたら、なんとしても聞かなければならない。


「……さ……れ……」


しかし、ルーク様はボソボソ話しているので、よく聞こえなかった。

さっきから、何を言っているのだろう?


「すみません、ルーク様。もう一度言っていただけ……」


え、ちょっと待って?

そのとき、私は気づいてしまった。

もしかして、され……って。


「去れってことですか!? も、申し訳ありません、ルーク様! どうか、もう少しだけでもいいので、お屋敷に置かせてもらえませんか!?」

「な、なに!?」


私は必死に頼み込む。

冷や汗がダラダラ出てきた。

ここ以外に、私の居場所はどこにもないのに。


「お料理だって、今まで以上に頑張ります! お望みとあれば、お屋敷中の野草で特大のキッシュを……!」

「だから、どうしてそうなるんだ!」

「でも、今去れって……」

「言ってない!」

「で、でしたら、されというのはいったい……」


私はドキドキしながら、お返事を待つ。

心の中で、懸命に神様へお祈りする。

お願いします、どうか追い出されませんように!

やがて、ルーク様はボソッと言ってきた。


「……私に朝ごはんを作ってくれないか?」

「あ、朝ごはん……ですか?」


あまりの予想外のことに、私は拍子抜けしてしまった。

もうちょっと、はっきり言ってくれてもいいのに。


「だから、そうだと言っている」

「わかりました! そういうことでしたら、ぜひお任せください! おいしい朝ごはんをご用意します!」


私は気持ちが高ぶった。

せっかく、ルーク様から言ってきてくれたのだ。

おいしい朝ご飯を作るぞ。


「ルーク様は、何が食べたいでしょうか?」

「別に、何でもいい」

「あっ、ルーク様!」


そう言うと、ルーク様はさっさとお屋敷に戻ってしまった。

何でもいい……か。

やっぱり、今回も食べたい物を教えてくれなかったな。

いつか、ルーク様の好きな物を作って差し上げたいのだけど……。


「あれ? エルダさんとリトル君がいない」


いつの間にか、二人とも姿を消していた。

と思ったら、木の影に隠れていた。


「メルフィーちゃん、すごいよ! 公爵様が朝ごはんを食べたい、って言うなんて!」

「僕もそんなこと初めて聞きました!」


エルダさんもリトル君も、とても驚いている。


「そ、そんなにすごいことなのかな?」

「「そりゃもう!」」


すると、森の中から、ルフェリンさんが走ってきた。


『おーい、今の会話を聞いたんだが。本当か?』

「あっ、ルフェリンさん。ルーク様が、朝ごはんを食べるって話ですか?」

『ああ、そうだ』

「でも、よく聞こえましたね。ずっと森にいたんですよね?」

『俺は耳には自信があるんだ』


ルフェリンさんは、耳をピクピク動かしている。

かわいいなぁ。


『まさか、あのルークが、朝ごはんを食べるなんてな』

「でも、珍しいことなんですか? ルフェリンさんまで驚くなんて……」

『少なくとも俺たちが出会ってから、アイツが朝ごはんを食べたことは一度もなかった』

「そんなに食べていないなんて……」

『朝はいつも何もする気がしない、とか何とか言ってたな。あの調子だと、昔からそういう感じなんだろう』


どうやら、ルーク様は長いこと朝ごはんを食べていないようだった。


『そしてメルフィーが来てから、ルークはどこか変わった気がするな。前はもっとツンケンしていた』

「え、そうだったんですか?」


たしかに、初めてお会いした時より、物腰が柔らかくなったような気がする。

今でもちょっと冷たい時はあるけど。


「アタイも公爵様は、優しくなられた気がするわ」

「うわっ、ラベンテさん! びっくりしたぁ!」


いつの間にか、ラベンテさんが真後ろに立っていた。


「アタイがここに来た時なんか、すっごい怖かったんだから。ずっと眉間にしわが寄っていることが多かったけど、最近はそんなことも無くなってきているしね」

「ラベンテさんもそう思いますか? 僕もちょうど、そう思っていたんですよ」

「全部、メルフィーちゃんが来てからよね。私たちにも、優しくなってくれたような気がするわ」

『やっぱり、メルフィーとの出会いが、あいつを変えているんだな』


三人と一匹(魔獣も“匹”って数えるのかしら?)は、ずっとああだこうだ言っていた。

私はグッと気合いを入れる。

せっかく、ルーク様が期待してくれているのだ。


「絶対においしい朝ごはんを作るぞ! さっそくレシピを考えなくちゃ!」


私はキッチンに走っていく。

ルーク様に、最高の朝ごはんを作ってあげたい。

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