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第11話:公爵様の肩こりが治りました

「ど、どうですか、ルーク様?」

「……美味い」


それを聞いて、私はとても嬉しくなった。

ルーク様は淡々と食べているけど、確かに「美味い」と言ってくれた。

作ったお料理をおいしいって言ってくれるのが、やっぱり一番嬉しい。

喜びと安心とで、私はぼんやりしてしまった。


「良かったです……」

「ぼんやりしていないで、君も食べなさい」

「す、すみません、いただきます!」


慌てて、私もキッシュを食べる。

こ、これは……おいしい。

自分を褒めるようだけど、とても上手にできたと思う。


「私に遠慮せず、どんどん食べなさい」

「は、はい、ありがとうございます」


シロザはほうれん草と似たような味だが、ずっと主張が強い。

存在感抜群という感じだ。

この辺りが、野菜と野草の違いね。

そしてベーコンの塩味が、組み合わせ最高だった。

玉ねぎもくったりしていて、ちょうどいい甘味が出ている。


「君は、ほんとに料理が上手いんだな」

「あ、ありがとうございます」


いきなりルーク様に褒められ、私はさらにドキドキした。


「ベーコンや玉ねぎ以外にも、何か入っているようだな。口の中で、何かが伸びるような食感がある」

「キッシュの中に、刻んだチーズを入れてあります。隠し味です」

「なるほど、チーズだったか」


ルーク様は感心したように、キッシュを食べていた。

そういえば、最近はルーク様とお話できている。

「食事中は静かにしなさい」と言われることもなかった。

初めてお屋敷に来たときより、少しずつ距離が近づいているのかな。


「ここでの暮らしには慣れたか?」

「はい、ルーク様のおかげで、楽しく過ごさせて頂いてます。使用人さんたちも、みんな良い人で良かったです」

「彼らもメルフィーが来て良かったようだ」


ひとしきり食事が進み、キッシュも残りわずかとなった。


「ルーク様、そろそろお茶をお淹れしましょうか?」

「頼む」


私はドクダミの茶葉にお湯を注ぐ。

鼻の奥が、スーッとする香りが漂った。


「ルーク様、ドクダミ茶でございます。こちらもお庭で採れた野草です」

「ほぅ……紅茶はよく飲むが、ドクダミの茶とはな。なかなかキレイな色じゃないか」


ルーク様は琥珀色のお茶を、珍しそうに眺めている。

そして、コクリと一口飲んだ。

そのまま目をつぶって、しばらくドクダミ茶の余韻を楽しんでいた。


「ど、どうでしょうか?」

「美味い……食後にちょうどいい味わいだな。スッキリする」

「気に入っていただけて良かったです、ルーク様」

「君の手にかかれば、何でも食材になってしまうんだな。感心するよ」


ルーク様が、またまた褒めてくださった。


「いえ、私には料理くらいしかできませんから」

「まぁ、そんなに謙遜するな。……なんだ? 肩が楽になった気がするな」


ルーク様は肩を回しながら、不思議そうな顔をしている。


「ドクダミには、肩こりを治す成分が入っています。それが効いてくれたんだと思います。シロザも滋養強壮作用がありますから、体の調子が良くなったかと」

「もしかして、そのために野草を使ったのか?」

「ドクダミやシロザの成分で、ルーク様の肩こりを治したかったんです。今朝も肩が凝ってそうでしたから……」

「そうか、見られていたか」


ルーク様は恥ずかしいような表情で苦笑していた。


「でも、少しでも治って良かったです。肩こりが悪化して、倒れてしまうと大変ですから」

「それは大丈夫だ。肩こりで倒れた人間はいない」


ルーク様はいたって真面目な顔をしている。

そのお顔を見ていると、私はだんだん恥ずかしくなってきた。

た、たしかに、肩こりで倒れる人なんていないわよね。

どうして私は、気の利いたことが言えないのかしら。


「だが、野草がこんなに美味いとはな」

「ええ、アク抜きをしっかりすれば、野菜と同じようにおいしいです」

「しかし、どうして庭で採れたドクダミやシロザなんだ? 食費のことなど、気にする必要はないんだが」

「はい、それは……」


とそこで、私はあることに気がついた。

ルーク様には、もっと立派な食材でお作りした方が良かったかもしれない……。

お庭で採った物より、市場の高価な食べ物の方が……。

私は必死に謝る。


「も、申し訳ありません、ルーク様! 今後は、もっと豪華な食材を使います!」


しかし、ルーク様はポカンとしている。


「突然どうした、メルフィー?」

「あ、いや、もっと高級な食材を使った方が良かったかと思いまして……。お庭で採れた野草なんて、良くなかったですよね?」

「いや、そういうわけではない。純粋に疑問に思ったのだ」


どうやら、ルーク様は怒ったりしていないようだ。

私は静かにホッとする。


「今日、リトル君たちの雑草採りをお手伝いしたんです。そのとき、ドクダミとシロザがたくさん生えていて、リトル君たちが困っていると聞きました。何か使い道が見つかれば、みなさんの負担が減ると思って、お料理に使ったんです」

「そうか」


私の答えを聞くと、ルーク様はまた食事に戻った。

もくもくと、キッシュを食べている。

今のお答えは、特に問題はないわよね。

でも、私は心の中でモヤモヤ悩んでいた。


「ありがとう、メルフィー……」


ルーク様は、ボソッと何かを言ってきた。

なんだろう?

だけど、小さな声なのでよく聞こえなかった。


「何でしょうか、ルーク様?」

「いや、何でもない。しかし、このキッシュは本当に美味いな。野草もなかなか良いじゃないか」

「ありがとうございます。楽しんでいただけて、何よりです」


私たちの間を、ゆったりとした空気が漂う。


「さて、キッシュをもう少し貰おうか」

「はい、今取り分けますね」


私はルーク様と、食事を続ける。

会話は少ないけれど、確かに楽しい時間だった。


「庭にある野草で、また料理を作ってくれ」


また作ってくれと言われ、私は嬉しくなった。

すかさず、大きな声で返事する。


「はい、いくらでもお作りします!」

「毎日じゃなくていいからな」


こうして、お庭で採れる野草(元雑草)たちは、お屋敷の定番食材になった。

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