宇宙人という名の何か。
【第1章の2】
ユカは目を覚ました。
知らない天井と言いかけたが、いつもの見慣れた自宅の天井なので言うのを止めた。
いつの間に寝てしまったんだろう。
そう思いながらベッドから起き上がると通勤用のスーツのままである事に気付く。
「うえっ?」
酔っ払って寝たにしても着替えるのを忘れてまで飲んだ記憶は無い。
というか、自宅の近くで変な音を聞いてからの記憶も無い。
「うえ~っ?!?!?!」
スーツの上着が赤黒いシミが広がっいた。
そのシミはスカートにも広がっているから二度驚いた。
「何?私、誰かやってる???」
身体のどこも異常が無いのだから赤黒いシミは自分以外の血糊と考えても仕方ない。
もしくは自覚無しで出血しているかだ。
こんな格好で寝ていたと言う事は…という事で布団を捲ると案の定血糊で汚れている。
「マジか!これどうしよう……」
こんな刑事事件の現場みたいなベッドで今後寝るのかと思うと泣けてくるユカであった。
寝室で半泣きしながら通勤スーツを脱いだらところで、誰も居ないはずの居間からテレビの音と何者かの気配を感じた。
妙齢の女性であるユカなので、当然変質者の可能性を否定出来ない。
まさか寝てる間に!と思ったユカは自分の身体を色々触ってみたが乱暴された形跡は無さそうだ。
そこで何かあった時用に、以前ホームセンターで購入したバールのような物を構えて居間の様子を伺ってみた。
何か大きな生き物(ユカにとってはネズミ以外は大きな生き物)が自分が購入したしたビールを飲みながらテレビを観ながら笑っている。
その生き物はタヌキともキツネとも言えない様な姿をしていた。
もう少し大きければ着ぐるみと思ったであろうが、残念な事に非常にリアルであった。
ある意味可愛らしいと言えなくも無いが、
皆さんは不気味な森現象というのはご存知だろうか。
ファンシーなぬいぐるみは可愛いがリアルな日本人形やマネキンが気持ち悪く感じるアレだ。
「あなたは誰!!!」
ユカは思いきって声を掛けた。
するとタヌキともキツネとも言えない謎の生物がユカを見たのである。
「やあ!やあ!やっと目が覚めたね?いやぁ原住民はこんなに脆いとは思わなかったね。
新しい頭部の調子はどう?ヒトの頭部は少し複雑だから初期動作不良が心配だったんだ。」
ユカはこの生物の喋ってる意味を理解するのに数分を要した。
頭部と聞いてユカは自分の頭を触ってみたものの…頭蓋骨が少し硬い気もするが、別に普段から頭を叩く様な事をしないので、正直良く解らない。
「キムキムをベースに流体金属で血管を形成して、シナプスの代わりにトリノが働いているね。多分だけど普通の人より1.1倍くらいは反応が良いはずね。」
所々の単語の意味は解らないが微妙な倍率だとユカは思った。
とりあえず警戒は溶かずに(バールのようなものを構えつつ謎生物の半径二メートルを保ちつつ)
ユカは自分がどうなったのか聞いてみる事にした。
「はあ?!私死んだの?!」
要約するとそういう事である。
「キムキムとは原住民用語でゴールドね。トリノは光通信に近いね。本当はタキオンを仕様する予定だったけど、頭部はともかく身体は通過してしまうので使えなかったよ。
多少のチェレンコフ光を生じているけど許容範囲オッケーね。
しかし原住民言葉に要約すると回りくどいね。」
ユカは謎生物の単語をWikiで調べていくうちに、自分の脳ミソが何かとんでもない状態である事だけは理解した。
「まあ、原住民の通常の営みには問題無しね。」
少し甲高い声で喋る謎生物から安心してと言われても不安でしか無い。
「しかし、この液体は美味しいね。僕の星にもアルコールを使った飲料があるけど、危険信号である苦味を利用した飲料とは予想外ね。」
謎生物の周囲にはユカが購入した缶ビールの空き缶が散乱している。
「ああっ!!勝手に飲んでる!!ちょっと!!弁償してよね!!」
ユカは怒ると喋る単語が途切れ気味になる癖がある。
「まあまあ、頭部に掛かったコストを考えたら安い購入と思うね。」
そう言われるとユカとしても納得するしか無いし、宇宙人らしき謎生物を怒らせるとどうなるかも想像出来ない。
そこでユカはふと思った。
「あんた名前はなんて言うの?宇宙人?謎生物?」
その言葉を聞いた謎生物はイケメン風に答えた。
「僕の名前はポンニャー。由緒正しい名前ね。」
ユカは目の前のタヌキともキツネとも言えない生物の名前がポンニャーだと聞いて、名は体をあらわすと言う格言を思い出すのてあった。