表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒翅ゲノム   作者: 鎌糸
8/27

八話 純粋

男の人は、縫血(ほうけつ)というらしい、珍しい名前だ、縫血さんについて行った先には、さっきの縫い付けた死体が沢山吊り下げられていた。

「コレはね、僕の『作品』なんだ、常に最高傑作を作ってる」

「それは… 縫血さんの匙加減では?

縫血さんは困ったように笑った、でもそれがとても優しく見えた。

「う〜ん、確かにそうとも言えるね、でも、自分が最も納得いくモノが、最高傑作なんじゃないかな?」

一理あるかもしれない、と思った。

「それより、僕の作品を見ても怖がらないんだね」

「はい、その人達は、私には全く関係無いので、なんとも思いませんよ」

「そうなんだ、変わってるねキミは」

「…よく言われます」

縫血さんは優しく私の頭を撫でてくれた。

「でも、それは悪い事じゃ無い、キミの名前を教えてくれるかな?」

私は———


「…コレで確定だな」

後日、エゴとウェブラに魔蟲(まむし)を接近させたが、全く気づく素振りを見せなかった。

「学園での失踪事件の関係者はソイル・プランドで決まり…って訳じゃ無い、ソイルにも魔蟲を接近させる」

そしてそのソイルは現在すぐそこにいる、遠くから魔蟲を放すと、一直線にソイルへ向かって行く。

「えへへ… ん? え? えっ… 何 何?」

ソイルは魔蟲に驚いたようで、必死に追い払おうと逆方向へ走って行った。

「ヤバいっ! 見失う!」

レヴィオスが茂みから飛び出し、ソイルを追って走り出した。

「はあっ…はあっ…!」

何、あれ、縫血さんと関係あるの? 気持ち悪い…

「お? ソイルちゃんじゃん」

「ッ…!」

最悪だ、あんなに減らしたのに、よりにもよって一番嫌なのに遭遇した。

「ジュウ…先輩…」

ジュウ・オスキニド、入学からずっと私に目をつけて、散々な目に遭わされた。

この人のせいで元から嫌いだった男の人がもっと嫌いになった。

「なあ、付き合えよ」

でも、今は違う、今は縫血さんがいる。

「…そうやって、いつまでも私に構うんだね… 他の人から相手に———」

顔を殴られた、殺したい気持ちで一杯になった。

「な〜にがあったか知らねえけど、そんな口きけないようにしてやる」

ソイルに向かって振り下ろされる拳を、レヴィオスが受け止めた。

「…あ? なんだよ、オッサン」

「悪いな、その女子生徒は、中央騎士団にとって重要なんだ」

睨みつける男子生徒に、ダザムから受け取った中央騎士団のエンブレムを見せると、舌打ちをし、歩いて行った。

「…あれ、魔蟲どっかいったな」

「…あ」

少女の方を向くと、右頬が赤く腫れ、手元に歪んだ眼鏡が落ちていた。

「大丈夫…じゃねえか、見せてくれ、歯ァ折れたりしてないか?」

学園から少し離れ、ソイルの自宅の前まで来た、眼鏡はなんとか治した。

「なあ、さっきの生徒は…」

ソイルはしばらく口籠もっていたが、ゆっくりと話し始めた。

「私を虐めていたヤツです…他にも沢山いました…」

(いました…過去形か)

「…深く入り込むようで悪いが、その虐めてたヤツらの名前ってわかるか?」

「…さっきのは、オスキニド、あと、クゥエド、イムゴ、キュオム…」

挙げられた名前の殆どは失踪した生徒と一致した、この子で間違いなさそうだ。

「そうか…ん?」

ふと、ソイルの鞄に魔法陣を彫った木の板が下げてあった。

「これ…『ザナド・デュ・エクリプス』の魔法陣か? 珍しいな…」

ソイルは意外そうにこちらを見た。

「知ってるん…ですか…?」

身体強化の後方支援系の魔法だ、こう言った魔法には一つ一つ個別の魔法陣が存在し、それを彫った土産品がある、だがザナドはこの系統の中でもマイナーな魔法だ。

「ああ、かなりレアだぞ…! こっちは『ニトロ・ヴァ・ブレイザム』!」

ソイルの鞄には四つの魔法陣の板が下げてあったが、どれもレアな品ばかりだった。

「はい…昔から…珍しい魔法を調べるのが好きで…」

そして次々と魔法について語り出し、ふと、言葉を止めた。

「あ… ごめんなさい… 初対面の人に対してこんな…」

「いや、全然良いぞ、俺、今まで魔法について、こういうベクトルで話せるヤツいなかったし」

ソイルは僅かに笑い、板の一つをレヴィオスに手渡した。

「これを…『グランド・ゴ・メグメゲル』の陣です…」

レヴィオスはそれを受け取り、懐に仕舞い込んだ、そして気難しい表情を浮かべた。

「ありがとな、それと… コレを言うのは少し躊躇うが…」

レヴィオスはしばらく悩んでいたが、心を決め、口を開いた。

「最近、全身ツギハギの若い男に合わなかったか?」

ソイルは目を見開き、レヴィオスから視線を逸らした。

そしてそのまま、無言で自宅へ入って行った。

(ヤバい…悪手を打った… 警戒されたか…?)

「レヴィオス〜!」

声の方を見やると、遠くからフェーズが走って来ていた。

(…とにかくここからいち早く離れた方がいい、俺達の会話を知られたら、ソイルの俺達への不信感はより確実なモノへとなる)

レヴィオスはフェーズの方へ走ると、抱きかかえそのまま走って行った。

「ちょちょちょ何スか!? 何スかいきなり!?」

「ソイル・プランドと接触した、俺達の会話を聞かれたらマズイ、だが多少の信頼も出来たハズ」

「早くないッスか? 十分ぐらいしか経ってないッスよ?」

「…まあ、学生だからな、純粋ってヤツなんだろう、ソコを魔人に利用されてるかもしれねえ」

ソイル・プランド、彼女には少し妙な点もあった。

何故家の前でずっと喋っていたのに親が出て来なかったのか… それどころか、様子見に来る事も無かった。


…どうしよう、あの人、縫血さんの事を探している、殺した事がバレる。

「どうしたの? ソイル」

「あ… 緑色の髪の人に、縫血さんの事を聴かれて…」

縫血は顎に手を当て、意外そうな顔でソイルに目線を合わせた。

「その人、名前はわかる?」

えっと…確か…

「レヴィオス…だった気がします…」

縫血は歪んだ笑顔を浮かべ、それをソイルに見られないように顔を手で覆った。

(驚いたな…! まさかゲノムと逢えるなんて…! コレを利用しない手は無い…!)

「…あの?」

「ああ、ごめん、その人はボクの知り合いだけど、いい人だよ、きっとソイルと気が合う」

「…はい! さっきも魔法についての会話が盛り上がって…」

「うん、やっぱりね、それと、そのレヴィオスと一緒に居る女の子、フェーズって言うんだけど、その娘とも仲良くなれると思うよ」

ソイルは笑顔でうなづき、そのままベッドに横になった。


翌日、レヴィオス、そしてフェーズは、ソイルの家の前に来ていた。

「いいか、魔人の事は絶対に言うなよ?」

「わかってるッスよ、そんなに何度も言う必要無いッス」

レヴィオスのしつこい念押しに、フェーズは呆れた様子だ。

レヴィオスがドアを数回ノックすると、ドアがゆっくり開き、ソイルが顔を覗かせた。

「…あ、レヴィオスさん… どうも」

「ああ、ちょっと話したくてな、そうだ」

ソイルがドアを完全に開けると、レヴィオスはフェーズを前にやった。

「紹介するよ、コイツはフェーズ」

「ヨロシクッス〜」

ソイルはフェーズに軽く会釈し、二人を家の中に案内した。

内装は殺風景で、最低限の家具だけがあった、生活感もまるで無い。

「…随分とシンプルな部屋ッスね」

「はい… 最近は親戚の家に居ることが多いので…」

ソイルは三つの椅子を引き、先に二人を座らせ、自分は反対側に座った。

「………」

「………」

「………」

ただひたすらに沈黙が続く、三人とも、こう言った場で話題を作るのは得意では無い。

その沈黙を破ったのは、フェーズだった。

「外行きましょうッ!!」

机に拳を叩きつけ、無理矢理ソイルの手を引っぱって、玄関まで連れて行く。

「おい!? 何やってんだお前!?」

「レヴィは留守番しといてッス!!」

急に名前を略された事も気になったが、今はそんな事より二人を追わなければ…と、玄関に入って瞬間、ドアが爆音をたてて閉じられた。

「えぇ…」

いや、コレはむしろ好機(チャンス)だ、今のうちに家の中を捜索しておこう、何かがあるかもしれない。

「頼んだぞ、フェーズ…」


フェーズに手を引かれたソイルは、中央(セントラル)商業区のカフェに連れられていた。

二人に挟まれたテーブルには、コーヒーが二つ置かれている。

そしてフェーズは不機嫌そうに頬杖をついてソイルを睨みつけていた。

ソイルはその視線に困り、ずっと落ち着かない様子だ。

「ねえ」

「わっ!? はい!」

「アタシ…魔法は全く詳しく無いんス… 教えて欲しいッス!!」

ソイルはしばらく完全に静止していたが、ふと我に帰ると、深呼吸をして話し始めた。

「ええと… じゃあ、何から聞きたい…ですか?」

「魔力器官についてッス」

「魔力器官…ですか」

(よし…ここで魔力に関する情報を教えてもらって、時間稼ぎもできる… 我ながら最高の発想ッスね!!)


ソイルの自宅を捜索するも、特に目ぼしいモノは無く、レヴィオスは二階へと足を踏み入れた。

「…なんだ?」

瞬間、その異様さを肌、そして目で感じ取った、階段を上がった先には『異様』な長さの廊下が真っ直ぐ伸び、『異様』なまでの量のドアが左右に等間隔で設置されていた。

妙な感覚を抑えつつ、一歩づつ、進む、足の、進みが、遅い。

「…さっきからなんか…身体が重いな…?」

ドアノブに手をかける、亀の如くノソノソと、だがそれが今のレヴィオスの全力だ。

荒く息づきながら、ドアと共に奥へと倒れるように、その部屋へ入る。

が。

「!?」

レヴィオスが居たのは、廊下、正面には、反対側のドア、思わず振り返る。

「おかしい…おかしいぞ…!?」

振り返った先には、たった今までいた廊下… だが、階段が遠ざかっていた、どうやら階段から見て奥の右側のドアに出たらしい。

今居るのは突き当たり、その突き当たりには、ボロボロで、今にも崩れ去りそうなドア、だがそれによってドアノブが壊れているようで、体重をかけても開かない、そもそもドアノブが撚れないのだ。

蹴破れば入れそうだったが、今のレヴィオスにそこまでの力は無い、それに徐々に力が抜けてきている。

「…とにかく、一旦下の階に戻る…!」

と、先程出たドアを開け、入る… しかし、その先は廊下の腹あたり…

「…出る先はランダムって事か…!?」

こうなれば仕方ない、歩いて行くしか無い、重い身体を、もはや引きずっているような状態で、階段まで足を進める。

だが、そこには無かったのだ、階段が。

あるのはドア。

「クソ…どうなってやが…る…」

遂に力尽き、うつ伏せに倒れる。

徐々に意識が薄れていく。

ヤバい…早く…

………

八話です。

これからは土日投稿がメインになります。

本当に申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ