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黒翅ゲノム   作者: 鎌糸
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六話 フォビュラス戦線

捜索後、三人は村内で合流したが、住人も、何も無かった。

「何もねえな…つい最近まで人が暮らしてたとは思えねえ」

レヴィオスが民家の一つを見回す、すると床に扉のようなものが見えた。

「これは…?」

それに近づき手を掛けると、鍵は掛かっておらず、軋みながら開いた。

「なッ…!?」

フェーズはダザムの袖を引き、井戸の元に座り込んだ。

「聞いてもいいッスか?黒翅(くろはね)族と人間の戦争について…」

ダザムは反対側に胡座を描いて座り、真剣に目を合わせた。

「…本当に良いのか?二度と思い出したく無いって言ってたが」

フェーズはこくり、とうなづき、首元を軽く撫でた。

「確かにあの十年間は思い出したく無いッス…でも、どうしてアタシがあんな目に遭わなきゃならなかったのか…それを知りたいんス」

ダザムはしばらく悩み、ようやく口を開いた。

「わかった…その戦争…『フォビュラス戦線』について話そう」

そしてダザムは語り始めた。

フォビュラス戦線、という名前は終戦後につけられた名前で、戦時中は『人翼(じんう)戦争』と呼ばれていた。

今でこそ人間族はこの世界の資源を掌握し、政治経済の、そして四種族の中心として君臨しているが、ほんの十数年前までは、最弱の種族として獣人、魔人、黒翅からの迫害を受けていた。

しかしある時、魔人族の小国が人間によって討ち滅ぼされ、その周りの国も次々と侵略されていった。

人間は牙を研いでいた、何十年と、野心を糧にして。

それによって獣人はほとんど死滅、残り数百人の獣人の行方を知る者は居ない。

獣人の領土を全て手に入れた人間は、魔人を次の標的に定めた。

しかし魔人の貴族や王族は逃走、今もどこかに身を潜めている。

そして最後の狙いとなったのが黒翅族。

だがその戦いは歴史上最大規模のモノとなった。

その理由は、黒翅族の固有魔法『黒翼展開』、彼らはそれを行う事で戦闘形態『ゲノム』へと変質する。

その戦闘能力は計り知れず、半端な魔法や武術で対処できるモノでは無かった。

結果、人間は今までの何十倍という戦死者を出す事となった。

それでも人間の数十年モノの闘気に押され、黒翅族は徐々に追い込まれて行った。

そして十五年前、最後の戦場となったのが、後に人間の国の首都中央(セントラル)となり名となったフォビュラスだった。

それは酷い有様で、さっきまで隣に居た仲間がただの肉片に変わり、そこいらに女子供の焼死体が転がっている、だがそれを見ていちいち感情を動かしている暇はなかった。

やがて人力が不足していくと、どちらも子供を戦場に出すようになった、当時十二歳のダザムも例外ではなかった

訳もわからず放り込まれ、握り方すら教わっていない剣を振り回した、そうでないと死ぬからだ。

唯一救いがあったとすれば、それから数ヶ月で黒翅族が逃亡し、事実上人間の勝利で戦争が終わった事だろう。

「そのあと中央(セントラル)に中央騎士団が設立されて、俺達少年兵は騎士としてそこにブチ込まれた…」

語りをひと段落させたダザムは再びフェーズを見つめた。

「それで、こっからが本題だ、逃亡した残りの黒翅族…つまりお前らのその後…」

人間が世界最大国家フォビュラスを建国してから数ヶ月、黒翅族の逃亡先が特定され、中央騎士団による殲滅作戦が決行、無論、ダザムも参加していた。

もはや民家と言っていいのかすらわからないそれを焼き、殺す、それをずっと繰り返す、まさに地獄、どちらも心を壊すのは時間の問題だった。

やがて黒翅族を全て殺すと、それを焼き払い、騎士団は去っていった。

いくつかの集落をそうやって燃やし、殺してきた。

「だから黒翅族はこの世から消えた…お前を除いて、だ」

フェーズは頭を抱え、吐き気を催したのか、井戸に身を乗り出していた。

「…だから言っただろう」

「おえっ…!いえ…でも聞くッス…」

「…そうか、だが、俺が知ってるのはここまでだ、お前、どうやってウッチマンとかに拾われたか…覚えてるか?」

「…あ」

フェーズが言葉を捻り出そうとした、その時だった。

「フェーズ!ダザム!来てくれ!非常事態だ!」

奥の民家からのレヴィオスの叫びを聞くが早く、二人はその中へ転がり込んだ、そして目撃した。

「!?なんスかコイツ!?」

そこにいたのは、形容し難い、だがかろうじて元が人間であった…という事だけはわかった。

というのも、『ソレ』の姿は、バラバラにした人間のパーツを、元の接合部を無視して滅茶苦茶に縫い合わせたモノだった。

「床下に詰められてた…コイツは…!」

「十中八九…この村の住人だろうね」

住人の集合体は、悲鳴にも似た雄叫びを上げ、四つん這いで、まるで巨大なネズミの様な挙動で向かってくる。

「丁度いい! 黒翼展開でコイツを倒せ!」

ダザムが一歩引き、腕を組みながら二人を見つめた。

「でも、コイツら人間なんじゃ…」

「いや、あのパーツはもう死体だ、何かしらの手段で無理矢理動かされてる」

集合体を見ると、そのパーツの大きさ、太さに差異はあるものの、全て痛々しく変色していた。

「ッ…!フェーズ! やるぞ」

「わかってるッス!」

フェーズがレヴィオスの背に乗ると、二人の背から黒い翼が広がり、二人を包み込んだ。

そしてその翼は集合体を吹き飛ばす様に再び開かれ、二人の変質した姿、『ゲノム』を顕にする。

「…!今回は意識がある…!」

レヴィオスが自身の身体を見回す。

「とっととやるッスよ!戦い方はわかるッスか?」

フェーズが喋っているが、その身体は微動だにしない、どうやら肉体の主導権はレヴィオスにあるらしい。

「ああ…あの時は身体中の羽でカメレオンを切り裂いたのをボンヤリ覚えてる…!」

ゲノムが集合体に掴みかかり、天井を突き破り飛び上がった、そのまま屋根に着地し、集合体を突き落とす。

「アァ…ああああ! あううう!」

集合体は呻きながら地面に降り立ったその鴉人間を捉え、飛びかかる。

しかしその羽が縫い目の一つを捉え、切り離す。

そしてゲノムはすぐさま身を翻し、次々とパーツを切り離して行く。

そうしているうちに、熊ほどの大きさがあった集合体は、頭と胴体、そして右腕を残すのみとなっていた。

頭を鷲掴みにし、持ち上げると、芋虫のようにバタバタと暴れ回る。

「…!?」

ふと、死体の筈の胴体が脈打っている事に気づく。

「どういう事だ…!? 何故切り離されているのに脈がある!?」

一瞬躊躇ったが、どうせ時期に死ぬだろう、残りの頭、右腕を切り落とし放り投げる。

そして胴体を地面に置き、胸に手を当てる、やはり等間隔で脈を打っていた。

すると突然鼓動が速くなっていき、断面にボコボコと肉が膨らむ。

「なんだ!?」

すぐさま距離をとり、いつの間にか隣にいたダザムの方を向く。

「なあ、何が起きてんだ!?」

ダザムは首を振り、ゲノムの肩を持った。

「わからん、だがヤバそうだ、本気でやれ、もし暴走したら俺が止める」

静かに頷き、肉片を見やると、既に四肢と頭の再生は終わっていた。

いや、これを『再生』と言って良いものか、手足はおおよそ人間のものではなく、頭も五、六個程が集まっていた。

ゲノムは地面を蹴り、怪物の脳天に飛びかかる。

そして頭の一つに羽を突き立てると、真っ二つに割れ、その中から手長の赤ん坊が飛びかかってくる。

「ぐわっ!? クッソ…! 気色悪い上に厄介…!」

赤ん坊の両手を切り落とし、次は隣の頭に切り込む。

『レヴィオス! 無闇にやっても無理ッスよ! ほら! さっき割った頭がもう再生してるッス!』

それどころか先程の赤ん坊の顔が増えている、これでは増える一方だ。

『…心臓ッス、多分、さっき脈打ってたし、コイツらが生えてきたのも脈が速くなってからだったッス!』

「成程、心臓を潰せば止まるって事か!」

頭部から飛びあがろうとするが、二つ目の頭の切れ込みから腕が伸び、ゲノムの脚をがっしりと掴んだ。

病人のような細く、白い腕だったが、いくら脚を振っても微塵も力が緩まない。

「ああ! 面倒くせえ!!」

細い白腕を切り落とし、頭部をがむしゃらに切り裂きながら胸元まで下がっていった。

その裂け目から無数の、様々な腕が伸び、ゲノムの背を掴もうと迫っていた。

「オラァ!!」

右腕を心臓のあるあたりにブチ込み、更に右腕で開けた孔に左腕を無理矢理ねじ込む。

そして追い打ちをかけるように両腕を滅茶苦茶に振り回し、怪物の胸元をズタズタに切り裂いた。

怪物は仰向けに倒れ、傷から不気味な色の肉塊が浮き出てくる。

「コイツは…」

ダザムがその肉塊を掴むと、身体と繋がっていた管を刀で切断した。

すると怪物の身体はみるみると枯れ、朽ちていった。

「よし、お前、なんか身体に異常は無いか?」

「ああ…今の所は…ってかとっとと解いた方がいいか」

ゲノムの身体から羽根が徐々に剥がれ落ち、レヴィオスとその背に引っ付いたフェーズが顕になった。

「その…心臓みたいなのは…?」

「わからん、本部に回して解析させる、そしてその住人キメラ…この量からするに、この村のだけじゃ無い…最近の失踪した住人の行方は…コイツだろうな」

ダザムの掌に魔法陣が展開され、水晶の様なものが肉塊を包み込んだ。

「問題は、このキメラを作りやがったのが誰か…って事だ———」

「あれ? やっちゃったの?」

!?

(なんだ…!? さっきまで居なかった、気配もなかった…!?)

突如、三人の間に、身体中ツギハギの、先程のキメラと似たような男だった。

だが、その形は人間を保っていた。

「一歩、遅かったなぁ…折角時間かけて造ったのに…」

気配だけでわかる、格が違う。

「テメェ…コイツを作ったのか…何が目的だ!?」

ツギハギ男、縫血は、冗談めいた笑みでダザムの方へ顔を傾ける。

「言えないなぁ…今はまだ———」

口を開くと同時、ダザムの刀が振り下ろさせる、だが縫血はそれを飛び上がって躱し、肉塊の入った水晶を奪い取る。

「心臓は回収させてもらうよ」

だが縫血の眼前に、投げナイフの如き羽根が現れる。

「うおっ!?」

紙一重で躱すも、数本の羽根が腕に刺さる。

「黒翅族…生きてたんだ」

縫血は羽根の刺さった部分を切り落とし、キメラのパーツを一瞬で縫い付けた。

それに加え、腕を二本、肩に縫い付けた。

そしてゲノムの羽刃、ダザムの刀を受け止める。

「お前、人間じゃねえな!」

「いやいや〜ちょっと裁縫が上手い一般人ですよ〜」

「ッチ… そうやって、無茶に縫い付けた腕を自由に動かしといて一般人は無理があるぜ」

刀が腕に食い込み、縦に切り裂く。

「…やっぱり普通の腕は使い捨てかぁ」

ダザムの腹に蹴りを入れようとするが、受け止められそのまま刃を突き立てられる。

「ふふ…」

縫血は一瞬笑うと、瞬時に身体中の縫い目を解き、バラバラに散らばった。

そして二つの右手がダザムに飛びかかる。

「バラバラになっても動かせんのかよ! 気色悪い!」

ゲノムが大翼を広げ、地面ごとパーツを抉る。

「うわっ! 凄いなぁ! 一瞬で殆ど消えちゃったよ!」

「レヴィオス! 頭をパーツに近づけさせるな!」

頭に向かって急降下するゲノムに、先程までダザムに掴みかかっていた右腕が飛ぶ。

そしてそのまま地面に押しつけ、地面が凹む程に押し込んでいく。

「ッチ… 厄介だな…」

ダザムが刀を地面に突き刺すと、人差し指と中指を立てた。

「『十三番目の死神(デス・サーティン)』」

そう呟くと、ダザムの背後に暗雲が現れ、皮と骨だけの痩せこけた手が四つ、現れた。

「その心臓とやらは回収させてもらうぞ」

六話です。

出来るだけ高頻度で更新したいですが、毎日は少し難しいかもしれません。

投稿日はこの後書きで告知するので、ここを見ていただければ幸いです。

次回は明日(二月二十七日)になります。

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