五話 中央《セントラル》
レヴィオスとフェーズは驚愕の表情で、中央の街並みを見上げていた。
「ここが中央かぁ…でっけぇな…首が痛くなりそうだ…」
そして正面の一際大きい建物の方に入って行った。
「よし降りろ、ここからは歩いていくぞ」
ダザムが車から降り、奥へ歩いて行くので、それについて行く。
「あの…一つ聞きたいんですが…話を聞いた後って俺達どうなるんですか?」
「そうだな…」
ダザムが指を鳴らすと、周りにいた兵士が一斉に銃をレヴィオス達に向けた。
「取り敢えず碌な目にはあわん」
すかさずフェーズを抱え、構える。
「悪いな」
しかしダザムが一瞬でレヴィオスの目の前に飛ぶと、そのまま拳で意識を沈めた。
「ん…?」
レヴィオスが目を覚ますと、妙な空間で縛られていた。
隣を見るとフェーズも同じように縛られており、正面にはダザムが立っていた。
「おはよう、さっきはすまんな」
レヴィオスが舌打ちをし、ダザムに食ってかかる。
「説明しろよ!こっちはタダでさえ色々ありすぎて疲れてんだから!!」
ダザムが溜息を吐き、こちらに手を翳すと、背後から骨の手が現れ、レヴィオスの口を塞いだ。
「とにかく黙って聞け、あと隣を起こせ」
右腕の拘束が解かれたので、言われた通りフェーズを叩き起こす。
「んがあっ!?なん…なんスかぁ今度は!?」
フェーズはしばらく騒いでいたが、レヴィオスと同じく骨の手に口を塞がれた。
そしてレヴィオスの右腕も再び縛られた。
「オマエらがここ…特別尋問に連れてかれた理由はいくつかある」
ダザムが右手の人差し指を立てた。
「一つ、そっちのフェーズってのが絶滅した筈の黒翅族な事」
次に中指を立てる。
「二つ、何故かレヴィオスの身体に羽根がついておらず周りにあるだけだった、ファズは身体中にくっついてたってのにな」
最後に薬指を立てた。
「そして三つ、あの肉片だ、あれは明らかに人間のモンじゃ無かったが…カメレオンのモノだと判明した。」
そして左手で三本の指を掴み、部屋を彷徨き始めた。
「単純に考えればフェーズがやった…と思うが、ソイツがいくら『黒翼展開』を使ったとしても、あそこまでバラバラに出来るとは到底思えない、そして状況から考えられるのが…」
ダザムが部屋の中心にある椅子に勢いをつけて座った。
「『フェーズがレヴィオスで黒翼展開を行いカメレオンを殺した…』って事だ、これが何を意味するか…」
そして先程までと違った真剣な眼差しで二人を突き刺す。
「『多種族の固有魔法を使う事ができる』って事だ…これはデケエ発見だ」
ダザムは捲し立てるように続けようとするが、レヴィオスが何か言いたがっている事に気づき、口を開かせた。
「プハッ…なんでそれがデカい発見になる?実験ぐらいやってるだろ…それに魔力譲渡は魔力操作に慣れてるヤツなら誰でも…」
「いや、問題はそこじゃ無い、重要なのは、他人越しに自分の持つ魔法を発動できるって事だ…確かに魔力譲渡で発動する場合、魔力は譲渡する側からされる側に一方通行で流れる…多分その容量で魔法を流したんだろうが…普通は身体が適合せずに不発…最悪両者とも弾け飛ぶ筈だが…」
フェーズが「はっ…」と目を見開いた。
「そうッス…忘れてたけど…それでレヴィオスはゲノムになってカメレオンをやったッス…」
「ゲノム?」
レヴィオスがフェーズの方を向いた。
「ああ、黒翼展開で変身した姿の名前ッス」
ダザムが「いいか?」と言うので、正面を向き直る。
「そうだ、気絶してる間、二人とも身体を調べさせて貰ったが…特に異常は無かった、レヴィオスは魔力がカスカスなだけだし、フェーズも魔法の出力が低いだけだった…」
「ってな訳で、コイツら中央騎士団に入れるからよろしく。」
「へ?」
「ほ?」
拘束を解かれた二人は、いつの間にかあらぬ方向へ飛んでいった話に困惑していた。
「…ダザム、確かに我々は人材不足だ、だがそんな危険因子を入れる程血迷ってはいない」
困惑で固まるレヴィオスとフェーズ、そして二人の肩をニコニコしながらもガッチリと掴んだダザムに向かい合っていたのは、玉座の様な豪華な椅子に座り、何かを紙に書いている女性だった。
濁った金髪で、その眼や言葉には鋭い印象を受ける。
「そういう事いうなよ〜ジェイル団長…それに計画も練ってある…」
外ズラだけは真剣なダザムに、ジェイルと呼ばれた女は深い溜息をついた。
「はぁ〜…どうせくだらんモノに変わり無いだろうが…聞いてやる、言え」
ダザムが「フッ…」と演説でもするかのように両手を広げた。
「『適当な任務にいくつか当たらせて強さとか危険度とかを調べる』…だ!」
「却下」
電光石火で…もはや被せる勢いで却下を出したジェイルに、ダザムが先程と真逆の落ち着いた様子で机に手をついた。
「そんなに心配しなくていいでしょ、どうせ俺一人でなんとかなるし」
ジェイルはペンを止め、頬杖をついた。
「そうではない、我々中央騎士団のメンツの問題だ、ただでさえ平和続きで兵が鈍っているんだ…その上こんな田舎出身の…しかも黒翅族を入れるなど…『中央も落ちた』と思われるのも時間の問題だ!」
しかしダザムは「クックック…」と不敵に笑い、ジェイルの顎を親指と人差し指で撫でる。
「相変わらず保守的なコトで…でも、そんなんじゃ最強の名が泣くぜ?」
ジェイルはダザムの手を払い、こちらを睨み付ける。
「…いいだろう、試してみろ、近頃ここから少し離れたいくつかの村で住人の行方不明報告が上がっている…それも全ての住人だ…それを解決しろ」
ダザムがニヤつきながら二人の方を向く。
「よし!そうと決まれば早速出発ゥ!」
「ちょ…っと待つッス!?」
「お?」
「アタシ達に行く理由無いんじゃないッスか!?」
ダザムがドアに手を掛け、冷たい声色で言った。
「あるよ、ここで騎士団に入れなきゃ、お前ら実験送りだ」
そしてその声色に勝る程の冷たい眼差しが二人を刺した。
「実験…!?」
そうだ、考えてみれば当然だ。
「ああ…行くよ、それだけは絶対に嫌だ。」
フェーズの手を握り、ダザムと共に部屋を出た。
一人残されたジェイルは、拳を握りしめ、ペンを真っ二つに折った。
「黒翅族…穢れた種族め…!」
中央は広い、二十の区から成り、それぞれが下手な街よりも遥かな面積を持つ。
よって人材の足りない中央騎士団は、中央とその周辺の管理が手一杯で、地方の街は自警団を組む事を余儀なくされているのだ。
そしてその広い中央住民達の移動を助けているのが、鉄道や道路だ。
その鉄道を通る電車の中で、四つの影が向かい合っていた。
その絵面はよくある集団の移動であった。
———彼ら本人の姿と電車内の景色を除いて。
一人は黒いフードを目深に被り、一人は身体中ツギハギで肌の色がバラバラ、一人は顔の半分が焦げ、一人は形容し難い悍ましい姿をしていた。
そしてあたりには無残に引き裂かれ、焼かれ、千切られ潰された乗客達の成れの果て。
「はぁ…やれやれ…あまり騒ぎを起こして欲しくなかったんだけどね…」
フードの男が溜息を吐き、困ったように肩をすくめた。
「いいだろう別に?これでまた新しい作品が作れる…!」
ツギハギ男がバラバラになった乗客の死体を縫いつけながら笑みの隠せない声を震わせた。
「コイツらが悪い…俺達を見るなり『魔人だ殺される』だの好き勝手叫んで…それに全部焼けばいい…」
顔の焦げた男がしゃがれた声で呟くように言うと、ツギハギ男が振り向いた。
「駄目だよ焼灼、燃やし尽くしたら縫えなくなっちゃう」
焼灼と呼ばれた男は、ツギハギ男の縫っている肉片を覗き込んだ。
「なら使う分だけ持って帰ればいいだろ縫血…お前はいつもヒヤヒヤさせる」
そのやりとりの角で、悍ましい姿のモノは死体を貪り喰っていた。
縫血はその内の一つを奪い取り、先程までの肉塊に縫い付け始めた。
「グゥ〜…」
「ごめんね痩壊、代わりにあそこにあるヤツ全部食べていいから」
と縫血が奥の車両を指差すと、痩壊はそこへ向かった。
「話を戻そうか、君達の目的は…『この国を魔人族のモノにする…』だったっけか?」
黒フードの男が地図を取り出す、この国『フォビュラス』が描かれている。
「ああ、その為にこの中央を堕とす…だからお前に協力を仰いだ」
焼灼が頬杖をつき、懐から心臓の様な肉塊を取り出す。
「手始めにいくつか仕込みをした…そうしたら面白いモノがあってな…」
黒フードの男は地図を仕舞い込み、焼灼の方を向いた。
「面白いモノ?」
「ああ…」
と、焼灼は口角を上げながら顔を右手で覆った。
「黒翅族が生きている…アンタにとっては重大な情報だろ?」
黒フードの男は両手を強く握りしめ、狂ったような笑いを上げた。
「ハッハッハ…!そうだな…だがそれには障害も多い…君達が見つけた黒翅族の生き残りもそうだし…何より厄介なのが『中央騎士団』だ」
「中央騎士団?」
「ああ、中央とその周辺を守っている集団さ…もし我々の事が知られれば、総戦力で潰しに来るだろうね」
黒フードの男が中央騎士団のエンブレムを取り出し、それを少しづつちぎって行く。
「だから少しづつ戦力を削いでいくのがオススメだよ」
「そこは問題無い、さっき仕込みをしたと言っただろう?」
焼灼が肉塊を摘み、黒フードの目の前にやった。
「コイツを中央各地にばら撒いた…今頃騎士が任務に当たっているだろう」
そして肉塊を仕舞い拳を握ると、全車両の死体が跡形も無く燃え去った。
「あ〜!!焼灼〜俺のは燃やすなって言ったじゃ〜ん!!」
「悪い、だがもうすぐ電車が止まる、見られたらマズいんでな…そしてお前は痩壊と近くの『心臓』の確認に行け、そして騎士がいたら騒ぎにならないよう殺せ」
「はいは〜い」
縫血が隣の車両に移動し、痩壊を連れ電車の窓から外へ飛び出して行った。
「ここが今回の任務の場所だ」
ダザムに連れられた二人は、森に囲まれた小さな村に来ていた。
「…なんか中央にしては田舎だな…」
「郊外は割とこんなモンだぞ」
「誰も居ないッスねぇ…ホントに全員消えたんスか」
「ああ、これから村の中と周辺を調べる、っつってもジェイルのヤツ、解決しろなんて…よっぽど黒翅族が騎士になるのが嫌らしい」
フェーズが申し訳なさそうにダザムを見上げる。
「…団長サン、なんで黒翅族が嫌いなんスか?」
ダザムが民間の中を覗きながら答える。
「ああ…ジェイルが小さい頃、戦争で黒翅族に両親が殺されたんだ…まあ戦争だ、あの場所じゃそれは当たり前の事だった…まあ、十五年も前の事だ、お前に非は無いぞフェーズ、今はレヴィオスと村の周りを探せ」
「…わかったッス」
フェーズはレヴィオスを追い、村の外へ走って行った。
「十五年前の翅人戦争で黒翅族は全て死んだ筈…奴隷商人に拾われた…?いや…それは無い…奴隷商はフォビュラスの成立と共に全て消えた…」
ふと、ジェイルの元へ行く前のやりとりを思い出した。
『そういえば、フェーズはいつからレヴィオスと一緒にいる?』
『三日前からッス、レヴィオスがウッチマンって奴隷商人にアタシを売りつけられたんス』
そうだ、フェーズは三日目まで奴隷として売られていた、それに他にも何人かいたらしい。
「そして収納魔法…ウッチマンとかいう男…何者だ?」
確かに、アルカやジョピンは中央と数十年分の情報、技術の差がある、だがフォビュラス成立から十年をかけて端から端まで改革が及んだ、そして奴隷契約に必要な奴隷首輪は生産停止、全て破棄された。
「な〜んか、妙な気がするな」
五話です。
一気に情報が出てくるので少し読みづらかったかもしれません。
この世界の種族は三話(多分)で出たように、人間、獣人、魔人、黒翅、の四種です。
シンリンザメなどのモンスターは魔人族に分類されます。
※六話は明後日投稿になります。