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黒翅ゲノム   作者: 鎌糸
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四話 サメ・ハンティング

とある深林の中を、ファズ達ルガは歩いていた。

「なあ、ホントにここか?さっきから全く出てこないが…」

背中に剣を下げた男、ザムが頭の後ろで手を組みながら退屈そうに言った。

「ああ、間違いない、目撃情報や被害報告も多く上がってる。」

ファズは振り向きながらも足は止めず、持っているランタンを左手から右手に持ち替えた。

ファズ、デューザ、ザム、ラクダワラ、そしてレヴィオスの五人は、深林に出没するらしい鮫を狩りに来ていた。

「鮫か…あっしの記憶が正しければ、鮫は魚だった気がしやすが…森にいるってのはなんでも不思議だなぁ」

ターバンで顔を隠したファズと同じくらいの歳の男、ラクダワラは、件の鮫が描かれた紙を見つめている。

しばらくして興味を無くしたのか、紙をレヴィオスに渡した。

「まあ、こんな鉄道も道路も通ってない辺境のド田舎だ、この前だって土に住むモグラを食うウツボがいたし、そういえば、デューザの故郷じゃそういう動物はよく見かけるんだったっけ?」

レヴィオスの問いに、前から二番目を歩いていた赤いローブを羽織った女、デューザが「ん?」と反応し、それから頭に手を当て、思い出すようにゆっくりと喋った。

「あぁ〜、そうだね、モグラウツボは子供の頃よく食べてたし、シンリンザメ…あ、今探してるヤツね、それも昔一回だけ見た事あるんだ〜」

その言葉に、ファズは足を止めて振り向いた。

「見た!?いやお前…そういうのは早く行ってくれよ!?」

ファズがデューザの肩をがしっと掴んだ、しかしデューザは

「だって聞かれなかったし〜」

と気楽そうに答え、ファズに溜息を零させた。

「まあ、取り敢えずこの様子じゃもうしばらく見つからなそうだな…」

と、ファズがランタンを持って木の影から向こうを覗き込んだ。

その時だった。

「もっと深い所に———」

ファズの目の前に、尖ったシルエットに鋭い牙を光らせた生き物…そう、いたのだ。

「シンリンザメ…!?」

そのささやかな呟きを、四人は聞き逃さなかった、即座にそれぞれの臨戦態勢に入り、シンリンザメを取り囲んだ。

「油断していた…まさかいきなり目の前にいるとはな…」

ファズは剣を構え、シンリンザメと正面から向き合っている。

シンリンザメは、陸上だというのにまるでここが海中であるかのように浮遊していた。

「…コイツはデカい…狩りがいがありやすね!」

シンリンザメの背後に立っていたラクダワラは腰の後ろに手を回すと、二本のナイフを取り出した。

「あっしが気を引きやす!その間に!」

そうして持っているナイフの内一本を投げると、シンリンザメの背に刺さり、暴れながらラクダワラへと突進してくる。

それを交わしながらナイフをもう一本投げ、直撃するとすぐさま近づき回収、それをしばらく繰り返していると、シンリンザメの動きが鈍っていく。

「なあデューザ!シンリンザメについてなんか知ってる事ねえのか?」

木の上に待機していたレヴィオスは、隣のデューザに聞いてみたが。

「いや、ボクも昔一度だけ見ただけから、見た目以外は何も知らないよ、でも普通の鮫と習性は同じなんじゃないかな?」

そうしている内にシンリンザメは二人に気づいたらしく、ラクダワラを無視して上方へ一直線に突っ込んでくる。

「やべえっ!魔力反転『土』!」

レヴィオスが木の上から飛ぶと同時に拳を振り上げると、鋼の棒がシンリンザメの頭に直撃し、そのまま真っ逆さまに落ちていった。

「ザム!」

レヴィオスが合図すると、シンリンザメの真下で構えていたザムが、剣を大きく振りかぶった。

「任せろ…ッ!?」

しかしシンリンザメは落下直前で軌道を変えると、再びレヴィオスとデューザに突進して来る。

「マジかよ!?」

「レヴィオス、下がって!」

デューザが杖を取り出すと、そこから赤い魔法陣が段階を踏んで展開されていく。

そしてそこから巨大な火球が発射され、シンリンザメを焼き払った。

「一つ思い出した、シンリンザメを見たあの後、おじいちゃんが言ってたんだ、シンリンザメは森に住む魚だから炎が大の苦手って」

炎に包まれたシンリンザメは地面に倒れた…が、最後の抵抗とでもいうように地面に潜った。

「潜っただと!?」

ザムが剣を地面に突き刺し、刀身に額を当てた。

「………!!ファズ!お前の真下だ!」

それと同時にファズを囲むように鋭い歯が現れる。

「無駄だ!!」

しかしファズは歯を全て剣で叩き切ると飛び上がり、口を閉じたシンリンザメの鼻に剣を突き立てた。

「うおおおおおお!!」

暴れ回るシンリンザメにしがみつきながら、徐々に剣を押し込んでいく。

「今だ!」

ザムが地面を蹴り、剣を横に振り切る、そして頭と胴体を真っ二つに切り裂いた。


「いや〜最近じゃ一番動いたな〜」

丸焦げになったシンリンザメの死骸を乗せた荷車を引いたファズが、夕日から視線を逸らしながら笑った。

「つーかコイツしつこ過ぎんだよ!ラクダワラがずっと刺しまくって俺の鋼も結構な勢いで当たったし、デューザの炎でやったと思ったら地面に潜った挙句刺して切ってようやくだぜ!?」

レヴィオスが大袈裟に手を振り、先程の戦いを表現した。

「ああ、まさかあそこまで深く刺さってなお暴れ回るとはな…しかも俺が切ってからもちょっと動いてたし…」

溜息をつくザムの顔をデューザが覗き込んだ。

「流石は森の魚って感じだね〜、生命力に溢れてるよ〜」

ラクダワラが荷車を覗き込み、残念そうに呟いた。

「はぁ〜、どうせなら食ってみたかったな〜、鮫の鰭ってのは美味いんでしょう?」

ファズが豪快に笑った。

「ハッハッハ!そりゃ確かにな、まあでも、鰭は食えねえがまだ内側の肉は残ってるだろうし、ホームで解体して食おうぜ!」

ファズの愉快な声が、赤と青の空に響いた。

ふと、レヴィオスの視界が朧げとなる。

「あれ…なんだ…」

次第にふらつき、周りの声が篭って聴こえる、そして徐々に意識も薄れていく。

「あ…待って…俺は…俺は…」


「俺は!!」

気づくと、そこはホーム…ではなく、街から少し離れたまっさらな場所だった。

「お、起きたね?」

声の方を向くと、見知らぬ男が焚火にあたっていた。

格好をよく見ると、黒いジャケットに十字のエンブレム…

「アンタ、中央騎士団の人か?」

男は頷き、思い出したように懐に手を入れ、ペンダントを取り出した。

「これ、落ちてたけど、お前の?」

自分の胸に視線を落とすと、何も掛かっていなかった、そもそも何故自分はここにいるのだろうか。

記憶を探り先程までの事を思い出す、そうだ、フェーズと共に魔法を発動し、あの二人を殺したのだ、朧げではあるが覚えている。

どうやら夢で昔の事を思い出していたらしい。

「あ、ファズは!あの…もう一人の男は!?それに、フェーズも!!」

男は落ち着けとでも言うようにこちらに手を翳し、レヴィオスの足元を指した。

そこを見ると、フェーズが静かに寝息を立てていた。

「あの男は俺達が預かった、まだ息があったから先に本部に行かせたよ、今頃は治療を受けてる」

よかった、と思ったがすぐにおかしい事に気づいた。

「いや、アルカから中央騎士団本部のある中央(セントラル)までは、どれだけ急いでも十日はかかりますよ、それとも俺が十日間…?」

男は笑いながら手を振り、薪木を少し動かした。

「ああ、そこは中央の技術力さ」

男が親指で自分の背後を指差す、馬車の様だったが、よく見るとタイヤが木ではなく金属やゴムで出来てる、ボディ部分もだ、いつか新聞で見た事があった。

「それって…もしかして『クルマ』ってヤツか?石炭とかガスで動く…物によっては魔力で動くらしいが…」

「御明察、部下とその…ファズっていったけ?ソイツをもう一台の方に乗せて運ばせた訳だ、そして君達と俺もこれから出発する」

そうして男は側に置いてあったバケツの水で焚火を消すと、立ち上がり車の側面を引っ張った。

するとそこはドアになっていたらしく、手前に開いた。

そして中の椅子に座ると、こちらに手招きをした。

「ホラ、早く来い、置いてくぜ」

フェーズの肩を何度か軽く叩くが、起きる気配が無かったので抱え、そのまま男がやったように車に乗り込んだ。

「そんじゃ、君達を中央(セントラル)まで連れて行く、話を聞かせて貰うぜ」

「あ…」

言いかけるが、止めた。

街に戻って説明を…と思ったが、多分アルカには二度と戻らないだろう、アレ(・・)を思い出すだけで吐き気がしてきた、でも別にアイツらが悪いわけじゃ無い、むしろ被害者だ。

だがあそこに戻ろうという気持ちは湧いてこなかった、二度と戻りたく無い。

男が不思議そうに振り向いた。

「ん、なんだ?」

「いや、なんでもない」

「そうか」

男は正面に向き直り、何かを弄り始めた、すると車がけたたましい音を立てて細かに揺れ始めた。

そして馬車よりも遥かに速く、土の上を走っていった。

「…ん、あれ…ここどこッスか?」

走り始めてからしばらく、ようやく目を覚ましたフェーズが、目を擦りながら辺りを見回した。

「ああ、今、セントラルに向かってる」

フェーズはしばらくボケッとしていたが、ハッと目を見開くと、外に身を乗り出したので、慌ててこちらへ引っ張る。

「おい!?あぶねえって!?」

「あ!ホントだ!?アルカが凄え遠いッス!?」

なんとかフェーズを車内に引き戻し、状況を自分の知る限り話した。

「カメレオンの事について、俺達に聞きたいらしい、あとファズは無事だ」

「へぇ〜、それにしても中央(セントラル)ッスかぁ〜、どんな場所なんスかねぇ〜?」

「そんなに良いトコじゃねーよ、ちょっとモノやら技術やらが進んでるだけでどこも同じだ」

男は視線を変えずに答える。

「そうか…、あ、そうだ、フェーズ…俺らが今乗ってるヤツ…知ってるか?」

レヴィオスが自信に溢れた顔でフェーズに向き直る。

「はぁ〜、車ぐらいアタシの地元じゃ知らないヤツはいなかったッスよ?全くこれだから田舎者は…」

「は?じゃあお前どこ出身だよ」

フェーズはバツが悪そうに口籠ると、ボソッと呟いた。

「ジョ…ジョピン…」

「アルカに負けず劣らずのド田舎じゃねえか!」

ジョピン、アルカ自体と距離は離れているが、同じ辺境の街だ。

「お前ら寝起きとはいえ元気だな、こっちは夜通しで疲れ切ってるっつーのによ」

男が声色を変えずに喋った。

そういえば、何故中央騎士団がここに居るのだろうか。

「あの、名前なんていうんですか?俺はレヴィオス、コイツはフェーズです」

「ああ、俺は『ダザム』だ」

「ダザムさん…というより、なんで中央騎士団がこんな場所に?」

「カメレオンの野郎だよ、最近ここの近辺に潜伏してるのがわかって調べてみたら仲間ごとバラバラになって死んでた、そんで同じ場所にお前らが倒れてたから、今本部に連れてってる、そういやそこの女の子は黒翅(くろはね)族だよな?確か十年前絶滅したって聞いたが…」

フェーズは俯くと、気まずそうに呟いた。

「それは…言えないッス…アレ(・・)はもう二度と思い出したく無い…」

そして頭を押さえてうずくまってしまった。

「あ…悪い、あんま触れて欲しくねえか」

ダザムが申し訳なさそうに言った。

「お前ら二人はべったりくっついて倒れてた、そんで近くに黒い羽根が大量に落ちてやがった、アレは間違いなく『黒翼展開』だった、だがレヴィオス、お前は黒翅族じゃ無い、どういう事だ?」

言葉に詰まる、しばらく黙っていると、ダザムが軽く笑った。

「いや、別に今聞く事じゃねえな…中央(セントラル)についてからじっくり話せばいい」

段々と明るくなっていく空の下を、一台の車が走っていった。

四話です。

自分で書いておいてアレですが、正直序盤に過去回想を持ってくるのはあまりよろしく無いと思うんですよね。

読者はとっとと話を進めて欲しいでしょうし、失敗しました。

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